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泡沫の。  作者: 惠元美羽
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さんじゅうご、


この時代に生まれ落ちて、私と運命的な再会を果たす前の彼はそれはそれは荒れていたらしい。あの頃の記憶を生まれながらにして受け継いだ彼は、その影響の性か人とは少しばかり違った子供であったという。簡単に言えば、冷めた子供。何にも興味を示さず、誰とも関わろうとしなかったその子供は、周囲の大人や子供の誰もから“異質”とみなされた。


『仕方の無いことだ。俺達も皆、似たようなものだったから』


同じくあの頃の記憶を持って生まれた友人は、そう言って苦笑した。


『皆は少しばかり変わったけれど、あいつは本当にあの頃のままだった。触れれば切れる、まるで鋭い刃のようだった』


あの頃を過去として清算できない彼の弱さだと、友人は哀しく笑う。あの頃も今もあんなに優しい彼が、と信じられない私に友人はすっと目を細めた。


『……あなたに出逢う前のあやつはまるでよく出来た人形のようだった。あなたに出逢って、あやつは人の心を知ったのだ。そしてあの日あなたを失って、あやつは再び人の心を失った。ただ一人愛した者を失い、取り残されたその絶望をあなたは知らない』


それがどういうことかわかるか?

静かに問い掛ける友人に、私は何も言えなかった。何と言えばいいのか、わからなかった。


『あの日に交わした約束の通りにここで再びあなたと出逢い、あやつはまた人の心を得た。だが“あの日”の絶望はきっと永遠に消えない。……今はまだ綺麗に覆い隠せているかもしれないが、そんなのいずれ必ずボロが出る。それを、“今”のあなたは受け止められるのか?』


あの頃と同じ瞳をして問う友人は、今も変わらず彼の主なのだと気付いた。

だけど私は?今の私とあの頃の私はきっと違う。あの頃、彼は確かに私を愛してくれたけど“今”の私は彼が求める私では無いかも知れない。それが私はずっと怖かった。だからずっと見ないふりをしていた。


だけど。


『私はあの頃とはきっと違うし、心が特別強いわけでもない……だけど、私が彼を大切に思ってる気持ちは今もあの頃も変わらないから。彼が好きなの。どんな事があっても、それは変わらない。だから、受け止めてみせる……この先何があっても』


そう言い切った私に、友人はひとつ頷いて、背を向けた。


『これだけは言っておく。あやつを変えるのは良くも悪くもいつもあなたなんだ。あなたは時間を超えてやってきて、世界を変える事は出来なかったが、あやつの運命だけはその手で変えた。……それだけは覚えておいてほしい』


いずれあのような形でその言葉の意味を痛感する事になろうとは、その時の私には想像もできていなかった。











運命を変えてしまった女。


(いずれこうなる事を、友人はあの時既に知っていたのか)


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