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さんじゅういち、
夕暮れの中を、二人で歩く。短い時間だけど、一日のうちでこの時間が一番好きだった。線路沿いの道に長く伸びた影を追いながら歩けば、子供みたいだと笑われた。
「まるで夢みたいだよね」
不意にそう言った彼はまるで私の知らない人のような顔をしていて。ああ、あの頃を思い出してるんだなとすぐにわかった。きっと共に夕日を眺めていた事もあったのだろう。こんな時、断片的にしかない自分の記憶が悔しい。覚えてない空白の時間の中で、私は彼とどんな会話をしたのだろうか。
「……ねぇ、いまの私はあの頃から変わった?」
さあね、と笑って彼は少し先へと歩いて、そして振り返る。
「 」
がたたん、がたたん。
通り過ぎる電車が立てる音に掻き消された声は、私に届かず消えた。
聞こえない声。
(それでも笑ってくれるから、傍にいられる)