にじゅうご、
彼女は覚えていないのか、とかつての主である男は俺に尋ねた。その疑問に俺は一言、是と返す。
彼女とこの時代で再会を果たし、そして共に過ごすうちにわかったのだが、彼女はどうやら当時の事を断片的にしか覚えていないようだった。その一方で、俺とかつての主はあの頃の事を全て覚えている。
「……寂しくはないのか」
「まあ、ちょっとは」
誰もが必死に生きていたあの頃の思い出を彼女と分かち合えないのは、正直いうと寂しい。短くも濃密なあの時間には嬉しい事や悲しい事、いろんな事があった。彼女に伝えたい事がたくさんある。
だけど。
「でもあんたなら分かるだろ?……現代を生きていくのに、あの時の記憶を全て思い出すのは酷だ」
あの頃は誰もが生きる事に必死だった。生きるためには……誰かを、何かを護るためには力が必要だった。そうして、たくさんの血と涙が流れたあの時代。
今でも、時おり夢を見る。戦場に立つ、血塗れた己を。
「だから、これ以上思い出す必要は無い」
そう言い切ればかつての主は空を見上げたまま、そうかと満足げに笑った。
「まあ、俺の事を少しでも覚えていてくれたって事が一番嬉しいからさ」
「……惚気か」
「うん」
呆れたように溜め息を吐く彼を笑えば、窓の外から俺の名を呼ぶ声。視線を向ければ、笑顔で彼女が大きく手を振っていた。笑顔で手を振り返す。
「もし彼女がお前の事を覚えてなかったら、どうなってたんだろうな」
「そんなこと、決まってんじゃん!……意地でも思い出させてやるさ。こっちは気が遠くなるような時間、想い続けてきたんだから」
それに例えもし、俺も彼女も記憶が残ってなかったとしても。確信してるんだ、きっと俺達は。
何度でも恋をする。
(それが必然だから)