にじゅういち、
初めて人を殺したのはもうずいぶんと昔の事だ。訓練通りに刃を振るえば呆気なく絶えた命。記憶の中の幼い俺の心は、流れ出る血にもまったくの無感動だった。
主の命のままに動き、死ねと。
“道具”である俺は人の心など持たぬよう、そう教え込まれて生きてきた。だからそれが俺の中の絶対で、唯一の真実だった。……そう、あの人に出逢う前までは。
『何を言っている。お前は人であり、俺の一番の信頼する男だ』
己を道具など言うなと怒る主に、初めて俺を人間として見てくれた彼に、この命の限り仕えてみせようとそう誓った。
『私の帰る場所はね、あなたの隣りなんだよ』
そう微笑んだ彼女が、心底愛しくて。恋しくて。大切で。こんな感情を俺は知らなかった。気付けば俺は彼女を愛していた。無償で二人はたくさんの事を教えてくれて、与えてくれた。
……幸せだった。
腕を振るう度、断末魔が耳をさす。ああ、腕が重い。足が重い。濃厚な血の匂いに酔いそうになりながら、俺はただ体を動かして周囲の命を散らしていく。
この身は主に捧げると誓った。
この心は彼女に全てくれてやった。そして俺は決めたんだ。守る、と。大切な人達をこの手で守る。だから。
まだ、死ねない。
(死んだらなにも守れないのだから)