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にじゅう、
彼らが戦地へと旅立ってから幾月かが過ぎた。戦況は相変わらず良くはないが、なんとか持ちこたえているらしいとの報せに胸を撫で下ろす。女達ばかりの城は、いやに静かに感じると気付いたのはいつだったろうか。
けほ、と乾いた咳が一人きりの部屋に響いた。すっかり温くなってしまったお茶で喉を湿らせて、文机に置いていた筆を手に取る。ぎこちないながらも懸命に紙の上に筆を滑らせて、やっと書けた漢字一文字。
草書体で書かれた昔の字なんて読めないのに、城への定時報告に紛れて届けられた彼からの文。……いわゆる恋文といわれるものへの返文に、と。昔の漢字なんて書けない私が、知恵を絞って選んだその一文字で私の気持ちくらい察してみせてよ。
……できなければ優秀な軍師殿にでも聞くがいいわ。
いとしいとしといふこころ。
(恋文を人に朗読される、その恥ずかしさを知ってちょうだい)