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じゅうきゅう、
どうか許して欲しい、と。
鬼と呼ばれる青年は私にその頭を下げた。
「……何故あなたが謝るのですか?」
「あやつの主であるからです」
誰よりもそなたら二人の幸せを願っていたのに、結局はこうして引き裂いてしまった。そう呟く彼に一瞬目を丸くして、私は微笑む。彼は先発隊として既にこの地を発った。この青年もあと数刻もしないうちに、この地を旅立つ。
「顔を、上げて下さい」
あなたは何も悪くないし、私達は引き裂かれてはいないと笑えば彼は困ったような顔をした。
「此度は負け戦にございます」
「ええ、承知しております」
敵勢力十万に対し、こちらは僅か三万あまり。数の上で不利とわかっていながらも、この国を治めるあの方は戦う事を選んだ。全ては無力な民を守るために。
「皆、全てを承知しております」
そう告げれば彼は今度こそ泣き出しそうな顔をして言った。
「なれば皆とお逃げ下され」
「いいえ」
「何故!?」
だってと微笑む。
「私達がいなくなったら、誰が帰ってきたあなた方をお迎えするのですか」
だからどうか。
帰ってきて下さい。
(そう告げれば彼は深々と頭を下げた)