じゅうさん、
「ほう……それでその方はどうなったのですか?」
きらきらと瞳を輝かせて話の続きをせがむ様は、まるで無邪気な子供のようだ。これが戦場で鬼と呼ばれるほどの人物なんだから、世の中何か間違っているんじゃないかと思う。
「記憶を取り戻した彼はその身の使命を思い出して、大きな斧を片手に再びその地へと戻りました……その梅の木を切るために」
穏やかな午後の日差しの中で語る話としてはなかなか重い物語であるが、目の前の青年は全く気にすることもなくじっとこちらを見つめてくる。
千年の梅の木の精と人間の男の恋物語。数年前に読んだこの物語の結末は、子供心に残酷さを残した。……まさかひょんなことから、そんな物語をこうして語り聞かせるはめになるとは当時の私には想像もつかなかったが、今は昔ほどこの物語が嫌いではないから不思議だ。
「……そして彼の手によって彫られた仏像によって、争いの世は終わりを迎えたとの事です」
いかがでしたか、と問えば似合わなくも難しい顔をして彼は言った。
「気に入らぬ」
「あら、何故ですか?」
私が言葉を紡ぐたびに表情を変えるほど話にのめりこんでいたのに、と私は首を傾げる。彼は拗ねたように呟いた。
「まるでそなたとあやつのような二人でしたので、このような哀しい結末を迎えてほしくはなかったのです」
千年の梅の木の精である天女と人間の男の哀しくも美しい物語。まさかそんな二人に見立てられていたとは思わず、目を丸くした。
「まぁ確かに似てるよね。魂の片割れ、なんてところとかさ」
突然降ってきた声にびくりと肩を震わせれば、話題になっていたもう一人の人物が庭に現れた。先程まですねていた青年が嬉しそうに彼の名を呼び、仕事の労をいたわる。
「んで、さっきの話なんだけどさ。もし俺とこの子がその天女と人間の男だったとしても大丈夫だよ」
「何故だ?」
首を傾げた私達を見て、彼はにかりと笑う。
「だってこの乱世を終わらさせてくれるのはあんただろう?旦那」
「……無論。そなたらの為ならば、乱世をも喰ろうてみせようぞ」
鬼が嗤う。
(そう笑った青年は、確かに鬼に見えた)