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断崖のような法面に鎮座している巨大な溶岩、それは複数の溶岩を下敷きにして、法面から張り出すように聳えている。
太古の昔にどこかから飛んできたか転がってきたと思われるが、この地方には火山の伝説もないので、出どころはまったく不明だが、厳然と存在している。
巨大な溶岩の天端は比較的なるい勾配で、堆積した土の方々から曲がりくねった松が生えている。
無理やり岩の隙間に根を張ってる松もある。
私は裾の岩を掴んで登る。金平糖のようなゴツゴツの表面にはさまざまな苔が張り付いているので、指が掛かりづらかった。
身をよじりながら下敷きの岩まで登ると、隣の岩との間に空間がある。つまりいくつかの岩の上に巨大な溶岩が乗っていて、それが屋根のようになっているのだ。
私は屋根下の洞窟に頭から突っ込み、両手で這うように身体を潜り込ませる。全身が入ったところで座りこんだ。
薄暗いが北側の岩の間から外が見えるので、まったくの闇ではない。
ベストのポケットからヘッドランプを出して、頭に装着する。点灯した途端、すべてが鮮明になった。
そこは二畳ほどのスペースがあり、足元には土が堆積しているが、風通しが良いせいでサラサラの半砂だ。
見上げるとフック形のアンカーが下から打ち込んである。ランタンを吊るすために、かつて私が取り付けたものだ。
入ってきた岩の表面のところどころに、黒っぽい硬い毛がこびり付いている。よく見るとまとまって抜けた毛の塊や、小動物らしきものの骨や、古い木の実の残骸などが散らかっていた。そういえば入ってきた時から、野生獣の独特な悪臭を感じていた。きっと熊が利用していたか、今も利用している跡だろう。
私はベストの背中の大きなポケットから移植ゴテを取り出し、地面に突き立てた。
胸ポケットから小さな鍵も取り出す。
麓まで降り舗装路を歩く、スパイクブーツはコンクリートの上を歩くには不快だ。
午後2時に実家に戻った。居間の縁側のガラス戸を開けて、キノコ満載の腰籠を下ろす。
大きめの籠だから、正味7キロはあるかもしれない。
「まあ、これはいいのが採れたねー」
台所から出てきた母親が、籠を持ち上げてみた。
縁側に新聞紙を敷き、私と母親はキノコを広げた。
「今夜食べれるようにしてやるでね」
母親は土蔵に行き、大きな鍋を出してきた。
キノコのことは母親に任せて、 私は汚れた服装を脱ぎ、シャワーを浴びた。
遅い昼食を食べてから、トランクケースの中の着替えを出し、バスロッドとタックルケースの中身を調べる。
「なんだ、また出かけるんか?」
奥から出てきた父親が、電話の子機を充電器に挿しながら聞いてきた。
「ちょっと山の上の方に行ってくるよ」
私は道具類をレンタカーの後部にしまうと、ハンティングベストを助手席に放り込んで発車させた。