表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

「起きましたか。小さき者よ」


 僕が目を覚ますとフェンがそう言ってきた。

 背中の僕が起きたと何故気づけたのかが、気になる。


「本当のことを言うと、あなたに魔法を教えたくはないのです」


 驚きだった。

 僕が「まほう、つかいたい」と言ったら一つ返事だったのに。


「しかし、これも来るべき日のため。あなたにはそれらに向かう力が必要なのです」


 何の話をしているんだろう。

 フェンはこうして時々、変なことを言うのだ。


「あなたに見せたいものがあります。家に帰るのは少し我慢してください」


「うん」


 フェンは僕を背に、遺跡の裏にある湖が良く見える高台へ来た。

 湖の水面が太陽の光を受け、キラキラと光る。


「きれー」


「ええ」


 2㎞はあるこの場所からでも、水面が透けて見えるほどに澄んだ湖は感動すら覚える。

 彼女は僕にこれを見せたかったのだろうか。


「これだけ美しい湖なのに、不思議なことに生き物はいません」


 たしかに見た限りでは生き物は見当たらない。


「それはこの水が原因なのです。その理由は──あの鳥を見なさい」


 水辺に湖の水を飲みに来ている白い鳥を見た。

 鳥が水を飲むと、鳥の体がボコボコと変形していく。

 鳥の嘴が大きく発達し、白かった羽がどす黒い色へと変色すると鳥は雄たけびをあげた。


 鳥はそのまま目を血走らせてどこかへ飛んで行ってしまった。


「この湖の水は魔素の濃度が異常に高く、生き物があの水を飲めば、怪物へと姿を変えるからなのです」


「へー」


「……ここの魔素全てを使う魔法はどんな魔法なのでしょうね」


「うーん……」


「いずれ分かります。小さき者よ」


 フェンは僕を下ろし、向き直った。

 フェンの瞳を僕はじっと見つめる。


「あなたにはいずれ辛い選択を迫られる時が来ます。

 ですが、あなたは自分の選びたい方を選びなさい。誰もそれを咎めません。

 どちらも選びたければどちらも選びなさい」


「なんで?」


「……神々はあなたを祝福しているのです。

 刻印の宿命からは逃げられない。ならば、自分で乗り切るしかないのです」


「──?どういうこと?」


「いつか分かります」


 本当に、フェンは何が言いたいのだろう。


「帰りましょう」


「えー!まだ見たい!」


「少しだけですよ」


 フェンは僕の背後に回り、僕に腰掛けるように言った。

 フカフカのフェンのお腹はとても心地よかった。


「ねーフェン」


「なんです?」


「なんで僕、ちいさきものってよぶの?」


「そうですね。あなたが自分を理解した時に気づくでしょう」


「よくわかんないね」


 高台から見える向こうの山に日が下がっていくのを見ていると、遺跡の方から大きな爆発音が聞こえてきた。


「?」


「小さき者よ。私に捕まりなさい」


「フェンどうしたの?」


 フェンは何も言わなかった。


 フェンの背にまたがり、遺跡へ戻ると崩れた壁にダロが血塗れで倒れかかっていた。

 何事かと思うと、遺跡の奥でセンセイの声が聞こえた。


「ダロ、何が起きたのです」


「ああフェンか……っ!なんだよお前と一緒にいたのか……よっと」


 のそりとダロが立ち上がる。

 フェンはダロに癒しの魔法を詠唱した。


「導きの天使よ、かの者に癒しの光を──回復(キュアヒル)


 傷だらけだったダロの体がみるみる治っていく。


「ふぅ。引退したとはいえ、流石に応えるな……」


「言っている場合ですか。メリィはどこです」


 メリィ?誰のことだろ。


「おい。その名前は言わない約束だろ」


「それはあなた達が勝手に決めた約束でしょう。私には関係ありません」


 ダロは小さく舌打ちして、僕を抱き上げた。

 何をするんだ。離してくれ。


「あっこら動くな。ほらママんとこに行くぞ」


 ママ?僕の母がここにいるのか?一体どこに。


 ダロは僕を連れて、遺跡の奥へと歩いていく。

 遺跡の奥は祭壇のようだった。

 石の台座の上に、金の杯が置かれていて、中には真っ赤な液体がヒタヒタに入っている。


「センセイ。いたぞ。フェンと遊んでたみたいだ」


 台座の裏にセンセイが何かに向かって祈っていた。

 この世界の神に祈っているのかな。


「ウェル?良かった……本当に……」


 顔を上げたセンセイは泣き腫らした目を擦り、僕の頬を撫でた。


「どしたの?」


「ううん。何でも……何でもないの」


「変なの」


「いつつ……ほらな。センセイ。言った通りだろ?

 まだ、大丈夫だってよ」


 何が大丈夫なんだろう。不穏な会話に僕は顔をしかめる。


「おっと。そうだった、ほれママのおっぱいだぞ」


 ダロが押し付けるようにセンセイに僕を預ける。

 ママ?──なるほどそういうことか。


「ママ。大丈夫?」


「っ!ええ。もうお昼寝はしたの?」


「うーん。まだ眠たい」


「それじゃあ、お布団に行きましょうね」


 センセイは優しく僕を抱き、ベッドへと連れて行った。


「おやすみ、私の可愛いウィル」


 眠たいと言ったが、あれは嘘だ。

 僕の本当の目的は、


「アギーレの火よ、世界に灯を映さん」


 詠唱をするためだ。

 フェンといる時とは違い、体がとんでもなく熱い。

 これは……マズイのか?


 ええい、ままよ!

 僕は人差し指を上に向ける。

 イメージはチャッカマン。ボっと出てくれればそれでいい。

 大丈夫。無詠唱はうまくいったんだ。


「──着火(イグニシオ)


 最後の言葉を言った瞬間に、指に鋭い痛みが走った。

 そして、直感した。

 ──外にやらなきゃ!と。


 指先を急いで窓へ向ける。

 すると、轟音と共に火柱が窓の周りをも抉り取りながら、飛び出していった。

 反動でベッドから投げ出され、僕は床に頭を激しく打ち付けた。


「~~っ!?」


 激痛に悶えながら、ぽっかりと空いた穴を見た。

 穴の先に広がる森には一筋の道が作られていた。

 作ったのはそう、僕だ。


「マジですか」


 燃えつくされた炭の木がポキリと折れた。

着火・・・イグニシオ

攻撃に使うにはあまりにも弱い魔法。

しかし、野宿をする時はマッチなどのように湿気による影響はないので持っていると少しありがたがられる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ