11
「ウェールス……あなたの行いは大変立派ですが、全てが褒められるわけではありません。理由は、聡明なあなたなら分かりますね?」
「はい……すぐに大人に相談すべきでした……」
もし、相手がダロよりも強かったら……僕は死んでいるか、どこかで人身売買されて人としての尊厳が失われていたことだろう。
「ええ。そうですね」
軽率だった。今思えば、さっき会ったばかりのマロンに取り返しのつかない結末を辿らせたかもしれなかったのだ。
自惚れていないなどとのたまい、イチかバチかの賭けに出た。それこそが自惚れであったというのに。
結局僕は転生して力をつけても、この程度だったのだ。親の心を殺したクズ人間に人助けなど100年早かった。
僕は深く肩を落とした。
「ですが、こうして生きて帰ってきてくれた。マロンの代わりに今、私があなたにお礼を言います。本当にありがとう」
シスターバーバラはそう言って柔らかく笑った。
「はい……」
どこか心の中がスッとした。しかし、僕の行った行為は過ちだ。
僕はまた人が傷つく選択をしてしまった。
今日はもう帰ろう。
僕はドラカスさんに取っておいてもらったグレボースを買いに村へと向かった。
「おお!さっきはどうしたウェル坊!珍しく焦ってたじゃねーか。もしかして……あの女の子と喧嘩しちまったか?ぶははっ!お前も子供らしいとこあんな!大丈夫さ。今度、面と向かって話し合いな。案外、目ぇ見て話しゃ分かりえるもんさ」
店の奥からドラカスさんの奥さんが顔を出した。
「あんた……あたしのヘソクリ何に使ったんだい?」
「スーっ……いや、それはあの~。──おい!今良いこと言ったところなんだから水を差さんでくれ!」
丸聞こえの小声に奥さんは血相を変え、ドラカスさんの頭をがっしりと掴み、また店の奥へと姿を消した。
「お代……ここに置いていきます」
それから晩飯の食材をあらかた購入して、家路についた。
センセイの作ってくれたグレボース料理を味わったが、せっかくのごちそうもどこか味気がしなかった。
「美味しいね母さん!」
「そう。良かったわウェル。まだたくさんあるからいっぱい食べな」
「……」
ダロがこちらをじっと見つめてくるが、僕は無視して作り笑いを浮かべる。
作り笑いは前世の頃から得意の技なのでダロが気づけるはずがない。これでやり過ごそう。
友達との会話も、年上の人との会話も常に作り笑いをしていれば、悪い結果になることはそうそう無い。
そして食べ終わると今日はもう疲れたと言って自分の部屋に行った。
体がひどく重く、僕は倒れ込むようにベッドに横になる。
前世から何ひとつ変わっていないな僕は。いけると思ったら他の選択肢が思いつかない。それに困ったらこうやってウジウジ悩む。
自分の嫌いなところを言ったらキリがないと分かっていても止められない。
……ミカはどうして僕に過去を見せてくれないのだろう。早く僕を裁いてほしい。もう嫌だ。一から生まれなおしたい……。
「ウェル……おめーよ」
突然聞こえた声にびっくりして横を見ると、ダロが音もなく、僕のベッドの前でしゃがんでいた。
「今日、魔法使ったよな。俺の魔法感知にビンビン来たぜ。それも俺と練習した魔法だったな。ありゃ一体どうしたんだ?約束したよな、無暗に使うなって」
「……」
話せなかった。変なプライドのようなモノが頭の中で引っかかって言葉を出そうとしないのだ。
「言わねぇと分かんねーぞ?」
「女の子が……変な奴らに襲われてた。多分、人をお金に変えようとしてた」
なんとか引っかかりを取り除き、言葉にする。
「……それで?」
「実力が分からないから驚かせて……その隙にその子を助けようと」
「おお、立派じゃねーか」
「でも、軽率だった」
「あ?」
「もしも、相手が僕よりも数段格上だったら僕は……死んでた。だから」
「あーあーたんまたんま。あのな、ウェル。お前より格上っていうのはこの世界にはそうそういねー。保証する。お前が傷つくと思って言わなかったが正直言ってお前は化け物級につええ。
それにな、お前より格上の人間を相手にさせられる村の人たちの気持ちになれ?あの人たちは何の訓練もしてないんだよ。そりゃいくらなんでも可哀そうだろ~」
たしかに酷な話ではある。だが、この村にはダロやセンセイ、それにシスターバーバラみたいな戦える人間が3人もいる。その人たちに頼った方がリスクは少なくて良いだろう。
「んで?女の子に怪我は?」
「頬をぶたれて、口の中で内出血を起こしてた」
「ほー、そら良かったな」
「はぁ?」
「お前、奴隷が捕まった後、どうなるか知らないだろ?ありゃ胸糞悪いぜ~?
まずはこう……首をギュッと絞めてよ。意識が朦朧としてきたら魔法で叩き起こす。それを何回か続けた後にお薬をズブリで、見事!生きてるお人形さんの出来上がりだ」
子供に話していい内容ではないな。
「そんなことになる前にお前は女の子を救ったんだぜ?落ち込む必要なんざねーの。なんだったらもっと胸を張れ!」
ダロが僕の頭に手を置いた。どこか前世の父さんの手に似た、大きくて暖かい手だった。
「よく助けようって選択したな。お前は凄い子だ」
「僕は……凄くないよ」
「おいおい、謙遜すんなよ。お前はすげーよ。女の子のために悪い奴らに立ち向かった。簡単なことじゃねー。力があっても臆病者には出来ない」
「……」
「──おっ。お客さんだぜウェル。バシッと決めてこい!」
お客さん?一体どこに。
ダロは僕を持ち上げると窓から外へ放り投げた。
「いっつつ……何考えてんだよもう……──っ!?」
お客さんの正体はマロンだった。マロンはうろうろと遺跡の周りを歩き回っている。
「あ」
マロンがこちらに気づき、小走りで近づいてきた。
「あ、あのさ……その……」
「……ほっぺはもう大丈夫?」
「あ、ああ!大丈夫。マリーが治癒魔法かけてくれた……」
「そっか、良かった」
「……ウェールス、だったよね。その、話があるんだ」
言い忘れていましたが、この作品は全体を通して暗いです。
完全に作者の都合です。申し訳ございません。