IF:聖省に勝利した場合
これは「11eyes -Resona Forma-」のリーゼロッテ様ルートでリーゼロッテ様が勝利したけれど秘術に失敗したパターンの話。そういう世界線の話と思っていただけると嬉しいです。
未登場のコルヴァスやらアイナスも自分の勝手なイメージで登場させます。基本、矛盾ないように描いていくつもりですが、『これおかしくね?』とかあったら感想とかで教えてくれると嬉しいです。
「くぅっ! このリーゼロッテ・ヴェルクマイスターの奈落落とし(ケェス・ビュトス)を防ぐとは……。聖省の犬如きが!!」
聖省が大きく動けないこの時期を狙い、目論んだ私の秘術。奈落落とし(ケェス・ビュトス)。それはこの世界の生きとし生ける者を全て抹殺する秘術。人類鏖殺の悲願を叶えるための物だった。
そう――すべてはこの汚れた世界を――偽神が創りしこの世界を破壊し、偽神の作り出した終わりなき闘争の歴史に終止符を打つため!!!
「まだよ……こんなものでは終わらない……終わらせてなるものですか!!」
そう――諦めるわけにはいかない。
今まで流した血。今まで流された涙。そのすべてに報いるためにもやり遂げなければならない。そして何より――
「もう少しだけ待っていて、ヴェラード。あなたの宿願は私が果たす」
私が唯一魂から愛した男の宿願。
その宿願を果たすことだけが私の唯一の望み。
「さぁ……帰りましょうか――」
そうして日本での作戦を失敗した私は自らが結成した魔術結社、トゥーレのあるドイツへと発った――
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「あら、おかえりなさい。リズ」
「ごきげんよう、ソフィア」
ヴェヴェルスブルグ城の一室に入るなり、トゥーレメンバーの一員『嫉妬のソフィア・ミーズリー』に声をかけられる。
魔具の開発と改造に関して言えば右に出る者は居ないと言われる魔術師。彼女の開発した魔具には私も少なからず頼らせてもらっている。
「ねぇ、今日は暇?」
「暇だと答えたら?」
「リズの体。色々弄らせてもらっちゃおうかなーって。ね? いいでしょ?」
「ダメに決まっているでしょう? だいたい、素体ならいくらでもあるんだからそれを使えばいいじゃない」
「それとこれとは別。不老不死であるリズの体だからこそ意味があるのよ。ね? だから、いいでしょう?」
「他を当たってちょうだい」
「ああん。もう、イケズなんだから」
いつものように私の体を弄りたがるソフィアをあしらう。何をされても死ぬ事のない呪わしき体だが、他人に好き勝手されるのはさすがに抵抗がある。
「帰ったのか。リーゼロッテ」
「あら」
私の目の前に立ちふさがる大きな黒い影。
それは、全身を浅黒く彩られた巨体――『怠惰(怠惰)のコルヴァス・メルクリウス』だった。
程よく鍛えられた肉体は彼が魔術師である事を忘れさせるほどに美しい。加えて、その歴戦の猛者だけが持つ瞳の力強さが只者ではないと自身を誇示している。
外見年齢は二十程度。しかし、私程ではないにしろそれ以上の時を生きているのを私は知っている。少なくとも五十年以上前には既に魔術師として活動していたはずだ。
「あなたが出迎えてくれるとは珍しいわねコルヴァス。一体どういう風の吹きまわしかしら?」
「ヴァルターはどうした?」
私の問いには答えず、逆に問いを投げるコルヴァス。
「傲慢の坊や? なんだ、まだ戻っていないのね?」
「とぼけるな。お前はヴァルターが発った後、同じように日本へ発った。あんな島国へな。何かしら関連性があると疑うのは当然だろう?」
「ああ、そういう」
ヴァルターというのは私たちトゥーレのメンバーだ。『傲慢のヴァルター・ディートリヒ』。その魔術師には不足しがちな行動力に目をつけ、私がトゥーレへと入隊させた人物だ。
確かにヴァルターは私が日本へ発つよりも先に日本へと向かった。コルヴァスが勘ぐるのも無理ないのかもしれない。しかし――
「あなたの誤解よ、コルヴァス。私は私の目的のために日本へ行ったの。それとあの坊やの事は無関係。あの坊やが何の目的で日本へ向かったのかも知らないし、生きてるのか死んでるのかすらも分からないわ」
「……本当か?」
「何? ……殺る気?」
「………………」
一触即発の空気。コルヴァスを敵にするのは避けたいが、いざとなればやるしかない。
しかし、そんな私の心配は杞憂に終わった。
「いや、少し気になっただけだ。そもそも、奴は君が見出した人物だ。そんな彼を君が進んで消すとは思えないからね」
「そもそもリズがヴァルターを殺ったって別にみんな何も言わないだろうしねー。隠す意味もないわ。だけど……二人の戦いが見れなかったのは少し残念。死んだ方の体を思う存分弄れるかと思ったのに」
「あなたもぶれないわね……。そもそも、エメラルド・タブレット持ちの私たちが争えばそれだけで大惨事がおきるわよ? 他に何か思う事はないのかしら?」
「んー? 面白そう?」
「「ふふっ」」
どこかずれているソフィアの様子に失笑する私とコルヴァス。まぁ、魔術に傾倒する者は少なからずどこかずれている。それは私やコルヴァスも例外ではないだろう。
「まぁヴァルターの事だ。簡単には死なないだろう」
「そうね――」
それは同感だ。あの坊やの事は私も認めている。そんなあの子が簡単に死ぬとは思えない。
「話はそれだけかしら? それなら私は――」
これで失礼する――と言う前にバァン! と扉が開く音が聞こえた。
「おぉ、リズ、リズ!! リーゼロッテ・ヴェルクマイスター!! 帰ってきたのかい? さぁ、疲れているだろう。座り給え。とりあえず紅茶でもいかがかな?」
厄介なのが来た……そう思わずにはいられなかった。
「ごきげんようアイナス。せっかくだけれど、遠慮しておくわ。日本での儀式は聖省の邪魔が入って結局失敗。また一から最適な霊脈が通っている場所を探さなければならないのよ」
「それならば微力ながら、私も手伝おうじゃないか! もっとも、私には私の研究がある。すべての時間をそちらにそそぐことは出来ないが――」
「なら、あなたはそちらの研究に取り組んでいればいいでしょう? はっきりと言えばいいでしょう? この身を味わいたいと――」
「話が早くて助かるよリズ! 私は君の体を味わい尽くしたい。この身が唯一触れられる異性であるその体をね。そして私の眷属を増やすため、君の不老不死の肉体はとても魅力的な物に映るのだよ」
「そう」
「それで、どうかな?」
「お断りさせていただくわ。前も言ったでしょう? この身、この魂はあの人の物。他の誰にも触れさせるつもりはないわ」
そう――この身、この魂は全てあの人――ヴェラードの物。彼だけに捧げる。彼だけに捧げたい。
この汚れ切った体でも受け入れてくれたヴェラード。
彼以外にこの体を触れさせるくらいならば、地獄の業火に焼かれ続けたほうがいくらかマシだ。
「ふぅ――また昔の男の話かい? リズ、悪い事は言わない。そんな男の事はもう忘れたほうが良い。悠久の時を生きる僕たちが有限の時しか生きられない矮小な人如きをいつまでも思い続けるなど――うっ!」
有限の時しか生きられない矮小な人?
お前が――お前風情がヴェラードを語るなど……笑止!!!!!
「思い続けるなど……なにかしら? アイナス」
私の殺気を浴びて言葉を止めるアイナス。それ以上ふざけた事を言うようなら……殺す!!
「ふっ。そうだったね。確か君の持論は人は有限の時を生きるからこそ美しい――だったか。ああ、失敬。先ほどの言葉は撤回するよ。もちろん、君の想い人を愚弄した事についても謝罪させて頂こう」
そう言って恭しく頭を下げるアイナス。
「ふん」
この男はトゥーレのメンバーである『暴食のアイナス・レーベンハイト』。かなり特殊な事情のある魔術師だ。
いや、魔術師と呼ぶべきかどうかも怪しい。
その正体は『闇精霊によって構成された半径数kmに広がる霧状の人造生命体』だ。