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99.加速器

 廃坑に到着した後、俺はエマだけをつれて、他のみんなは表に置いて、廃坑の中に入った。

 長年人が立ち入ってない廃坑は光源とかまったくなかったから、燃え盛る紙人形を出しておくことでたいまつ代わりにした。


『このレールにそって進めばいいのでしょうか』

「そういう話だったな」


 俺はエマと一緒に、坑道の奥へ伸びていくレールに沿って進んでいった。

 レールは長い間使われなかったからすっかりさび付いてて、ところどころかけたりしている。


『――っ! シリルさん!』

「うん」


 エマが叫んだのとほぼ同時に飛び出していった。

 同時に、俺の耳にパサパサパサ――という何者かの羽ばたきの音が聞こえてきた。


 何かがこっちに向かって飛んでくる、それをエマが察知して飛びかかった。

 俺はその場に立ち止まって、エマを見守った。


 戦闘を得意とするスメイ種。

 彼女が真っ先に飛び出したのだから、俺は控えて、様子見することにした。


 代わりに炎人形を増員して、周りを照らした。


「コウモリか」


 必要以上に明るくなったところで目が捉えたのは、坑道の奥から大挙して飛んでくるコウモリの姿だった。

 サイズは相当なもので、大人の男の半分くらいはあるという巨大さだった。


 それが数十匹、一斉に飛んでくる。


 迎え撃ったエマは、俺が作った竜具をつけて、鋭い爪を振り回した。

 図体がデカいだけのコウモリと、竜騎士ギルドに所属している百戦錬磨のドラゴン。


 戦いは火を見るより明らかで、エマはあっという間に、数十匹のコウモリを倒しきって、全滅させた。


『ふぅ……』

「お疲れ。怪我はなかったか?」


 声をかけつつ、近づく。

 エマは振り向き、ぱあぁ、と顔が華やいだ。


『大丈夫です! こんなのには負けません!』

「そうか?」

『はい! シリルさんのドラゴンですから。こんなのに負けたらシリルさんの名前に泥塗っちゃいます。それは絶対にしないです』

「そうか。その意気込みは嬉しいけど、無茶だけはしないようにな」

『はい!』


 コウモリを一掃して、俺達は再び歩き出した。

 奥へ奥へとすすんでいくと、ちょこちょことコウモリが現われ、襲いかかってきた。

 その度にエマが飛びかかって、一人でコウモリを倒していった。


「うちに来たときよりも大分強くなったな」

『シリルさんのおかげです。竜具もそうですけど、シリルさんがすごく優しくしてくれるから体調もよくなって体がいつも軽いです』

「うん、それはよかった」


 むしろそれが一番いいことだ、と俺は思った。

 ドラゴン全般に言えることだけど、エマみたいなスメイ種には特に大事なことだ。

 戦場に赴くスメイ種にとって、体調はそのまま生死につながる大事なところだ。


 いつも体調がいいというのは、俺がやってきたことに対しての一番の褒め言葉になると、ほんのり嬉しくなった。


 そんな感じでエマと歩いている内に、狭い道から一気に開けた部屋にやってきた。


 部屋は貴族の屋敷にあるパーティーホールくらいの広さで、地面からにょきにょきと、尖った柱のような形の岩がせりあがっている。


『これって……?』

「タケノコ鉱ってやつだな」

『タケノコ鉱……』

「岩の植物、と言われることもある。この中には大地が吸い上げて、凝縮した何かの鉱石が入ってる」

『そうなんですか?』

「タケノコ鉱は再生鉱の一種だ。時間をおけばこうして大地が鉱物を再生するから待てば確実に採れるけど、人間の手で量をコントロールしにくいのがデメリットだ」

『そんなに詳しいなんて、さすがシリルさんです!』

「クリスからの受け売りだけどな」


 俺は肩をすくめておどけつつ、タケノコ鉱の一本に近づき、殴ってそれを割った。

 石のタケノコが割れて、なかからボロン、と鉱石が転がり出した。


 俺はそれを拾い上げて、まじまじと見つめる。


「ツタンだな」

『そうですね。私も割っていいですか』

「ああ、やってみて」

『はい!』


 エマは大きく頷き、爪を構えてタケノコ鉱を引き裂いた。


 ズバッと切れた石のタケノコから同じようにボロン、と何かがでてきた。

 鉱石がでたのだが、出てきたそれを見て、エマは不思議そうに小首を傾げた。


『あれ? なんかさっきのより汚いです』

「クズ鉱だな」

『クズ鉱?』

「タケノコ鉱は大地がなにか一種類の鉱石を吸い上げて凝縮するものだけど、ツタンとかナガとか、そういう使える以外のものだとこんな感じでクズ鉱になってしまうんだ」

『そうなのですね。大地もちゃんとしたらいいのに』

「まあ、クズ鉱ってのも人間の尺度での話だから。大地は普通に、同じものを集めてるだけだ」

『なるほど』

「さて、手分けして片っ端から割っていくか。ツタンとナガは見て分かるか?」

『はい! おぼえました』

「じゃあ割って、ツタンとナガを一カ所に集めよう。たのむ」

『はい!!』


 意気込むエマと手分けして、タケノコ鉱を片っ端から割っていった。

 割ったり引き裂いたりすると中から何かしらの鉱石が出てくるから、福引きみたいな感じでちょっと楽しかった。


 体感だが、ツタンとナガがそれぞれ一割、残りがクズ鉱って感じだった。


 途中からちょっとだけ作業感になりつつ、割っていく。


「ん?」


 ふと、部屋の奥に何か人工物を見つけた。

 灯りが行き届かなかったところにあるそれは、そこそこに大きい、円形の何かだった。


 「U」の字の溝になってるコースのようなものだ。


 俺はそれをしばらく見つめた。


『シリルさん? どうかしたのですか』

「ああ、これを見てたんだ」

『これは……なんですか?』

「うん」


 俺は頷きつつ、コースのまわりをぐるっと回ってよくよく観察した。

 エマも俺の後ろについてきて、コースを観察した。


 ふと、コースに何かの装置があるのに気づいた。

 装置の前に立ち止まって、見つめる。


「なんだろこれ……」

『さあ……』


 ふと、エマの口からぼろりと、鉱石が落ちた。

 採鉱してそのまま持ってたものだろう。


 ドラゴンは前足を腕の様に使えるものもいるが、ものを持つときは大半は口を上手く使ってする。

 そうやって口で持っていた鉱石がコースの上に落ちた。


 すると……鉱石が転がり始めた。

 数個の鉱石が、左右に分かれて転がりだした。


『すみませんシリルさん、すぐに拾います』

「いや、ちょっとまって」


 俺はエマを呼び止めた。

 そのまま、鉱石が転がるのを見守った。


 転がるのを見て初めて分かった。

 コースは斜めになっていて、球状のものなら速度をあげて転がっていくような作りになっている。


 そういう意味で水路に近いかもしれないな、と追いかける速度をあげつつ思った。


 そして、左右に転がっていった鉱石が、円形のコースということで、反対側で合流して、ゴツン、とぶつかり合った。


 斜めになってる――坂になってるコースで加速した鉱石は、お互いが少し欠ける位のスピードでぶつかった。


「……なるほど」

『え? なにか分かったのですかシリルさん』

「ああ、ちょっとやってみるから、ここで見ててくれ」

『わかりました!』


 応じるエマをその場に置いて、俺はぶつかった二つの鉱石を手にとってひきかえした。


 円のコースの反対側、さっきの装置があるところに戻ってきた。


 装置の前に立つ、装置そのものの使い方はわからないが、何をするものなのかは察した。


「変身」


 竜人に変身して、二つの鉱石を転がるのではなく、竜人のパワーで転がした。

 すると、二つの鉱石はものすごい速度で左右に分かれていって――やがてエマの前でぶつかり合った。


 コースの加速効果とあいまって、ただ俺が投げつけたよりも早い速度でぶつかった。


 俺はゆっくりと、エマのところに戻ってくる。


「どうだった?」

『さすがですシリルさん! これって鉱石を融合させるための装置だったんですね』

「そういうことみたいだな」


 頷き、コースを見る。

 なるほど、採鉱したところでそのまま加工するためのコースだったんだな。

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