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91.ハゲとたまご

『結論から言うと――出来る』


 パーソロンの中、表でごろ寝しているクリスが俺の質問を聞いて、そう応えた。

 もどってきた俺とジャンヌは寝っ転がってるクリスと向き合ってる形になって、ジャンヌは俺を、俺はクリスを見ている。

 そんな俺は、クリスの返事にちょっと眉をひそめた。


「出来るのか……」

「本当ですか!? やりましたねシリルさん!」


 俺のつぶやきから、いつものようにクリス(ドラゴン)の返事の内容を読んだジャンヌが興奮気味に言った。


「いや」

「え? 他に何かおっしゃってたんですか?」

「いや、何も言ってない。だけどクリスは『結論から言うと出来る』っていった」

「えっと……それで何かがまずいのでしょうか」


 ジャンヌは困惑気味に聞いてきた。


「結論からいう――なんてのはクリスにしてはまわりくどすぎる。出来るけどいろいろと問題がある、ってことなんだろうな」

「あっ……」


 ハッとするジャンヌ、そして一呼吸遅れて、クリスが天を仰いで大笑いした。


『くはははははは、さすが我が心友、洞察力が素晴らしい』

「あれだけ行間にものを挟みまくれば察しもする」


 大笑いするクリスとは対照的に、俺は微苦笑した。


「それよりも『行間』を説明してくれ」

『うむ、よかろう。方法は二つある』

「ふむ」

『竜具を使うことだ。人間が定めた等級で言うところの――ユニーク竜具だな』

「ユニーク竜具……コレットに買ってやったあれみたいなものか?」

『うむ』


 クリスは笑顔、満足げな顔ではっきりと頷いた。


『人間基準のユニーク竜具というのは、ドラゴンの肉体に変化を与えるもののことをいう』

「ああ……」


 俺はなるほどと頷いた。


 コレットに買ってあげたユニーク竜具、それはコレットがいくら胃袋の中にものをいれても、体は膨らまないようにするものだ。

 言い換えれば、クリスがいう「ドラゴンの肉体に変化を与えるもの」だ。


「たしかに、俺が作る竜具はそういうのがないな。全部が『装備』タイプだ」

『うむ』

「なるほど……ドラゴンの肉体に変化を与えるタイプのユニーク竜具、そういうのなら卵を産めないドラゴンを産めるようにする事ができるわけだな」

『そういうことだ』

「……」

「何か気になることがあるのです、シリル様」

「ああ。クリスはユニーク竜具ならいけるって言った」

「はい、そうみたいですね」

『くははははは、厳密にはユニーク以上のものだな』

「後出しで情報出すなって……まあ、話は変わらないけど」


 俺はペチッとクリスを叩きつつ、ジャンヌに改めて向いた。


「ユニークとは言え竜具でどうにか出来るんなら、マスタードラゴンがそこまで大事にされてないだろ」

「あっ……たしかに……」


 俺が気づいたことに、ハッとしたジャンヌ。

 彼女も、マスタードラゴンの事を知っているからハッとなった。


 マスタードラゴン、それは卵を産めるドラゴンの事だ。


 マスタードラゴンは二種類の卵を産む。

 交配をしないで産んだ卵は問題なく孵化してドラゴンになるが、その場合生まれたドラゴンは卵を産むことが出来ない。

 交配して産んだ卵で育ったドラゴンが、新しく卵を産む、子孫を残すことが出来る。


 そういう、子孫を残すことが出来るドラゴンの事をマスタードラゴンというのだ。


 そしてマスタードラゴンは、一部のブリーダーに独占されて、大事にされているという。


 もしも竜具で簡単に普通のドラゴンがマスタードラゴンの様に卵を産めるのなら、マスタードラゴンはそこまで大事にされてないだろう。


『くははははは、そういうことだ』

「あってもどこか独占してるだろうし、そもそもうちの『種』にあうものが存在してるのかも怪しい。ユニーク『以上』なんだろ?」

『その通りだ。人間の分類だとレガシー――いやレジェンド級だな』

「字面だけで手に入らなさそうな雰囲気しかしない」

『くははははは』

「もうひとつの方法は?」

『うむ、安心するがいい心友。こっちは我だけが持っている知識だ』

「それを先に言え」


 俺はまたペチッとクリスを叩いた。


「コレットがお前に噛みつきたくなる気持ちが分かったよ」

『くははははは』


 クリスはまた楽しそうにわらった。

 ひとしきり笑った後、俺を真っ直ぐ見つめて、話し出した。


『神の雫というものを使えばよい』

「神の雫……」


 つぶやきつつ、ちらっとジャンヌを見る。

 ジャンヌは静かに首を横に振った。

 彼女()初耳ということだろう。


「それはどういうものなんだ?」

『うむ、一言でいえば、生物としての機能を無くした器官を再稼働させるものだ』

「ふむ?」

『分かりやすく言えば、ハゲの頭に塗り込むとふさふさになるという夢の代物だ』

「ドラゴンよりも遙かに高く売れそうなアイテムだな!!」


 クリスの「ものすごくわかりやすい」説明に、思わず大声で突っ込んだ。

 本当にそんな効果があるんなら、入手してハゲの大貴族に売って、その金でマスタードラゴンを買った方がいい――とさえ思う。


 それくらい、頭事情は男子には大事なことなのだ。


「まあ、でも。なるほどな……普通のドラゴンにも卵を産む機能がある。それがとまっているのを、神の雫で復活させるってことだな」

『そういうことだ』

「話は分かった。それだけのものなら……探すの大変なんじゃないのか?」

『うむ。まずはトタンを探すがいい』

「トタン? ジャンヌ、知ってるか」

「トタンですか? 金属の?」

『くははははは、それだ』

「それらしい」

「それでしたら……黄金と同じくらいの価値ですけど……」


 そう答えるジャンヌの顔には、はっきりと困惑の色があった。


 ……そりゃそうだ、俺も今困っている。


 神の雫――クリスの説明が本当なら、ものすごい代物だ。

 それの材料になるかもしれないものが、黄金「程度」の価値しかないのは驚きだ。


 クリスを見ると、笑顔のままだ。


 どうやら……それで間違いないみたいだ。


 …………本当か?

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