87.ドラゴンにだけ優しい
「……よし、じゃあ紋章、作るか」
少し考えた後、俺は小さく頷き、決意した。
『ほう、よいのか心友よ』
「ドラゴンからしたらいいんだろ? そういうふうに紋章をつけるの」
『うむ、そうだな』
「だったら作らない理由がない。ドラゴンと人間の美意識は違うし」
『ふむ』
「話が通じないならともかく、通じてるのにこっちの常識を押しつけるのは道理に合わない」
『くははははは、なるほど。さすが心友、そこらの凡夫と違って器が大きい』
「褒めすぎだ。というか、そもそもうちは『ドラゴン・ファースト』だから、そうしてるだけの話だ」
『謙遜することはない』
クリスは更に大笑いした。
人間の姿でへそのあたりに紋章がある姿は、見ている俺からすれば「ちょっとどうだろう……」な感じだから、さりげないところで擬態を解いて元に戻した。
『では頼むぞ心友よ。ああ、ツンデレ娘は心友の贈り物を嫌がってるようだから除外してもよいぞ』
『べ、別にいやだってゆってないじゃん!』
『くははははは、そうかそうか』
『お願いします、シリルさん』
エマがそう言い、他のドラゴンたちが一斉に俺を見る。
俺は小さく頷き、髪の毛を抜いて、手に握って念じた。
頭の中でイメージして、手の平の中にある髪の毛にふっ! と息を吹きかける。
エネルギーが取られ、髪の毛が竜具に変化する。
それは様々な形だった。
リング、ブレスレット、ネックレス――様々な形になった。
レアとシャネルはリング、エマとコレットはネックレス、クリスはブレスレット――と。
それぞれにあった竜具になった。
それを配って、みんなにつけさせる。
すると、全員の体に、ドラゴン・ファーストの紋章が表れた。
「どうだみんな」
『ぴったりです、ありがとうございますシリルさん!』
エマがそう言い、他のみんなも似たような、嬉しそうな表情をした。
ルイーズだけ寝てるけど、彼女には後で渡そうと思った。
『おとうさん、みてみて』
『……ぶーん』
レアとシャネルの二人が特に上機嫌で駆け出した。
走ると、紋章が残光を曳いて更に綺麗に映る。
全員の紋章がそういう仕様だが、レアとシャネルが特にそれを気に入った感じだ。
なにしろレアたちだけじゃなく、コレットやエマたちも、自分の体についた紋章を嬉しそうに見つめているのだ。
全員が気に入ったみたいで良かった、と思った。
『さて、これからどうするのだ心友よ』
一方、生物として超越した存在であるためか、嬉しさもそこそこのクリスが一人話しかけてきた。
「どうするってなにが?」
『我はよく知らんが、商売をするのも戦略が必要なのだろう?』
「ああ……でも戦略がいるほどの規模じゃないし」
俺は、表情がニヤニヤとニコニコの間を行き来してるコレットをちらっと見た。
「とりあえずは作って、コレットに運ばせて。作ってまた運ばせて……を繰り返すだけだ」
『ならば我から提案だ。しばらくは武器を中心につくってみないか』
「武器か……いいけど、なんで?」
『理由は簡単、武器は消耗品だ』
「なるほど」
俺は頷いた。
それは、俺でも分かる話だ。
長く使い続けるものだったら一回買ったら当面買い換えないが、消耗品は安定して需要がある。
そこを狙うというのは戦略の一つとして、俺でも理解できるレベルでの「あり」なものだ。
『ドラゴンから直接需要を聞いて、オーダーメイドで対応できる心友の武器は素晴らしい。瞬く間に他の竜具を駆逐するであろうと容易に想像できる』
「そんなに甘いもんか?」
『くははははは、心友は自分を過小評価しすぎる。紋章の件しかりだ。「あれはおかしい」ではなく、「なるほどそうきたか」と思えるのはそれだけでとてつもなくすごい事だ。特に人間のような生き物にはな』
「……ふむ」
そういうものなのか、と小さく頷いた。
『だから、武器をつくって市場を制圧するといい。面白いぞ? 武器の占有率を握ってしまえば、大半のギルドは心友に逆らえなくなる』
「ああ、なるほど」
それはいい事だ、と俺は思った。
消耗品でもある武器を俺の作る竜具で浸透させておけば、俺からの供給断を恐れてケンカしようとは思いにくくなる。
うん、それは大きい。
「ナイスアドバイスだ、ありがとうクリス」
『くははははは、なんのなんの』
「……クリスのおかげで、アイデアを一つ思いついた」
『ほう? なんだ?』
「リントヴルムにもそうしよう。なんなら出来のいいものを優先的にまわす位の勢いで」
『……くははははははははは!』
一瞬の間が空いたあと、クリスは盛大に、普段よりも数段楽しそうに高笑いした。
『うむ、よい、よいぞ。さすが心友、人間には手厳しい』
クリスは一瞬で理解してくれた。
あくまで、性能のいい竜具を提供するだけ。
それでとりあえずは、リントヴルムのドラゴンたちが戦いに赴いても生存率は上がる。
その事で困るのは、主にリントヴルムの人間達だけ。
『面白いぞ心友』
クリスは、いたって俺の思いつきを気に入ってくれたようだ。
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