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86.名札代わりの紋章

 夜、拠点パーソロン。

 城に帰ったジャンヌを除いて、ギルドメンバーが勢揃いしている。


 ルイーズ、コレット、エマ、クリス、ユーイ、レア、シャネル、そして新参のパトリシア。

 全員が竜舎の中に集まっている。


 ちなみにパトリシア一人で、他の全員合わせたのと同じくらいのスペースを取っている。

 近い内にパトリシアのための竜舎を建ててやらなくちゃな、と思った。


 そんな中、俺は状況を説明しつつ、コレットの方を向いた。


「というわけで仕事が増えるけど……いいかな?」

『どうすればいいの?』

「俺がパーソロンの中で生産した竜具を、ボワルセルのシャドーロールに届ける。あとは鉱石の時と同じ、荷物を下ろして代金を受け取って帰ってくる」

『ん、だったらオーケー』


 コレットは頷き、受け入れた。


「ああ、それともうひとつ。コレットに新しい竜具を作ろうと思う、見た目だけのヤツだけど」

『なんで?』

「俺もシャドーロールのエンリケから聞いて驚いてるんだけど、コレットがすっかり有名人なんだよ」

『はあ? なんであたしが?』

『くははははは、知らぬは本人ばかりなり、というヤツだな』

『あんたは知ってるっていうの?』

『無論だ。心友の飛躍を考えればおのずと想像がつく』

「さすがだなクリス。俺は言われるまで全然気づかなかった」

『くははははは、心友は相変わらず自分の事となると無頓着だな』

「そうかも」


 俺は微苦笑した。クリスも更に笑った。


 話が脱線したことで、コレットがむすっとして、光の速さでクリスにがぶっと噛みついた。


『笑ってないで説明してよ』

『くははははは、よかろう。心友が今や時の人、有名人なのはわかるな』

『それで?』

『その心友が飼っているドラゴンが、心友の調教で単身でも仕事をこなせる。竜騎士無しでも働けるドラゴンなんて――という事で心友の手腕と、その心友が調教したドラゴンであるお前がすっかり有名になったのだよ』

『そうなの?』


 噛みつくのをやめて、こっちを見るコレット。


「ああ、そうらしい。というかクリス、あまり調教調教いうのどうかと思うけど」

『まわりの人間が思ってることをそのまま言ったまでよ。それに』

「ん? それに?」

『調教の方が嬉しい者もいるかもしれないしな』

『ーーっ! がぶっっっ!』


 クリスの言葉に反応して、さっきよりも更にすごい勢いで噛みついた。

 下手な野獣とか人間とかだとそのまま噛みちぎられてもおかしくない勢いだが、不老不死かつ不死身であるクリスには当然のごとく効かなくて、クリスは楽しげに大笑いしていた。


 それは我が家『ドラゴン・ファースト』ではなじみの光景で、本来ならみんなが「またはじまった」位の感じなのだが。


『あのぉ……、止めなくて……いいんですかぁ』

「ん?」


 振り向いた先で、パトリシアがあわあわしていた。

 俺は「ああ」と納得した。

 新しく加わった彼女だけ、このやり取りに慣れてないのか。


「大丈夫だ、あれはただのじゃれ合いだから」

『そ、そうなんですかぁ?』

「ああ見えて仲良しだ。なんだったら恋人同士のスキンシップくらいの感じだ」

『ーーっ! ち、ちがっ――あんたのせいでがぷっっっっ!』


 思いっきり反論しようとしたコレットだが、何故か更に勢いつけて、涙目でクリスに噛みついた。


『くははははは、罪作りだなあ』

『うぅぅぅぅぅぅ!!』

「まあまあ」


 別に放っておいてもいいんだけど、まだ慣れてないパトリシアが困ってるから、俺は二人を引き離して、コレットを止めた。


「話を戻すけど、そういうわけだから、コレットは今やうちの『顔』だ」

『あたしが……顔』

「コレットも見られるんだから、見た目特化の竜具でおしゃれした方がイイって思ったんだけど……どうかな」

『そういうこと……べ、別に。そういうことならしてあげてもいいわよ』

「そうか」


 俺はふっと微笑んだ。

 コレットが嫌がってるのならやめようと思ったけど、これなら問題なさそうだ。


「それで、どういう格好がいいとかある? エマと作った竜具でわかると思うけど、結構な精度でオーダー通りに作れるぞ?」

『うーん、どうしよっかな……』

『くははははは、それなら我にいい考えがあるぞ』

「いい考え?」

『うむ、紋章などがよかろう。ギルドの紋章だ』

「ふむ」


 なるほどギルドの紋章か。

 話の流れでちょっと不安だったけど、意外と普通の提案が出てきた。


『こんな感じだな』


 ドラゴンらしからぬ、ぐーたらオヤジ的な格好で寝っ転がっているクリスは、炎を出して、操って。

 それで自分の腹に紋章を作った。


 炎で、ドラゴン・ファーストの紋章を腹のあたりに作った。


「なるほど、いいかもしれないな」

『私もいいとおもいます』

『それおとうさんのマーク? だったらレアも』

『わたしも、ちょっとほしい』


 エマ、レア、シャネルの三人がそういった。

 寝ているルイーズをのぞく、ほとんどの子がクリスの提案に乗り気だった。


 ドラゴンには受けるやつなのかな、となんとなく思っていると。

 コレットが何故か無言で――いやちょっと怖い顔でクリスを見つめている事に気づいた。


『……』

「コレット?」

『ねえ、ちょっとあいつに擬態かけてよ』

「え? 擬態って……人間の姿にしろって事?」

『そう』

「うーん、なんか分からないけど……わかった」


 俺は頷き、クリスに擬態のスキルをかけた。

 フェニックス種のドラゴンから、グラマーな美女に姿を変えるクリス。


 そのクリスのへその下あたりに、さっきの紋章があった。


『そんなところに紋章つけるわけないでしょがぶっっっ!!』


 コレットは三度、クリスに噛みついた。


「あはは……」


 へその下の紋章、その事に気づかなかった俺は苦笑いするしかなかったが。


『くははははは、淫紋も全員でつければ怖くないぞ』

『うるさいうるさいうるさい! そんなのつけるわけないじゃん!』

『いんもん?』

『かっこいい、レアはしたい』

『わたし、も』


 コレット以外が乗り気で、ちょっとどうしようかと困ってしまうのだった。

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