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82.クリスの妄想力

「さて、そろそろ外に出るか」


 契約を済ませて、新しい能力のチェックも終わった。

 そろそろドラゴンツリーを回収して、外に出てパーソロンに戻ろうと思った。


「あっ……」


 ふと、ジャンヌが何かに気づいたかのような声を漏らした。


「どうした?ジャンヌ」

「えっと……間違ってたらすみません。パトリシア、ここから出られないのでは? その、体の大きさで」


 ジャンヌはそう言って、ちらっとちびくりすをみた。


「……ああ」


 俺はポン、と手を打った。

 そうだった。


 そもそもちびくりすが出てきたのはそれが理由だった。

 ここへの入り口が狭すぎて、中型種のクリスじゃ入って来れないから、分身としてちびくりすを出したのだ。


 その中型種・フェニックス種よりも更に、一回りも二回りも大きい、ヨルムンガンド種のパトリシア。

 このままだと出れないのは確実だ。


『うししししし、それは大変なのです』

「そか」


 俺は小さく頷いた。

 そんな俺とちびくりすのやり取りを見て、ジャンヌが。


「もしかして、方法を教えてもらったのですか?」

「教えてはもらってない、でも他人ごとくらいの軽いノリで『大変だな』とは言われた」

「あっ、じゃあ方法はあるのですね」

「そういうことだろうな」


 俺はジャンヌと向き合って笑った。


 ジャンヌも――というか、普段から(ちび含む)クリスの言葉が分からなくて、俺の言葉とか反応でクリスの話すことを推測してきた分、ジャンヌはよりはっきりとクリスが暗に言おうとしている事がすぐにわかったようだ。


 このタイミングで、ちびくりすが他人ごとか、ってくらいの軽いノリで「大変ですね」とはなすのは、全然大変じゃないって事の裏返しだ。


「どうしたらいい?」

『うししししし、竜具は装備解除が出来るのです』

「なるほど? …………なるほど」


 少し考えて理解できた。

 俺は話について来れてない様子のパトリシアに向き合った。


「パトリシア、一回それ――装備解除? してくれるか?」

『あっ、はぁい。わかりましたぁ』


 パトリシアは頷き、目を閉じて何か念じてる風な仕草をした。

 その体が淡く光ったあと、透けて消えていく。

 そしてパトリシアがいた場所に木彫りのドラゴンのオブジェがゴトッ、と地面に落ちた。


 俺はそれを拾い上げて、ジャンヌとちびくりすに声をかける。


「出よう」

「はい!」

『りょーかい、なのです』

「パトリシアもついてきて」

『わかりましたぁ』


 三人を連れて、来た道を引き返していった。

 一直線に来た道を引き返して、外に出た。


 最後は、洞窟の暗さに慣れて、外に出た瞬間ものすごくまぶしくて、顔を逸らしてきつく目を閉ざした。


『くははははは、どうだ心友。収穫はあったか』


 表に、クリスが待ち構えていた。

 彼女はいつものように、ふてぶてしく人間のように横向きに寝っ転がるポーズをしていた。


「ああ、おかげさまで」

『くははははは、それは重畳』

『うししししし、あたしはこれで失礼なのです』


 ちびくりすはそう言って、クリスの目の前まで行くと、光に溶けてクリスの体に吸い込まれていった。


 短い間だが、ちびくりすはちびくりすで、面白いヤツで、また一緒にどっかの洞窟を探検したいものだ――と思った。


 そう思いつつ、俺は持っている木彫りのドラゴンをかざした。


「パトリシア、出ろ」


 呼びかけた直後、木彫りのドラゴンが光を放った。

 俺は手を放した。

 木彫りのドラゴンが宙に浮かんだ。


 洞窟の中の時と同じように、ヨルムンガンド種のドラゴンが姿を現した。


『お待たせしましたぁ』

「うん、無事でられてよかった」

『くははははは、なるほどこうなったか』

「こうなった? 別の予想をしてたのか?」


 俺は首を傾げて、クリスを見た。


『うむ、心友の器をベースに、いくつか予想を立てていたのだ』

「なんかとんでもない予想もありそうで怖いな」

『くははははは、なんのなんの。生産性のない我の想像力など人間に遙かに劣るものよ』

「あ、そこは負けてるんだ」

『うむ、生産力が我のすくない弱点よ』


 クリスは胸を張って、大いばりで言い放った。

 なるほどたしかに、それっぽい事は前から言ってたっけ。

 不死だから、新たに何かを産み出すのは苦手だって。


 それを思い出して、納得した。


「ちなみに他にどんな予想をしてたんだ?」

『うむ、心友がドラゴンツリーを取り込んで、全身武器人間になる事とか』

「そんなのを予想してたのか」

『うむ、世界中、歴史上に存在するあらゆる武器を使いこなして世界最強になる』

「へえ」

『力はそれだけにとどまらず、体の一部をドラゴンが使える竜具に変形させる力を持ち、それを配下のドラゴンに貸し与えて強くさせる。キーワードは心友の「変身」に対をなす「合体」だな』

「いやいや、お前結構妄想力すごいじゃん、生産とか出来てるぞ」


 というか、むしろ俺には出てこない発想だ。


「……ん?」

『どうした心友よ』

「俺が……ドラゴンツリーを取り込む事って出来るのか?」

『うむ、可能性はある』

「俺の体から一部を取って竜具を作る?」

『うむ、可能であるぞ』

「なるほど。いやそれはそれでいいんだけど、今回のそもそもの目的は、竜具の生産と、それを商売にする事だからなあ」


 俺は微苦笑した。

 ドラゴン・ファーストのドラゴンたちに竜具を作ってやれるのはいいけど、それは本来の目的とは違う。


『ふむ? 我はよく知らないのだが』

「え?」

『人間は体を売ることもあるのではないか?』

「何を言い出すんだお前は――」

『ほれ、綺麗な髪を売って夫を助ける美談があっただろう』

「――っ!」


 俺は――ハッとした。

 体を売る――ではなく体の一部を売る。

 体の一部――髪を売る。


 もしかして……いけるかもしれないぞ。

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