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78.よりしろ

「これがドラゴンツリーか……」

『はいです』


 ちびくりすが頷く。

 俺は周りをきょろきょろと見回した。


「なにかお探し物ですかシリル様」

「ああ、さっきの声の主。目的地に来ればいるものだと思ってたんだけど……いないな」

「さっきの声って……シリル様を騙そうとした不届き者の事ですか?」

「いやまあ、そうだけど」


 俺は苦笑した。

 ジャンヌの言葉に棘がはっきりと感じられる。

 いきさつがいきさつだから分からなくはないが……と苦笑いする。


『我のことか?』

「お?」


 声が聞こえた。

 さっきのと同じ声だ。


 そしてやっぱり、「ドラゴンの声」だった。


 俺は更に周りを見回した――が。


「どこにいるんだ?」

『目の前におる』

「目の前?」


 俺は目の前を見た。

 俺がそう言ったから、ジャンヌも同じように前方をきょろきょろしたり、目を凝らしたりした。


「いないけど」

『思念体なのです』

「しってるのかクリス」

『はいです。そいつはここを守るために作られた思念体――人工の幽霊みたいなものなのです』

「人工の幽霊……」

「ひぃっ!」


 横でジャンヌがいきなり悲鳴を上げた。

 見ると、何故か顔が青ざめてて、小刻みに震えている。


「どうしたジャンヌ」

「す、すみません……わ、わたし」

「うん?」

「わたし……そういうの、苦手なんです……」


 ジャンヌは消え入りそうな声で言った。

 シュンと小さくなる姿は庇護欲をそそる姿だったが。


「そういうの? …………ああ」


 俺はポン、と手を叩いた。


「幽霊のことか」

「はい……」

「そうか」


 俺は頷いた。

 なるほどと納得した。

 ジャンヌも女の子だ。

 幽霊が怖い、というわかりやすく可愛い弱点があった。


 そして、素直に言ってくるというのもジャンヌらしかった。

 これがもしコレットとかなら、たとえ死ぬほど怖がってても思いっきり意地を張っただろうな、と思った。


「すみません……」

「気にするな。というか俺がいる」

「シリル様が?」

「ああ。人工だろうが本物だろうが、幽霊からは必ず守る。それでも怖いか?」

「……はい! し、シリル様がいらっしゃるのですから、怖くありません!」

「そうか」

「で、でも。つ、掴まらせて下さい……」

「ああ、もちろんだ」


 俺がそう言うと、ジャンヌは顔をほころばせて、嬉しそうに俺の服の裾をつまんできた。


 ジャンヌをほっとさせたところで、俺は再び前を向く。


「そうか、思念体か」

『どうして残念がってるのです?』

「ドラゴンの声だったから、どんなドラゴンなのか興味を持ったんだ」

『うしししししし、なるほど心友らしいのです』


 興味はあったけど、生身のドラゴンじゃないというのならしょうがない。


 改めて、ドラゴンツリーに目を向けた。


「これをどうすればいいんだ?」

『剥くといいです』

「剥く……えのきの集まったみたいな感じだけど、そういう感じで一本一本剥けばいいのか?」

『はいです。剥いて持ち帰って、竜具を作れる人に渡せば作れるです』

「なるほど」


 俺は頷き、裾をつまんだままのジャンヌを引き連れて、ドラゴンツリーに近づいた。


 そして、えのき茸のように、一番外側から一本毟り取る。

 えのきと違って、茶色くて硬かったが、ちょっと本気を出して引っ張るとベリベリベリ――って音がして引っぺがせた。


 それを手に持って、まじまじと見つめる。


「これが竜具になるのか?」

『はいです』

「そうか」


 竜具か……。

 俺はここにきた事の発端――ユニーク竜具の事を思い出した。

 種族に特化した、特別な竜具。


 人間でオーダーメイドの道具や武具とかが作れるように、ドラゴンにもオーダーメイドの竜具が作れるのだろうか。


 俺は頭の中で周りにいるドラゴン達の事を想像し、それぞれに合ったオーダーメイドの竜具がどうなるのかを想像した。


 妄想、と言ってもいいかもしれない。


 竜具を作るのは大変だろうが、妄想だけなら一瞬だ。

 一瞬のうちに、周りにいるドラゴン達に合いそうな、オーダーメイドの竜具を全部妄想した。


 あとはこれを、職人に伝えて作ってもらえるかどうかを聞くだけ――。


 その時の事だった。


 俺が持っていた、ドラゴンツリーの一部が溶けた。

 溶けて、まるで砂か水かのように、指の隙間からこぼれ落ちた。


「シリル様!?」

「な、なんだ? 何が起きた?」

『まさか!?』


 三者三様。


 俺もジャンヌも、挙げ句の果てにはちびくりすまでもが驚いていた。


 溶け落ちたドラゴンツリーの一部は、地面で固まって、小さなオブジェになった。

 まるで観光地にある民芸品の様な、木彫りのドラゴンのような物だ。


 俺はそれを拾い上げて、至近距離からまじまじと見つめる。

 サイズは手に乗るくらいの物で、可愛らしかった。


「シリル様? それは」

「……俺が妄想したものだ」

『心友が竜具をつくったです?』

「そういうことになるな」

『うしししししし、さすが心友、いつも驚きを提供してくれるです』

「そのつもりはないんだけどな」

『それで、どういう竜具なのです?』

「ああ……なあ、えっと、思念体? まだそこにいるか?」

『うむ、何用だ?』

「これを」


 俺はドラゴンのオブジェを差し出した。


「……」

「……」

『……』

『……』


 数瞬の間、その直後だった。


 木彫りのドラゴンっぽいのが、更に姿を変える。

 今度はポップコーンのように、内側から膨らんで大きくなった。


「な、何が起きてるのですか!?」

『これは……まさか』


 様々な驚きの声が聞こえてきた。

 やがて、俺達の前に一人のドラゴンが現われた。


 この空間全部を占める巨躯。

 一目で分かる、大型種のドラゴンだ。


『我の……生前の姿だと?』

「成功したのか……すごいな」


 自分でやっておいて、俺はそうつぶやいた。


「どういう事ですか?シリル様」

「えっと……ドラゴンツリーを使って、思念体のドラゴンに専用の竜具を作って、依り代の肉体にした……かな?」

「……おお」


 一瞬わけが分からないって顔をしたが、ジャンヌはそれを理解するや、感心した様な表情を浮かべる。


『うしししししし、さすが心友、驚きの連続なのです』

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