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73.王女も変身

 街道を進み続けて、「本道」に入った後も、クリスの道案内で進み続けた。

 どこへ行くとは言わずに、細かい道案内を続けるクリスのやり方に少し疑問を覚えた。


「クリス。どこまで行くんだ?」

『んむ?』

「目的地を教えてくれた方が、もしかしたら近道とか分かるかもしれないし」

『そのことか。実はな――インデュラインにあるサンダーマウンテンという場所だ』

「インデュライン……サンダーマウンテン……。ジャンヌ、聞いたことは?」


 クリスから返ってきた地名に聞き覚えのない俺は、そのままジャンヌに質問を渡した。

 クリスの言葉は分からないが、俺の言葉だけで状況が把握できているジャンヌ。

 彼女は少し首をかしげて、考えた後申し訳なさそうな表情をした。


「申し訳ございません、寡聞にして……」

「いや、いいんだ。俺も分からないし」


 俺はにこりと微笑んで、気にしないでとジャンヌに言った。

 そして、再びクリスの方を向く。


「それってどこなんだ?」

『うむ。心友に甦らせてもらった後、様々なドラゴンと話して、情報交換をした』

「へえ」


 そんなことをしてたんだ、とちょっと感心した。


『収穫は少なくない。今回の場合、我が覚えている地名が、既に人間どもには使われていないという事が分かったのだ』

「ああ……」


 俺は頷き、納得した。


「ど、どういうことですか」

「クリスが言うには、彼女が覚えている地名はもう使われてない古い地名らしい」

「なるほど!」


 ジャンヌもすぐに理解した。


「そういうこと、よくありますものね。王都も私が知っている限り三回ほど名前が変わってますし」

「そうなのか?」

「はい。今はノーザンダンサーという名前ですが、一つ前はノーザンテースト、その前が……リファール? だったような」

「大分違うんだな」

「はい。かなり違うのだというのは覚えていますが、詳しい名前は曖昧です、すみません……」

「いや、そんなもんだ」


 俺は頷き、理解を示した。

 人間の記憶力なんてそんなもんだ。


 ノーザンダンサーとノーザンテーストのような似てる名前なら連想で覚えやすいけど、まったく違ってたらしょうがない。

 まあ、それはそうと。


「でも、いい例を挙げてくれたよジャンヌ」

「え?」

「その――リファール? みたいに完全にかけ離れた地名だと分かりようがないもんな。そうだろ?クリス」


 そう言い、クリスに水を向ける。


『うむ。インデュラインとサンダーマウンテン、どっちも連想が効かぬであろう?』

「ああ。クリスが話を聞いたドラゴン達もそうだったんだな」

『そうだ。故に道順を覚えている我がじっくり案内するほかないという訳だ』

「納得だ」


 そういうことならばしょうがないと俺は納得し。

 クリスに道案内を任せるのだった。


     ☆


 昼頃になると、ぼちぼち疲れてきた。

 特にジャンヌの顔にはっきりとした疲れが見えてきた。


 ちょうど道の先に茶屋が見えたから。


「あそこで一休みしよう」


 と提案した。


「は、はい」


 頷くジャンヌと、一人涼しい顔のクリスを連れて、茶屋に向かう。


 茶屋とは言っても、茅葺きの簡易な作りの小屋で、表に木製のテーブルセットをいくつか置いてるだけのシンプルなものだった。

 作りはシンプルだが、営業はしてるみたいだ。


 ほとんどのテーブルに客が座ってて、老人と孫娘みたいな二人組が店を切り盛りしている。


「あの席にしよう。ジャンヌは座ってて、俺が注文してくるから」

「は、はい」


 ジャンヌを先に座らせようとした、その時。


「おい! オヤジ。酒だ酒、それと肉。四人前な」


 ジャンヌが座ろうとした寸前、四人組が割って入ってきた。

 俺をドンと押しのけて、四人でテーブルに着き大声を出して注文をする

 見るからにガラの悪そうな男達。


『どうする心友』

「いいさ、あっちのテーブルにしよう」


 俺はそう言い、クリスとジャンヌを連れて、少し離れたテーブルに向かおうとした。

 それは最初に向かおうとした物よりボロいテーブルで、軒下から離れてて街道側にあった。


 雨がもし降ってきても雨宿りできないし、街道の土埃をかぶってしまうから最初は敬遠してた席だが、もうそこしか空いてないからしょうがない。


「シリルさん……」

「行こう」

「は、はい」


 俺に促されたジャンヌ。

 ちらっと男達を見て、不機嫌な顔をしつつも、言われた通りについてきた。


 揉め事は面倒臭い、そして揉める程の事じゃない。

 だから俺は別の席に向かおうとした。


 それで話が済む――はずだった。


「おう? なんだ、ねえちゃん」


 向こうの注意がこっちに向けられた。

 というか、ジャンヌはあの後も後ろ髪を引かれるような感じで、ちらちらとそっちを見てたから、それに対する反応だ。


「……」


 ジャンヌは立ち止まり、不機嫌な顔のままそいつらを睨んだ。


「なんか用かよ」

「せっかくだし、こっち来て一緒に飲まねえか」

「いいね。その腰抜けの男なんかよりも俺達と一緒の方が楽しいぜ」


 男達は口々に軽薄な言葉を吐きつつ、下品に笑い合った。

 正直関わり合いたくないから、このまま茶屋での休憩は無しの方がイイかな――と思ったその時。


 プチッ。


 そんな音が、聞こえた様な気がした。


「……」


 ジャンヌが無言で身を翻し、男達に近づいていった。


「ジャンヌ?」


「お? その気になったか、ねえちゃん」

「いいぜ、ほら、ここに座れよ」

「なんでお前のそばなんだよ。こっちの方が席空いてんぜ」


「……変身」


 ジャンヌがぼつり、と呟いた。


「ーーっ!」


 俺はびっくりした。

 ジャンヌの体が一瞬光に包まれたと思ったら、姿が変わったのだ。


『くははははは、面白い姿だ。人間が空想する戦女神とよく似ている』


 クリスは上機嫌で大笑いした。

 クリスの感想に俺は密かに納得した。


 戦女神。


 全身が白を基調としたドレス風の服飾で、要所要所にライトアーマー風の装飾がついている。

 それだけでなく、長い槍を持っていて、穂先が風に靡いていた。


「……なにそれ」


 男達も驚き、戸惑っていた。


 次の瞬間、驚きも戸惑いも恐怖に上書きされる。

 ジャンヌが槍を振るい、男達を斬りつけた。

 お姫様だとはとても思えないような鋭い槍捌きで四人を斬った。


 斬られた四人は座ったまま崩れ――落ちなかった。


 ジャンヌは手を無造作に振ると、四人の間に光が凝縮し――爆発した。

 どういう理屈か爆発は拡散せずに、まるで見えない密閉空間の中にとどまった。


 爆発をもろに喰らった四人は、ズタボロになりながら今度こそ崩れ落ちた。


「ちょ、ちょっと。どうしたんですか!?」


 店の少女が遅れて騒ぎに気づき、悲鳴を上げた。

 一方、ジャンヌは落ち着き払ったまま、元のジャンヌの姿に戻った。


「……ふう。大丈夫です、絡まれたので成敗しました」

「え? あ、ああ……なるほど」


 ジャンヌの説明に、店の少女は納得した。


「悪いな、揉め事起こして」

「いえいえ、しょっちゅうある事ですので。お客さん同士でケリがつくんなら問題なしです」

「へえ」

『くはははは、面白い娘だ』


 俺とクリスは、予想外に肝が据わってる茶屋の看板娘の事を面白いと思った。


 絡んで来た男達をその辺にうっちゃって、適当に注文をして、テーブルに座る。

 そして、ジャンヌに聞く。


「今のは?」

「はい。自分の身を守れるように、父上にお願いして、城の宝物庫から様々なアイテムを持ってきました」

「アイテム…」

「今回使ったのはエプソムリングと、ロンシャンペンダントです。エプソムリングが槍に変化して、ロンシャンペンダントは防具と見た目を大きく変えてくれます」

「そうなのか……ちなみに」

「はい、なんでしょうか?」

「それ……結構高価な物、だよな?」


 俺は恐る恐る聞いた。


 王家の城の宝物庫にあったアイテム……どう考えても安いって事はないだろう。


「えっと……一千万リールくらいって聞きました」

「おぉ……」


 やっぱり高かった。


「本当はシリル様と肩を並べて戦える位のものが欲しかったですけど。シリル様のお強さを伝えたら、それほどの物はないし、揃えようとしたら国家予算の一年分くらい必要って言われました」

「それは――」


 俺を過大評価しすぎてるからなんじゃないのか? って思った。


 それにしても――。


「強かったよ。それに綺麗だった」

「本当ですか。良かったです……シリル様みたいに『変身』がしたかったですから」

「ああ」


 なるほど、と頷いた。

 俺の「変身」に合わせるために、それっぽいアイテムを持ってきたって事なのか。

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