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72.王女の価値

 パーソロンを出て、街道を歩く。


 ここは街道のいわば「支路」。

 メインの街道から少し外れた小道のような部分だ。


 パーソロンは長い間廃棄されてた荘園だったから、街道と繋がる支路は整備されてなくて凸凹だ。


 その道を、人間はジャンヌ、ドラゴンはクリスとの三人で一緒に歩いていた。

 歩きながら、クリスから聞いたドラゴンベクターの話をジャンヌにも話した。


 ジャンヌは静かに相づちを打ちつつ、最後まで聞いた後。


「それって、ベクターオリジンの事ですか?」

「ベクターオリジン?」

「はい、確か……竜具の独占製造をしている三大ギルドが、ドラゴンベクターを手に入れた後自然界から消滅させたものの事です」

「ああ、それだな……って、独占は知ってたけど、大本のをわざわざ消滅させたのか?」

「はい、そう聞いてます」

「そうなのか」


 俺は眉をひそめた。

 独占する……までだったら商売として分からなくはないけど、もとからあった物を消滅させてまで……というのも分からなくはないが、さすがに不快感が勝った。


 まあ、それを俺がここで憤っててもしょうがない。


 俺は切り替えて、ジャンヌに向き直った。


「まあそういうことだ。そのベクター……オリジン? の事をクリスが知ってるから、クリスの案内でそれを手に入れに行くわけだ」

「そうだったんですね。さすが神の子です」

『くははははは、うむ、さすが我だろう? もっと褒めるといい』


 クリスは上機嫌で大笑いした。

 ジャンヌはますます、尊敬の眼差しをクリスにも向けた。


 相変わらず、言葉は通じ合ってない二人なのに、行動そのものは妙にかみ合ってしまう。


「それにしても、よくそんなのを調べて来られたな」

「はい! シリル様のお役に立つようにと、竜騎士に関する知識をたくさん勉強してきました!」

「そうなのか」

「情報もたくさん仕入れてきました!」

「情報って、どうやって?」

「王宮に出入りしている王室御用達の商人達からです。聞いたらみんな快く教えてくれました」

「なるほど」


 俺は納得して、頷いた。

 そりゃ情報が集まる訳だ。


 王室御用達の商人と、宮殿の中にいる王女。

 商売敵じゃない事もあるだろう、王女様が聞けば何でも教えてくれただろうな。


『うむ、まさしく値千金、だな』

「ん? どういうことだ?」

『商人の情報というのは、その商人が持ちうる商品の中でもっとも価値のあるものだ』

「ふむ」

『それは商人としての位が高ければ高いほど、商いの規模が大きければ大きいほど比例して上がっていくものだ』

「なるほど」

「あの……クリス様と何を話していらっしゃるのですか? ……もしかして私、なにかまずい事をしてしまったのですか?」

「いやそんなことはない、ジャンヌが――」

『やめておけ』


 商人との関係、そのメカニズムを説明しようとしたら、クリスに止められた。


「クリス?」


 俺が訝しんで、クリスを見る。

 するとジャンヌも不安そうな顔でクリスをみた。


『隠し事をしたくないから話すのだろうが、やめておけ。彼女はそのまま、わからないままで商人と接していた方が情報をもらえる。知ってしまっては「色気」が出てしまうからな』

「しかし、それじゃ――」

『くははははは、ここは察しろということだ心友よ。彼女は心友に情報を渡して褒められたがってる。その手段を継ってしまうのはかわいそうではないのか?』

「むむむ……」


 それは……クリスの言う通りかもしれなかった。


 俺は改めてジャンヌを見た。

 ジャンヌ――お姫様。

 クリスの見立ては、俺も同意見だ。

 彼女は腹芸ができるタイプの子じゃない。


 情報の価値を知らないままのほうがきっといいはずだ。


 そして、それを俺に持ってきて褒められたがってるのも気づいている。

 たとえは悪いが、投げたボールを追いかけて、くわえて持ってくる子犬のような感じだ。


 ……クリスの言うとおりだ。

 その事を俺から言って、ジャンヌに気づかせない方がいい。


 ここは――と俺がごまかしの言葉を考えていた、その時。

 クリスは前足を伸ばして、爪の先でちょんちょん、とジャンヌの頭を撫でた。


「あっ……」


 ジャンヌは見るからにホッとした。

 言葉は通じないが、クリスの仕草は紛れもなく「褒めている」ものだったからだ。

 それで説明が無くても、ジャンヌはホッとしたのだ。


『くははははは、心友のためによく働いたご褒美だ』

「仮にも姫様相手に、俺のためによく働いたはないだろ」

『人間の地位や身分など我には無関係だ』

「まったく」


 そんなことをあっさりと言ってのけるクリスに微苦笑した。


『にしても好かれたものよな』

「そりゃまあ、命を助けたし」

『くははははは、それだけではなかろう』

「ん?」


 それだけではないって……他になにがあるんだ?

 と、俺が不思議がっていると、クリスはジャンヌを撫でた爪をグイッと方向転換して彼女の背中を押した。


「ひゃっ!」

「おっと」


 クリスに背中を押されて、バランスを崩したジャンヌはこっちに倒れてきた。

 俺はとっさにジャンヌを抱き留めた。


「あっ……」

「大丈夫か?」

「は、はい……大丈夫、です」


 ジャンヌは恥ずかしそうに頬を染めて、顔を逸らしてしまった。


『くははははは、人間で言うところのアオハルよな』

「いや、今のはお前が押したからだろ」

『くははははは』


 クリスは反駁しないで、大笑いを続けた。

 それをやられると、なんだか「わかってる、わかってるから」と言われているような気持ちになってしまう。


「……」


 頬を染めたままちらちら見つめてくるジャンヌの仕草を見ていると、「あれ? 本当にそうなのか」っていう気持ちにもなってくるのだった。

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