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66.ユニーク竜具

「本当に、ありがとうございました」


 シャルルが屋敷の表まで出てきて、俺達を見送った。

 俺とコレットが歩き出し、角を曲がって互いに見えなくなるまでの間、ずっと頭を下げたままだった。

 やっぱり大物だなあ、と改めてしみじみと思った。


 セントサイモンの街中を歩く。

 並んで歩いているコレットが話しかけてきた。


『よかったの? あいつ、パーソロンまで送ってくれるって言ってたけど断って』

「ああ、せっかくセントサイモンまで来たんだ。色々見て回りたいだろ、この街を」


 俺はそう言い、あごをぐいっとやって、街全体を「指す」ジェスチャーをした。


 他のどの町とも違う感じがする、竜都セントサイモン。

 この街にまだまだ興味が尽きないってのは事実だ。


「それに、あそこまで至れり尽くせりだと胃もたれもする。コレットもそうだろ」

『うん、あんな風に運ばれるのはもうやだ』


 コレットははっきりとそう言い放った。

 シャルルは全くの善意――というか俺をヨイショするためにコレットも優遇するという形を取ったのだが、そういうのはドラゴンであるコレットにはすこぶる不評だったみたいだ。


「ああいうのじゃなくて、別の形で特別扱いされるとしたら、どういうのがいい?」


 俺は歩きながら、コレットに聞く。

 シャルルに伝えてこっちから「おねだり」するのはかっこ悪いからするつもりはない。 コレットの好みを知って、普段からそれとなくそれに寄せるためだ。


 ドラゴンの言葉が分かる俺が、次々と違うドラゴンを仲間に迎えて分かった事が一つある。


 ドラゴンは、気持ちを人間に全部伝えようとはしない。

 常に何かを腹の底に隠し持っている。

 それは隠し事とかそういうのじゃなく、言えない・言い出しづらいというタイプのものだ。


 コレットがその最たるものだ。

 クリスは何かに気づいている。コレットが俺に何か思うところがあるのを。

 それでコレットをからかっていて、二人はいつもじゃれ合っている。


 そういう感じのものをルイーズやエマなど、他のみんなも大なり小なり持っている。


 だからできればそういうのを本人の口から聞き出して、それとなく対応できればいいな、と思った。


『されたい特別扱いってこと?』

「そうだ」

『……うーん、ご飯食べるための部屋が欲しい、かな』

「ご飯食べるための部屋?」

『普通くらいだったらいいんだけど、周りがうるさすぎるとご飯飲み込んだ時ちがう胃袋にいれちゃう事があるの』

「それって、普段荷物運びに使わせてもらってる方?」

『そう』


 コレットははっきりと頷いた。


「そういうことがあるのか」

『そういう時は反芻して元の胃袋に戻すんだけど、ご飯じゃん? あっちの胃袋汚れるから、水飲んで洗ったりしてめんどくさいんだよね』

「ふむふむ」

『だから、静かにご飯食べるための部屋が欲しい』

「そうか、それだと一人飯になるけどいいのか?」

『後で胃を洗うよりはずっといいから』

「わかった。そういうことならパーソロンに戻ったらすぐにつくろう」

『いいの?』

「ああ、これくらい。むしろ早く言ってくれよ、くらいなもんだ」

『そっ。……ありがとう』

「ん」


 思いがけず知った、コレットの悩み。


 これなんだ。


 これがあるんだ。


 俺はドラゴンの言葉が分かる。

 だからといって、全てが分かったとは思わない。


 言葉が分かるから、話してくれないことは逆に分からない。

 だから、話し合う努力、わかり合う努力は怠っちゃダメだと思う。


 コレットの事をまた一つ知った俺は、コレットと一緒にセントサイモンの街中を歩いた。


『竜具の店が多いね』

「そうみたいだな。そりゃそうもなるか」


 さっきから、「店」の七割以上が竜具屋か竜商人かのどっちかだ。

 この辺はやっぱりセントサイモン、ドラゴンに完全特化した街だ、って所だろう。


「どっか入るか、見たことない竜具があるかも知れない」

『ん』


 コレットに異議はないみたいだから、俺はどこか妥当な店を見繕って入ってみようと思った。

 ふと、足が止まった。


 一軒の小さな店に目がとまった。


 ほとんどの建物が巨大化して、まるで巨人が住む街のような街並みの中、一軒だけ微妙にこじんまりしている店があった。

 こじんまりしてるとはいえ、他の街に持っていけばやっぱり大きいのだが、セントサイモンの中じゃ小さい方だった。


 小さい上に、なんだか古びた感じで、目立たない。

 それがかえって気になった。

 何故か、ものすごく気になった。


「ここに入ろう」

『なんで? 他にもっとおっきくて新しい店あるのに』

「……なんとなく」

『ふーん、まあいいけど』


 コレットは深く追求することなく、俺についてきて、一緒に店の中に入った。


「いらっしゃい……」


 店の奥に、しわがれた声の老人が座っていた。

 店の中はいかにも古そうな道具が無造作に積み上げられている。


『うわ、きったな。ねえこんなところになんもないから他行こ?』


 コレットは入った瞬間すぐに出たがった。


 が、俺はそんなコレットを宥めた。


「少しだけ居てくれ」

『えー』


 コレットは不満がるが、微笑みかけると渋々引き下がってくれた。

 俺は店の中を見回しながら、店主に近づいていく。


 なんというか……ますます気になった。


 ここには何かがある、と。


「何を探してる」

「竜具を」

「その辺に転がってるから勝手にみとくれ」

「うーん」


 俺は店のほぼ真ん中に立って、周りを見回した。


「ーーッ!」

『どうしたの?』

「足がうずく……」

『足?』


 俺は自分の足を見た。

 体の感覚を確かめた。


 すると、足というより、存在しない爪の先端にチクッときたような感覚だ。


 ……あの爪か。


 俺の頭の中に浮かび上がってきたのは、バラウール原種・レアを助けたときに卵の殻のそばにあったあの爪のことだ。

 俺の体の中に取り込まれて、竜人変身の速度を爆上げさせてくれた爪。


 あれが、実際はついてないがついてる様な感じがして、その先端に痛みを感じた。


 それがただ痛いってだけじゃなくて、何かに反応しているかのようだった。

 俺は周りを見回した、歩き回ってみた。

 すると、ある方角に反応して、痛みが心臓の鼓動のように強くなった。

 それを頼りに、一つの竜具の前に立った。


 それは、馬の鞍のようなもので、ドラゴンにつける大きなサイズのものだった。

 それに手を触れた。


「これは……他と違うぞ」

「あたりまえだ」


 つぶやくと、それまで黙っていた店主が俺の言葉に反応した。


「若いの、鼻がきくな」


 何故か褒められた。

 店主はベースの無愛想な表情に、ほんの少しだけ楽しげに口角を持ち上げた。


「そいつはユニークだ」

「ユニーク?」

「この世に一つしか無い、特定の種のための竜具だ」

「ユニーク……」


 俺はそれを見つめた。


「どういうものなんだ、これは?」

「そこのムシュフシュ種につけるもんだ」

『あたしに?』

「つけると、いくら腹の中に物をおさめても、体がまったく大きくならない」

「大きくならない?」

「そうだ、ずっと普段のままだ」

『ほ、欲しい!』


 コレットは店主の説明に食いついた。

 俺がコレットの方を向くと、彼女は恥ずかしそうに、顔を赤くしてそむけてしまった。


 体が大きくならない。

 ムシュフシュ種は、腹の中に消化に使わない胃袋を複数持っている。

 それを竜騎士が運搬に活用するのだが、腹の中に物を入れてる時は、ムシュフシュ種自体風船の様に膨らみ上がる。


 この「ユニーク」をつけるとそうならないってことか。


 俺はユニーク竜具をみた。

 根拠はないけど、これは「本物」だと思った。


「よし、買った。いくらなんだこれは?」

「500万リール」

「わかった」


 俺は頷き、店主に向かっていって、懐に入っている教会札を取り出して、500万リール分数えた。


『えええええ!? い、いいの?』

「欲しいんだろ?」

『それは、そうだけど……』

「だったら問題ない」

『あ、ありがと……』


 コレットは申し訳なさ半分、嬉しさ半分って感じでお礼を言ってきた。


「いいのか若いの、試しもせんで」

「ああ、あれは本物だって分かるからな」

「ほう……」


 店主の目が片方だけ一瞬見開かれて、キラン、と光ったような気がした。


「何故そう思う」

「分かるんだ。たぶん呼ばれたんだと思う」

「ふむ」


 店主は頷いた。


「よし、だったら半分でいい」

「半分?」

「二百五十万ってことだ」

「いいのか?」


 これには驚いた。

 何も言ってないのに、向こうから半額にしてきた。


「ガラクタの山からそれをピンポイントで見つけ出した眼力。それが気に入った」

「しかしいくら何でも……」

「商売でやってる店じゃねえ。なんならタダでもいいぞ、んん?」

「さ、さすがにそれは」


 そこまで行くと申し訳が無さ過ぎる。

 俺は慌てて、250万リールを教会札で支払った。


 こうして、俺は初めてのユニーク竜具を手に入れた。

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