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56.交換バッテリー

「竜玉って……なんだ?」


 聞きながら、クリス以外のドラゴン達をぐるっと見回した。

 全員が不思議がったり、困ったり、そういう顔をしている。

 つまり全員が知らないってことか。


『ごめんゴシュジンサマ』

『初めて聞きます……』


 ルイーズとエマが申し訳なさそうにいった。


『なによその竜玉って言うのは』


 ルイーズとエマとは違って、コレットも知らないながら、矛先をクリスに向けて問い質した。


『うむ、論ずるよりもなんとやらだ。実際にやってもらった方がわかりやすかろう』

「たしかに」

『問題は誰にやってもらうかだが……コレット以外だと――』

『なんであたし以外なのよ!』


 瞬間沸騰したコレット。

 がぷっ! とクリスに噛みついた。


『くははははは、悪いがこの話で心友の役にたてんのでな』

『なんでさ!』

『この中で一番小食なのは?』


 クリスがルイーズ達に聞いた。

 それで青筋たてて抗議してたコレットもその勢いが削がれた。


『小食?』

『うむ』

『そうじゃないとだめなの?』

『ひとまずはな』

『……ふん!』


 コレットはつまらなさそうに、クリスから離れた。

 小食なんてのは、ムシュフシュ種とはもっともかけ離れた体質だからだ。

 むしろこの中で一番の大食いなのがコレットだ。


 小型種でありながら、下手したら中型種のクリスよりも大食いだ。

 もっともクリスはフェニックス種、食べる必要はないから、「クリスと同じサイズの中型種」という話だ。


「それだと多分レアだけど」

『おとうさん呼んだ?』

「大丈夫だ」


 寄ってくるレアの頭を撫でる。

 生まれたばかりの子供だから、あまり話を理解できてない、という感じだ。


 そんなレアの頭を撫でつつ、クリスの方を向く。


「そう聞くからには何かを食べるってことなのか」

『その通りだ』

「そうか……だったらルイーズだな」

『そうだね』

『ごめんなさいシリルさん……』


 エマは申し訳なさそうに、シュンとなった。

 体のサイズだと、エマのほうがルイーズよりも一回り小さい。

 でも、実際に食べる量だとエマの方がはっきりと多い。


「エマはしょうがないさ、戦う子はエネルギー消費がおおいからな」

『はい……』

「ルイーズ、頼めるかな」

『まかせて』


 頷くルイーズ、俺はクリスの方を向いた。


「何かを食べればいいのか?」

『うむ、満腹まで食そう』

「わかった」


 俺は頷き、ルイーズに食事を用意した。

 俺のテストのために用意していた予備の肉を出して、ルイーズに食べさせた。


「ラルク・アン・シエルは無くてもいいのですか?」


 ジャンヌが聞いてきた。


「ああ、ドラゴンに人間用の調味料はあまり良くない――だっけ」


 いいながら、エマやコレットの方に視線をむけた。


『あたしは丸呑みで大丈夫だけどね』

『えっと、食べられないこともありませんが、ちょっと食べただけで口の中がぴりぴりします』

「――だって」


 エマの答えをそのままジャンヌに伝えてやった。


「そうだったのですね」

「だから、よかれと思って味付けをしたり、人間とまったく同じものを食べさせるのはよくないんだ」

「なるほど……勉強になりました!」

「そもそも、焼いたのより生の方が良いもんな」

『はい、生の方が美味しく感じます』


 エマははっきりと頷いた。

 言葉は分からないが、シンプルなボディランゲージでジャンヌに伝わった。


「人間とは全然違うのですね」

「そうだな」


 そんなことを話している内に、ルイーズは出された肉をぺろりと平らげた。

 竜市場からお迎えして大分経って、食事の量を把握してる俺。

 出した分は丁度いい分量のはずだが……。


「どうだルイーズ」

『うん、もうお腹いっぱい』

「そうか。クリス?」

『うむ。今から術式を教える。我を受け入れよ』


 なんだか物騒な言葉とともに、クリスの眉間から光が放たれた。

 光は一直線ではなく、そこそこの太さのある紐の様に、空中を「泳ぎ」ながらルイーズに向かっていった。


 初めて見る物だからだろうか。

 ルイーズは一瞬身構えたが、クリスの「受け入れよ」という言葉を思い出したらしく、そのまま身構える程度に留めた。


 光の紐が、ルイーズの眉間に届いた。

 二人の眉間を、光の紐が繋がる形になった。


『……あっ』

『くははははは、理解したようだな』

『う、うん……』

『うむ』


 頷くクリス、光の紐をルイーズの眉間から「引っこ抜く」ような形で抜いた。

 光の紐はクリスの中にもどることなく、空中で溶ける様に消えていった。


『やってもいい? ゴシュジンサマ』

「ああ」

『じゃあ、やるね』


 俺に断りを入れたルイーズ。

 目を閉じて、何かぶつぶつつぶやいた。

 次の瞬間、ルイーズの足元から光が放たれた。

 光は魔法陣になって、更なる光を放ってルイーズを包み込んだ。


 魔法陣に包まれたルイーズ、体の中から魔法陣とは違う光が溢れ出した。

 その光が――一点に集中する。

 凝縮して、やがて光ではなく、半透明の結晶になった。


 豆粒大の結晶は、魔法陣が消えるとともに地面におちた。

 俺はそれを拾い上げて、まじまじと見つめた。


「まるで真珠みたいですね」


 よってきたジャンヌがそれをみて、感想をいった。


「そうだな、真珠よりも透明度は高いが」

『それが竜玉だ』

「で、これをどうすればいいんだ?」

『食すといい、噛み砕いてもいいが、最初は丸呑みの方が体の負担も小さかろう』

「……わかった」


 俺は言われたとおり、半透明の石――竜玉を口の中に入れた。

 噛み砕いたらどうなるのか――という好奇心を抑えて、丸呑みする。


 ごくり、とのど元をするりと通る竜玉。


「……むっ?」

『はじまったか』

「これは……腹が――うぉっ!」

「ど、どうしたんですかシリル様!?」

「腹が――まるで干した海藻が一気に腹の中で『戻って』るみたいだ」


 腹を押さえた。

 竜玉が腹の中で溶けていく、満腹になっていった。


『くははははは、噛み砕くともっと一瞬に来ていたぞ』

「……やらなくてよかった」


 俺はほっとした。

 丸呑みでもこうだから、かみ砕いて一気に来られたら腹が膨れすぎて苦しそうだ。


「……ああ、エネルギーが」


 腹が膨れたのが先に感じたけど、理解した。

 これは――エネルギーの補充だ。


『そういうことだ。ドラゴンのエネルギーを凝縮させて与えるものだ』

「なるほど……結構多いな」

『ドラゴンは人間よりもエネルギーの変換効率がいいからな』

「なるほど。……つまりみんなが代わりに食べてくれて、俺のエネルギーが切れたときに竜玉で補充してくれるってわけだ」

『そういうことだ。口が増えれば溜める効率もあがるだろう?』

「確かに」


 今までは俺だけが食べてたけど、全員の食べた分がそうなるのなら、食べる速さが人数分増える。

 それだけでもすごい事だ。


『でも……これって……』

「どうしたルイーズ、浮かない顔をして」

『竜玉、一度に一個までしか作れない――よね』


 ルイーズはクリスの方に視線を送って、同意を求めた。


『うむ』

『溜めて置くことってできないから、ゴシュジンサマのエネルギーはそこまで増えないような……』

「ふむ。まあそれはしょうがない――」

『くははははは、なあに、そんなの問題にもならんさ』

「どういうことだ?」


 首をかしげ、クリスをみた。


『心友の周りにこれからもドラゴンが集まってくる。ドラゴンが増えれば竜玉も増える。問題はない』

『……あっ』

「なるほど」


 ハッとするルイーズ、納得する俺。


『そうですね! シリルさん凄いですから、まだまだドラゴンがあつまりますよ』


 ハイテンションのエマににこりと微笑みながら、俺は「変身」とつぶやき、竜人に姿をかえた。


 効率の高いドラゴンの摂取、からの竜玉。


 竜人変身は、それだけで5秒持続した。


 自分だと効率悪いが、無制限で溜められる。

 ドラゴン経由だと効率いいが、一人につき5秒分。


 使い分けする必要があるが、かなり可能性が広がったと言える。


「ありがとうな、クリス」

『くはははははは、なんのなんの』


 クリスは、上機嫌に大笑いしたのだった。

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