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54.みんなを守るための

 夜、俺達はガーレッド湖の畔で野宿をした。

 たき火をして、それを囲む。


 俺とジャンヌがたき火のそばで向かい合って座って、コレットとジャンヌの馬が少し離れた所で座っている、そんな形だ。


 俺は火をおこして焼いたイノシシを食べていた。


「どうですかシリル様」

「いいな、このラルク・アン・シエル。これなら今までの倍は食べられるようになれそうだ」

「本当ですか!?」


 自分がすすめたと言うこともあってか、俺がラルク・アン・シエルを気に入ったというと、ジャンヌは嬉しがった。


「ああ、食べるごとに味が変わるのってすごいと思う。店とかには不向きだけど、その分今の俺にはぴったり向いている」

「よかった……」

「大食いの時味が変われば結構いけるってのは予想してたけど、ラルク・アン・シエルのこの変わり方はいい。本当に倍はいける」


 俺は頷き、イノシシを貪った。

 ジャンヌもコレットも少しは食べたが、ジャンヌは元々小食な女の子だし、コレットはエネルギーを蓄える必要が無いから普段通りの分だけを食べた。

 馬に至っては肉じゃなくて草だから、こっちには手をつけなかった。


 その結果、俺が一人でイノシシの三分の二を食べた。


「それにしても」


 俺はイノシシのあばら骨を焼いた所――店だとスペアリブとして出てくる所をラルク・アン・シエルをまぶして、しゃぶりながらいった。


「確かに身体能力もあがってる。竜人形態に比べると微々たるもので誤差レベルだが、間違いなく上がってる」

『微々たるものって、どれくらいあがってんの?』


 コレットが興味津々って感じで聞いてきた。


「そうだな……子供が大人になった、くらいの差かな」

『??? よくわかんない』

「……人間の枠組みを逸脱してない、という事なのでしょうか」

「そうそれ。ナイス解説、流石ジャンヌだ」

「いえ……ありがとうございます……」


 ジャンヌははにかんで嬉しそうにした。


『ふーん、そうなんだ』

「あくまでオマケ程度って思った方がいいかもな。まあ、エネルギー消費とは関係無しに能力上がってるのはそれだけでありがたい」

『だったらもっと竜人の姿の力をあげてけばいいじゃん? そしたらチリツモでしょ』

「どうやらそうもいかないみたいなんだよな」

『なんで?』

「あの後ルイーズとかエマに協力してもらって、皮膚とか爪とかをもらったけど、竜人でとりこめなかった」

『なんで?』

「あくまで推測なんだけど……バラウール・オリジンの爪はいわば遺体だ、フェニックスホーンは不死のクリスだからだ。命とか魂とか、その辺細かい考察とかは必要だけど、そういうのに関わってると思う」

『ふーん。……じゃああたしのでもダメなんだ』

「そう思う」

『……そう』


 頷いたコレットだが、何故か残念がってそうだ。

 なんだそれは、って思っているところに。


「あの、シリル様。コレットちゃんとのやり取りですから半分くらいしか分かりませんが、ドラゴンの遺品があればいいのですか?」

「今の所俺の推測だけど、そうだ」

「では、いくつかご用意しましょうか」

「え?」

「そういうのたくさんありますから」


 ジャンヌはあっけらかんと言い放った。


「……あっ、そっか。ジャンヌは姫様だもんな」

「はい、宝物庫にあります。というより」

「え?」

「これもそうです」


 ジャンヌはそう言って、身につけているペンダントをはずして、俺に見せるように差しだした。

 ペンダントは銀で作ったものらしく、ペンダントトップだけ普通と違っていた。


「なんだろ……宝石、のようでそうじゃないな」

「ミズチ種の鱗です」

「ミズチ種……聞いたことないな」


 俺は首を捻って頭の中にある引き出しから知識を探したが、見つからなかった。


「すごく珍しい種です。幻竜種の一種とも言われてます」

「なるほど」

「その鱗を加工して、身の守りを高めるものです」

「へえ」

「以前は馬車にも使ってました」

「……ああ、あれか!」


 俺はハッとした。

 初めてジャンヌ――姫様と出会ったとき、彼女は馬車に守られていた。

 転落して、周りの護衛が全員死んで、馬車も壊れてたけど、中にいる姫様は無事だった。


「はい! シリル様と出会ったときです」


 ジャンヌは嬉しそうに、興奮気味にいった。


「その時と同じものを、ペンダントにして身につけてます」

「なるほど」

「どうぞ、これを使ってください」

「え? いやしかし、それはジャンヌの身を守るものだろ」

「大丈夫です」


 ジャンヌは真顔で言い切った。


「今はシリル様のお側ですから、こんなものがなくても絶対に安全ですから」

「……そうか、わかった。もらうよ」


 信頼してくれた事は嬉しかった。

 何か起こったらどうあっても守りきらないとって決意しつつ、ジャンヌからペンダントを受け取る。


 深呼吸して、ペンダントトップ――ミズチの鱗に触れた。


 今までのと同じ現象が起きた。

 ミズチの鱗が、俺の胸元に吸い込まれた。

 時間にしてわずか数秒、ペンダントは「ガワ」だけがのこった。


『どうなのよ?』

「どうですかシリル様?」


 コレットとジャンヌ、二人が同時に聞いてきた。


「……ん?」

「どうしたんですか?」

「……匂いが、消えてる」

「匂い、ですか?」

「これはたぶん――」


 俺はそう言い、立ち上がった。

 二人からちょっと距離を取った。


 そして、構えて――つぶやく。


「変身」


 次の瞬間、竜人の姿になった。

 そして俺を中心にして、二人や馬を包み込むように、地面が円の形でえぐれた。

 一瞬だけ竜人に変身して、人間の姿にもどった。


「くっ」


 それでもダメだった。

 また「増えた」せいで、この一瞬の竜人変身だけでエネルギーを、立ちくらみが起きるほど使い切ってしまった。


「シリル様!?」

「大丈夫、エネルギー切れだから」

「そ、そうですか」

『それよりも、今のなに』

「ああ……シールド、バリア、障壁……呼び方はいろいろだけど、そういうものだ」


 俺は地面のえぐれをみた。

 シールドの広さは、余裕で彼女達を全員守れる大きさだ。

 そして匂いが消えたのは、人間の時の姿でも、空気をある程度遮断できるからだろうなと思った。


「たぶん、竜人形態で展開すると、あらゆるものからみんなを守れるようになる」

「さすがですシリル様!」


 俺が言うと、ミズチの鱗を使って、体感したジャンヌが、真っ先にそういって興奮しだしたのだった。

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