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53.素でも強い

「ロザリー・レーヌという」

「シリル・アローズ、こっちは仲間のジャンヌだ」


 ドラゴンを飛び降りた女の竜騎士と自己紹介を互いにして、握手をかわした。


「シリル・アローズ!? それってもしかして、ドラゴン・ファーストの?」

「知ってるのか?」

「もちろんだ! 今一番波に乗っている有名なギルドじゃないか。まさか助けられたのがドラゴン・ファーストのシリル・アローズだとは。感激だ……」

「お、おう」


 ロザリーの勢いに圧倒された。

 助けられた直後はさほどでも無かったのに、名乗った瞬間に態度が一変した。

 まるで俺のファン――と言わんばかりのテンションだ。


 それを見たジャンヌが何故か上機嫌で、満足げな表情をしていた。


 そのジャンヌを見て、ロザリーは更に感心した。


「噂に違わぬ素晴らしいギルドのようだ、ドラゴン・ファーストは。馬まで特別だとは」

「馬?」


 俺はジャンヌの方をみた。

 彼女が乗っている馬――何が特別なんだ?


「ああ、ドラゴンをまったく怖がらない馬はそうそういない。よほどちゃんとした調教師がついているのだな」

「ああ……」


 なるほどそうか、と俺は納得した。

 ロザリーの言うとおりだ。

 ドラゴンを怖がらない馬は少ない。

 その馬はジャンヌ――姫様の私物で、ドラゴン・ファーストとして行動したいために持ってきた馬だ。

 姫様の馬なんだから、そりゃただものじゃないに決まってるな。


「流石だ」

「それよりも――」


 なんだかむずがゆくなってきたから、俺は話題を変えた。


「――今どきクラシックスタイルとは珍しいな」

「え? ああ、昔からこのスタイルでな。そのせいで一人ギルドだ」

「ああ、そうなのか」


 俺は小さく頷き、納得してしまった。


 クラシックスタイルというのは、ドラゴンに乗る「竜騎士」のスタイルのことをいう。

 本来の意味での竜騎士だが、竜騎士ギルドがやれることが多様化していった今の世の中だと、クラシックスタイルで出来る事は極端に少ない。

 戦いで先陣を切るとか、手紙や軽い荷物を運んだりするとか。

 それくらいの事しかできないのだ。


 きっと大変なんだろうな、と容易に想像できた。


「失敗しようがない討伐の仕事を受けてきたんだが、偶然ゴーレムに捕まってしまってな。本当、助けてくれてありがとう、感謝する」


 ロザリーに改めてお礼を言われた。

 人助けしてお礼を言われる。

 目的外の所で、ちょっとだけ嬉しい出来事だった。


     ☆


 ロザリーと別れて、再び目的地に向かって歩き出す。


「立派な竜騎士でしたね。乗っている姿がまさに人竜一体、宮殿で雇いたいくらいです」

「うーん、それはどうだろうか」

「なにか気がかりなことが?」

「ロザリーは確かに立派だけど、ドラゴンの方がな」

「ドラゴンですか?」

「ああ……」


 俺は眉をひそめ、苦笑いした。


「俺達と話してる最中も、あのドラゴンずっと『はあ……はあ……ロザリー、早く背中に戻って』って言ってたし」

「へ、変質者じゃないですか」

「まあ、そういうの多いから。俺も――」

『あ、あたしは違うわよ』

「え?」

『え?』


 俺とコレット、二人で同時にきょとんとなった。

 なんでいきなり主張したんだろう。


「いやコレットの事じゃなくて、前にレンタルした貸し竜屋のワイバーン種の子のことだけど」

『ーーっ!?』


 コレットは言葉に詰まった、はっきりと表情を変えて、肌が赤くなった。


「なんで自分の事だと――」

『か、勘違いよ!』

「いや――」

『か・ん・ち・が・い』

「そ、そうか?」


 コレットの剣幕に押し切られた。

 まあ、いっか。


     ☆


 数時間くらい歩いて、湖の畔にやってきた。

 湖面がピンク色の湖だ。

 それだけじゃない、湖の周りに虹色の結晶が至る所にある。


「ここがそうなのか」

「はい、ガーレッド湖、です」

「なるほど……で、あれがそうなのか?」

「はい、あの結晶がラルク・アン・シエルですわ。湖の中に含まれている成分が水位の増減で徐々に結晶化したのがそれです」

「なるほど」


 俺は頷いた。

 これだけあれば、と思った。


『じゃあ、あたし採ってくるね』

「手伝いは――」

『いらない、普段からやってるし』


 コレットはそう言って、結晶に向かって歩き出した。

 確かに、普段から採鉱をしてる彼女には楽な仕事だろう。


「だったら、こっちは試すために何か獣を狩っとくか」

「そうですわね――あ、あそこ」

「む――イノシシか」

「丁度いいかもしれませんね」

「ああ」


 俺は頷き、歩き出した。

 イノシシは後ずさった。


 俺は手をつきだして、炎弾を放った。

 イノシシの背後に向かっていった。

 背後の地面が炎上し、炎の壁ができた。

 イノシシは炎の壁に退路をたたれた。


 そして――叫び声とともに突進してきた。


「シリル様!」

「――ふっ!」


 俺は突進してきたイノシシの首を抱えて、その勢いのままへし折った。

 首をへし折られたイノシシはしばらく痙攣して、動かなくなった。


「よし、後は捌くだけだ――」

「すごい!」

「え?」


 ジャンヌの方をみた。

 彼女は何故か、目を輝かせていた。


「どうしたいきなり」

「すごいですシリル様! シリル様、変身しない生身でも強くなってませんか?」

「え? ……あっ」


 俺は自分の手の平と、素手でたおしたイノシシを交互にみつめた。


「そう、かも」


 あまり実感はなかったし、地味な倒し方になったけど。

 竜人変身に引っ張られたかもしれない。

 俺は、素の状態でも身体能力が結構上がっていた。

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