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51.不死のシリル

 速度は確かに、今までの最高速度、その更に倍くらいになっている。

 平原を全力で疾走する馬の5倍、いや下手をすると十倍近い。


 文句なしに速い――のだが。


「はあ……はあ……」


 俺は立ち止まり、膝を押さえて息を荒げた。

 竜人変身がいつの間にか解けている。


 これだ……。


 スピードは確かに上がった、しかしエネルギーの消耗も更に上がった。


「はあ……はあ……そりゃ、そうだよなあ……」


 ふう、と息を整えて、立ち上がる。

 呼吸は落ち着いたが、全身の疲労感が半端なくすごかった。

 気を抜くと今にも倒れてしまいそうな位疲れている。


 今日はもうダメだな。

 どこかでがっつりとメシを食ってくるか。


『おとうさん?』


 顔を上げる。

 駆けていった原種の子が戻ってきた。

 その子は不思議そうな顔でとことこ戻ってくる。


 竜人変身の俺と同等なくらい速いのに、走ってないときはとことことまるで子犬の様に愛くるしい。


『どうしたのおとうさん』

「なんでもない」

『はあ……はあ……はやいよ……。あっ、ゴシュジンサマ』


 少し遅れて、ルイーズが姿を現わした。

 さっきと同じように息が上がっている。


「……はは」


 俺は小さく吹き出した。

 形は違うが、俺もルイーズも、この原種の子に振り回された様な形になった。


「あれ?」


 俺は気づいた。

 ルイーズが背中になにか背負っていることに。


「ルイーズ、それはなんだ?」

『これ? ゴシュジンサマのために狩ってきた』


 ルイーズはそう言って、背中に背負ってるものを俺の目の前に落とした。


「クマ……か」

『うん! ゴシュジンサマがたくさん変身したから』

「そうか。ありがとうなルイーズ」


 俺はそう言って、ルイーズを撫でた。


『えへへ……』


 ルイーズははにかんで、喜んでくれた。


「……」


 一瞬だけ、擬態でルイーズを人の姿にした。

 エネルギーがほとんど尽きてるから、本当に一瞬だけだった。


 案の定可愛かった。

 出会ったときはとにかく「眠い」って言ってたルイーズが、褒められてこんなに嬉しそうにするなんて。

 そのギャップが可愛かった。


『おとうさん、ごはん?』

「え、ああ。お前も食べるか?」

『うん、おとうさんと一緒にたべる』

「よし、じゃあ火をおこそう」

『丸焼きの準備しとくね』


 ルイーズはそう言って、近くにある丁度いい太さの木をへし折って、それでクマを口から尻まで貫通させた。

 俺はその場で火をおこして、串刺しにしたクマを焼いていく。


 料理じゃない、野宿のための「食糧」だ。


 クマは無事焼けて、俺と原種の子がそれをたべた。

 ルイーズは食べなかった。

 あくまで俺のエネルギー補充だって分かってるルイーズはむしろ。


『もう何頭か捕まえてこよっか』


 と提案した。


「いや、いい。とりあえず応急処置的でいい。料理になってないのを沢山食べるのはやっぱり辛い」

『そうなんだ……』


 ルイーズは消沈した。

 可哀想だが、これはここしばらくの俺の課題だからどうしようもなかった。


 食べられてエネルギーにはできても、下ごしらえも調味料もまともにない獣の丸焼きを二頭も食べられない。


 とりあえず一頭、拠点パーソロンに戻れる程度のエネルギーさえ補充できればいい。

 そう思ってクマを平らげた。


 一時間足らずで、クマを完全に平らげた。

 そこそこに大きかったクマは、骨だけになってたき火のそばに転がっていた。


「ご馳走さま。ありがとうルイーズ。助かった」

『えへへ』

「さて、エネルギー補充もしたし――」


 言いかけて、固まってしまう俺。

 地面に転がってる骨を見て、固まってしまった。


 厳密には、骨と、俺の足。

 それを交互に見て固まった。


『ゴシュジンサマ? どうしたの』

「……ルイーズ、パーソロンに戻るぞ」

『え? いいけど』

『おとうさんどこにいくの?』

「ちょっと思い出した。お前もついてくるか?」

『うん!』


 原種の子は大きく頷いた。

 名前をつけてやるべきで、いつまでも「原種の子」じゃなんだし――とは、今の俺はそこまで頭が回らなかった。


『急いでるの? ゴシュジンサマ』

「ああ」

『じゃあ私の背中にのって』

「たのむ。お前も乗って」

『うん』


 原種の子と二人で、ルイーズの背中に乗った。

 ルイーズはそこそこの速さで駆け出した。


 バラウール種。

 短距離では原種にまったく勝てないが、パーソロンまでのそこそこ長い距離だと彼女の見せ場だ。


 ルイーズはそこそこの速さで、まったく息切れせずに駆け抜けた。

 あっという間にパーソロンに戻ってきた。


 俺はルイーズの背中から飛び降りた。

 竜舎の外で日向ぼっこしているっぽいクリスがこっちを見つけて、顔を向けてきた。


 クリスがいるのは丁度いい。

 そんなクリスに向かっていった。


『おっ。帰ったか我が心友よ。―――むっ? 心友よ、雰囲気が変わったようだが何かあったのか』

「クリス、()をかしてくれ」

『骨』

「ああ、そうだ」


 俺ははっきりと頷いた。


 骨。

 クマの骨を見て、思い出した俺。


 バラウール・オリジンの足の爪のようなものが、身近にもう一つある。


『我の骨の事か?』

「ああ」


 そう。

 フェニックスホーンだ。


『ふむ、なにやら面白ろそうな気配だな。いいだろう、少しまて』


 クリスはそう言って、フェニックスホーンを用意してくれた。

 前と同じように、不死の肉体を引き千切って作ってくれた。


『これをどうするのだ?』

「たぶんいけるはずだ――変身」


 俺はつぶやき、竜人の姿に変身した。

 そして、クリスからフェニックスホーンを受け取る。


 次の瞬間、バラウール・オリジンの爪と同じ現象がおきた。

 フェニックスホーンを、竜人の肉体が取り込んだ!


『くはははは。ほう、ほうほうほう。これは面白い』


 クリスがいつになく楽しげな顔をしていた。


 そして――俺も感じた。

 自分の手の平を見つめた。


「不死だ」

『で、あろうな』


 興奮した。

 自分の身体だから感じ取った。


 フェニックスホーンを取り込んだ俺の肉体は、フェニックス種と同じ不死の特性を――。


 その瞬間、俺の意識が途切れた。


     ☆


 次に起きたとき、仰向けで見えている空を背景に、ルイーズと原種の子の心配そうな顔がみえた。


『起きた!』

『おとうさんだいじょうぶ?』

「ああ、大丈夫だ」


 俺は体を起こした。

 二人はちょっとどいてくれた。

 体の調子をチェックする――うん。


 問題ない、まったくもって問題ない。


「ただのエネルギーぎれだな」

『くははは、そのようだな』


 少し離れたところでクリスが楽しげに笑っていた。


「すごいな。クマ一頭分が一秒ともたないのか。しかも一瞬で気を失うまで消耗するとは」


 俺は状況を完璧に把握していた。


 竜人でフェニックスホーンを取り込んだ俺は、クリスと同じ不死の状態になった。

 つまり竜人変身中は文字通りの不死、無敵だ。


 しかしそれは今までの――。


「十倍くらいはエネルギーを消耗するな」

『くははは。まあ、我の力だしな』


 クリスは大笑いした。

 俺も「そうだな」と納得した。


 フェニックスホーンを取り込んだ力、完全に無敵な力。

 そのかわりに今までとは比べものにならないエネルギーを使う。


 クマ一頭で一秒ってことは、普通に一ヶ月分くらいのメシを食ってようやく十秒動けるかってところかな。


 文句なしに強い、しかも不死で無敵。

 そのかわり燃費が死ぬほど悪い。


「わかりやすいな」

『くはははは、そうだな』


 笑うクリス、ほっとしつつあるルイーズと原種の子。


 俺は――興奮しだした。


 エネルギーさえ確保できれば、文字通りの無敵で最強になれるこの力。

 希望に満ちあふれたこの力に、俺はものすごくわくわくしだすのだった。

この話で第3章終了です、ここまでどうでしたか。


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