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49.ドラゴン・オリジン

「それで、依頼はどうするんだい」

「そうですね……」


 俺は少し考えて、ローズに答えた。


「わるいけど、こんなに来てしまうんじゃ、仕事を選ばせてもらうことになる」

「うん、その方がいいね。もう昔のあんたじゃないんだ、自分を安売りする必要はないさ」

「いや、そういうことじゃないんだ」

「うん? だったらなんだっていうんだい?」

「竜騎士ギルドに来る依頼だ、ドラゴンが動く事を前提にした依頼だろ」

「そうだねえ。まあ、こういう形だと『乗り遅れちゃいけねえ!』って感じで、そうじゃないのもあるんだけどね」


 ローズは肩をすくめつつ、微苦笑しながら言った。


「そうなのか?」

「あんたととにかく繋がりが作りたくてね。ドラゴンとは関係のない、名ばかりの依頼もそれなりに混ざっているはずさ」

「へえー」


 そういうこともあるのか。


「あんただって、駆け出しのころに、お貴族様の案件なら、例えただ働きでも受けてただろ?」

「ああ……そういうことか」


 俺は頷き、納得した。

 そういう話なら分かる。


 実際、カトリーヌ嬢の一件は、他に比べて実入りが少なかったのにもかかわらず俺はそれを受けてたからな。

 その場での報酬が少なくても、繋がりを持てるのなら引き受けていた。


 つまり、あの時見あげていたポジションに俺はたどりついた訳か。


 そう思うと――だいぶ感慨深いものを感じた。


「まあ、それはそうとして。普通はドラゴンに働かせるだろ」

「そうだね、普通はね」


 俺が話を本筋に戻して、ローズが頷いた。


「うちは、片っ端から受けてドラゴンを酷使するのってあり得ないから」

「そういうことかい」


 ローズはフッと笑った。

 ギルドの立ち上げ、ドラゴン・ファーストの立ち上げにはローズが深く関わっている。

 彼女がこの世で一番最初に俺のポリシーに触れた人間だ。

 


「あんたらしい理由だ」

「拘りだから」

「理由はどうであれ、あたしも仕事を選ぶのには賛成だ。どうする、何か選んでいくかい? それとも一回は全部断ってもいいけど」

「内容を見せてもらってもいいか?」

「わかった」


 ローズは立ち上がり、俺の背後にあるドアを開き、外に向かって呼びかけた。

 そのまま、ドアを開けた状態を保った。

 一分くらいして、開けたままのドアから一人の男が入ってきた。


 男は紙の束を抱えていた。

 その抱えている紙の束を俺の前のテーブルの上に置いた。


 置いてから、ローズに聞く。


「いいんですか、細かい分類とかまだですけど」

「ああ、後はこっちにまかせな」

「わかりました」


 男は頷き、部屋から出て行った。

 見送ってドアを閉めたローズが改めて俺の前に座った。


「これが依頼書だ。ちなみに今の間で27件も増えてたらしい」

「そうなのか」


 俺は紙の束の一部を手に取った。

 庁舎の掲示板でよく見る依頼書の形式になっているから、内容が見てすぐに把握できた。


 大半はまともな依頼だけど、一部はローズの言うとおり。


「本当にどうでもいい事も混ざってるんだな」

「ははは、それだけ人気ものだってことさ」

「こういうのはやめとく」


 ギブアンドテイクでいうと、向こうから一方的なギブをもらうわけだから、まああんまりよろしくないだろう。


 俺は、ちゃんとした依頼だけを抜き出して、それをみた。


「……うん?」

「どうした」

「これ……」


 ぱっぱっぱ――って感じで選別していた俺の手が止まった。

 その一枚の依頼書を見つめた。

 ローズが身を乗り出してその依頼書を覗き込んだ。


「崖から降りられなくなったドラゴンの仔(、、、、、、)の救出――珍しいね、子猫ならよくある話だけど」

「うん」


 俺は頷いた。

 たまに、崖とか木の上とか、そういった高所に登って降りられなくなった猫の救出という依頼がある。

 人間だと登れない場所でも、飛行能力をもつドラゴンの種なら簡単にできる。

 だから竜騎士にそういう依頼はよく来る。

 報酬は大抵安いからみんなあまり受けたがらないけど。


 この依頼もそうだった。

 崖から降りられなくなった子供ドラゴン(、、、、、、)の救出、成功報酬がわずか5リールだ。


「これを受けさせてもらうよ」

「いいのかい?」

「子供のドラゴンが危険な目にあってるんだ、見過ごせない」

「とことんあんたらしいね。まあ、好きにすると良いさ」


 ローズはそう言って、肩をすくめて笑った。

 言葉は呆れてる人間が放つ物だったけど、ローズの笑みはむしろ好意的なものだった。


     ☆


 俺はルイーズと二人で、子供のドラゴンが降りられなくなった、とされる崖に向かった。

 前に姫様を助けたあたりと近いから、早く駆けつけるためにも――という意味で近くまでいったことのあるルイーズと一緒に向かった。

 ルイーズの背中に乗って、向かっていく。


『それで、また私が助ければいいんだね』

「それは状況次第だ。ルイーズで助けられたらルイーズにお願いして、難しかったら俺がやる」

『ご主人様できるの?』

「竜人に変身すればな。救出はそんなに時間掛からないから、パッと変身してパッと助ける、でいけるはずだ」

『そっか。そういえばどんな子なの?』

「それもルイーズを連れてきた理由の一つなんだけど。依頼人が詳しくないなりに伝えてきた特徴だと、たぶんバラウール種だと思うんだ」

『そっか。じゃあ助けないと』


 心なしか、ルイーズは少しやる気が出たように見えた。

 同種の子を助ける、という事でやる気が出たみたいだ。


 ルイーズの背中に乗ったまま、すんなりと目的地にやってきた。

 姫様が転落した所から数十メートル程度しか離れていない場所だった。


 崖の上に小さな出っ張りがあって、そこに遠目ながら小さい、ドラゴンっぽい何かが見える。


『震えてる……かわいそう』

「いけそうかルイーズ」

『うーん、足場ないし、小さいから暴れられると……』

「わかった、だったら俺がやる」

『ごめんなさいゴシュジンサマ……』

「気にするな、出来る事はできる、できないことはできない。それで気に病むことはない」

『ありがとうゴシュジンサマ』


 俺に言われて、少しだけほっとしたルイーズ。

 俺は改めて、ドラゴンの子がいる方に向かった。


「……変身」


 つぶやき、竜人のすがたに変わる。

 その瞬間からエネルギーが体から急速に失われていくのを感じるが――問題ない。


 トン、と地面を蹴った。

 一秒と経たずに、数十メートル先の崖の上に飛び上がった。

 そしてドラゴンの子が俺を認識する前に――暴れ出す前にひったくるようにして抱きかかえた。


 そして崖の壁面を蹴って、ルイーズが立っている所に戻ってくる。


 その間、三秒とかからなかった。


『ゴシュジンサマすごい! ほとんど何もみえなかった!』

「ふう……ありがとう」


 俺は元の人間の姿に戻った。

 わずか三秒とはいえ、結構なエネルギーを消耗した。


 やっぱり多用はできないな、と思った。


 俺は抱きかかえているドラゴンの子を地面に下ろした。

 崖の上から一瞬で地上に。


 ドラゴンの子は何が起きたのか分かってない様子で、ポカーンとしていた。


『大丈夫、どこか怪我はない?』


 同種にだからか、ルイーズは普段に比べてやや優しげな口調で語りかけた。


『おねえちゃん……だれ?』

『私はね――あれ?』


 名乗りかけたルイーズ、何かに気づいてとまった。


「どうしたルイーズ」

『この子、バラウールじゃない』

「なに?」


 俺はパッとドラゴンの子を見た。

 生まれたばかりのドラゴンの子は、まるで子犬くらいのサイズで、ちょこん、と座って俺達を見あげている。


 ぱっと見、バラウールの子だが。


『この子、原種だよ』

「原種……って、あの!?」

『うん、あの』


 ルイーズは頷いた。

 俺はびっくりして、ドラゴンの子をみた。


 竜騎士の元にいるドラゴンは、人間の手が加えられた――いわば「養殖」ものだ。

 そしてもちろん、かつては人間の手に負えなかったドラゴン達もいた。


 そういうドラゴンを「原種」と呼ぶ。

 ごくごく稀にいるけど、ドラゴンの中で1万人に1人いるかどうかという珍しい存在だ。


『バラウール・オリジンだよ』

「バラウール・オリジン」


 はじめて見るドラゴンの原種は、可愛らしく、きょとんとした顔で俺達を見つめ返していた。

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