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43.最強形態

なし

「次は、どんな力が――むっ」


 竜人変身でどんな力があるのかを確認しようと思ったら、自分の意思に関係なく、人間の姿に戻ってしまった。


『どうした心友よ』

「……エネルギー切れだ」


 俺は自分の手の平を見つめて、体の感覚を把握して、それをクリスにはなした。

 クリスは一瞬きょとんとした後。


『くはははははは、なるほど。では食事タイムと行こうか』

「そうだな」


 俺は頷いた。

 できればすぐに竜人の形態を把握したい。

 そのためには大量に飯を食ってエネルギーを補充しないといけない。


 さてボワルセルの街まで行って買いだし――と思っていると。


『少し待っているといい』


 クリスは竜舎から飛び出した。

 追いかけて外にでると、中型種の巨体が空を飛んで去っていく後ろ姿がみえた。


 どこへ行くんだろうか――そう思って数分。


 クリスが空を飛んで戻ってきた。


 出ていったときと違って、前足()に何かを鷲掴みで持っている。


『戻ったぞ心友よ』

「それは……野牛?」

『うむ、この一頭で当面は足りよう』

「そうか……ありがとうクリス」

『くははははは、我と心友の仲ではないか』


 クリスは大笑いした。

 そのまま狩ってきた野牛をつかんで、地面に炎を起こしながら、つかんだままその炎に入れた。


「丸焼きってそういう風にするもんだっけ」

『くはは、我は炎には焼かれないからな』

「そりゃそうだけど」

『心友が自分でやるか? 心友も我との契約で炎は無効であろう?』

「いや……俺がやると絵面が」


 俺は微苦笑した。

 中型種のドラゴンであるクリスがやってるから、まだ「食材を持って焼いている」という絵図になるが、人間の俺がやるととんでもないことになる。

 何しろクリスが狩ってきた野牛は大人の俺よりも一回り大きい。


 クリスが言うようなことをやろうとしたら――。


「その牛に抱きついたまま炎の中につっこむ形になる。その絵面がな……」

『ふむ。まるで心中だな』

「うぐっ……それを言わないでおいたのに」


 俺は眉をひそめて更に苦笑いした。

 牛に抱きついたまま焼身自殺する絵は見れたもんじゃない。


『くははは、すまんすまん。おっと、そろそろ焼けたぞ』

「そうか」

『焼きながら食すといい』

「……ふむ」


 俺は小さく頷いた。

 こっちの「絵面」は大丈夫だった。


 俺は炎の中に入った。

 クリスとの契約で俺も炎のダメージを受けないから、炎の中にいてもダメージは受けない。

 俺は炎の中で、表面が焼けた野牛にナイフを突き立てた。

 焼かれたまま、肉を切り落として、口に運んだ。


「塩っ気はないが、結構美味いな」

『人間は食材に鮮度を求めると聞く。最高に新鮮だからな』

「こういう食べ方は――いやしないこともないけど」


 旅の途中、竜騎士なんか野宿をする事が少なくないから、野獣を捕って丸焼きで食べる事が少なくない。

 炎の中で食べる、と言うことはあり得ないが。


 俺は炎の中で野牛を食べた。

 コレットとの契約の力で、食べたものをエネルギーにして保存する。

 普通は腹に溜まったり脂肪になったりするものを、エネルギーとして体の中に溜めておく。


 そうして、俺の体をはるかに越える野牛一頭分を腹に収めた。

 さすがに骨とかは食べられなかったが。


「……よし、大分貯まった」

『では再開しようか』

「ああ」


 俺は頷き、軽く拳を握った。


「……変身」


 そして呟く。

 姿が、再び竜人の姿に変化する。


「肉体の能力が跳ね上がっているな」

『ふむ、よし、では我を攻撃してみるといい』

「攻撃?」

『くははは、我は不死。いくら攻撃されようが湖面を棒で打つのと同じだ』

「波立てても最後は元通りに戻るってことか」

『うむ』


 クリスははっきりと頷いた。

 確かにそういうことなら固辞する必要もない。


「分かった、行くぞ」

『くははは、こい』


 俺は頷き、クリスに飛びかかった。

 飛びかかりながら、拳を握って弓引いて、軽くジャンプしながらの無造作な全力パンチを放った。


 拳がクリスの横っ面をとらえて――吹っ飛ばした。


「まだっ!」


 俺は空中を「蹴った」。

 空中を蹴って、まるで飛行するかのように、吹っ飛ばしたクリスを追いかけた。


 追撃。


 クリスに追いつき、今度は拳のラッシュを放った。


「うおおおおお!」


 ラッシュがどれだけいけるのか、とにかくパンチを放った。

 一秒あたり10……20……30。

 最終的に、一秒間で50発のパンチを打てて、殴って次のパンチを放った後に声が遅れて届くという。

 パンチの速さが、音の速さを超越した。


『むむむ……やるなあ心友』


 殴られっぱなしのクリスはちょっとだけ顔色を変えた。

 竜人の姿の攻撃速度と力がクリスの予想をうわまわったみたいだ。


 そのクリスにはいつもの余裕がない。

 殴ったそばから殴られたところが炎を纏って再生しているが、それが微妙に追いつかなくなっている。


『もっといけるか心友』

「もちろん――あっ」


 瞬間、体が止まった。

 一旦距離を取った後、さらに飛びかかろうとしたが、できなかった。


 体が、人間に戻った。

 俺はまた、自分の手の平を見た。


「エネルギー切れか」

『ほう? もう切れたのか』

「ああ。あの牛一頭で――1分も戦えないみたいだな」

『くははははは、燃費が悪い事この上ないが。だが』

「だが?」

『さすがの力だったぞ。我をああも圧倒出来るのなら、竜人になっている最中は人間では最強と言っていいだろう』

「ふむ」


 俺は自分の手の平を見つめて、頷く。

 牛一頭のエネルギーで一分間変身できる、変身中はフェニックス種さえも圧倒できる、最強の竜人の姿。


「いざって時の切り札だな」


 使いどころを見極めないといけないが、それを補ってあまりある強力な力を手に入れたのだった。

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