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31.寡黙なユーイ

 俺はガルグイユ種の子を連れて、店を出た。

 小型種の中でも取り立てて小さな種の子は、横に静かについてきた。


 大型犬とか、仔馬とか。

 それくらいのサイズの子。

 ルイーズ達とは目線の高さが同じくらいだったり、時にはこっちが見あげるくらいだったんだけど、この子は完全に見るときは下を向いてみる。


 そんなガルグイユ種の子を連れて、宿に戻ろうと街の中を歩いた。


「そうだ、名前をつけなきゃな」

『……』

「こういうのがいい! とかあったら教えてくれ」

『……』

「……」

『……』

「もしもーし」


 反応が返ってこなかったから、手を目の前に振って気を引いた。


『……なに?』

「話聞いてた? 名前を決めなきゃって」

『聞いてた。私の事だと思わなかった』

「ああ」


 俺は小さく頷いた。

 そういうことか、まあそれもそうだな。

 普通の竜騎士はそうやっていちいちドラゴンに名前をつけないからなあ。


「悪かった、説明が足りてなくて。改めて、何か希望する名前はあるか?」

『……ない』

「ないのか?」

『そう、名前なんて、なんでもいい』

「なるほど」


 俺はまたまた頷いた。

 色々と納得した。


 そういう子なんだろうな。


 まあ、それならそれでいい。

 ドラゴンも人間と一緒で、いろんな性格をしてる。


 寡黙な性格をしてるからと言って、「性格を変えろ!」とは絶対言えない。

 そういう風にねじ曲げるのは望む所じゃない。


 ない、が。


「じゃあ勝手につけて勝手に呼ばせてもらっていいかな。名前がないとさすがに人間の俺には不便だ」

『好きにして、いいよ』

「ありがとう。それじゃ……ユーイはどうだ」

『ん……』


 ガルグイユ種の子はかなり薄いリアクションをした。

 OKかNGかいまいちわかりにくい反応だったが、今までの事でなんとなく分かってきてる。

 反応が薄いだけで、ノーって訳じゃないんだろう。


「じゃあこれからよろしくな、ユーイ」

『ん……』


 やっぱり反応は薄かったが、ともかくこれで名前が決まった。


「それでユーイ、ガルグイユ種の子は周り()擬態させる能力があるって聞いたけど、本当なのかそれは」

『ん……本当』

「どういう感じなんだ、説明してくれないか」


 俺はまず、ユーイに説明を求めた。

 ガルグイユ種にそういう能力があるという事は知識で知っているが、具体的にどうなのか、というのは分からない。


 というより、この手の「知識だけで知っている」ことは、色々と「そりゃそうか」って感じで抜け落ちてるパターンが多い。


 例えばムシュフシュ種のコレットも、消化に使われない胃袋三つを貯蔵とか運搬に使えるという知識はあるが、それをやると体全体が膨らみ上がることは知らなかった。


 実際にみたら「そりゃそうだ」ってなることも、実際に目にするまでは意識にも上がらないことがよくある。


 だからまずは本人に説明させて、場合によっては実演してもらおうと思った。


『説明……』


 ユーイは少し考えた。


『二種類、ある』

「二種類」

『私と触ってる生き物が、私と一緒に姿が消えて見えなくなる』

「へえ、見えなくなるのか」

『うん、見えないだけ。声を出したら聞かれちゃう』

「ふむ」

『でも、触られなければ、絶対に見えない』

「そうか。ルールがはっきりしてるのはいいな」


 俺は小さく頷いた。

 変な例外がないというのはいいことだ。


「もう一つは?」

『私の周りごと見えなくなる』

「周りごと?」

『……範囲』

「範囲」


 ユーイの言葉を繰り返した。

 その言葉の意味を吟味した。


「……よく分からないから、実際にやって見せてくれるか?」

『別に、いい』

「よし」


 折角だから、クリス達にも見てもらおう。

 そう思って、ユーイを連れて、宿に急いだ。


     ☆


『お帰りなさいゴシュジンサマ』

『宿の人がご飯を持ってきてます』

『冷めちゃってるから作り直してもらえば?』


 宿に戻ってきて、中に入ると、竜舎側からルイーズら三人が俺に話しかけてきた。


「ただいま。ご飯はいい、後で食べる。それよりも――」


 俺は横をちらっと見た。

 連れて帰ってきたユーイが、ドラゴンながら、人間の俺にも分かる位の無表情でルイーズ達をみていた。


『その子が新しい子?』


 俺の視線に気づいたコレットが先に聞いてきた。

 コレットに言われて、ルイーズとエマもユーイに気づいた。


「ああ、そうだ。ドラゴンの中でもちっちゃい方だから気づかなかったのかな」

『くははははは、そういうことではないぞ』


 今度はクリスが言ってきた。

 中型種のクリスは向かって来ることなく、竜舎部分の地面に寝そべったまま言葉だけかけてきた。


「そういうことじゃない?」

『その三人は心友のことしか目に入っていなかったということだ』

「この子が小さいからだろ?」

『くははははは。うむ、それもゼロではないということにしておこう』

「???」


 どういう事なんだ一体。

 まあいいや。

 クリスがちょこちょこ思わせぶりな事をいうのは今に始まった事じゃない。


 むしろ、大事な事だとクリスははっきり言ってくる。

 思わせぶりな時は大した事じゃない世間話系の事が多い。


 なら、それは今は良いだろう。


「紹介する。ガルグイユ種のユーイだ。ユーイ、こっちがクリス、ルイーズ、エマ、それにコレットだ」


 俺はそう言って、五人を互いに紹介した。


『ん……』

『なに、無口な子ね』

「ああ、どうやらそういう性格らしい」

『ふーん、そんなんでいいの?』

「いいじゃないか、そこは個性だ」

『でも――』

『心友の言うとおりだぞ。どこぞに好きなのに、あえて高圧的にでると言う個性の持ち主も――』

『ガブッ!!!』

「うわーお」


 思わず感嘆する声が出てしまった。


 クリスが何かをいうと、コレットはパッと振り向いて、電光石火、としか言いようが無いスピードで飛びつき、噛みついた。


 やっぱり仲がいいなあこの二人は。

 その一方で。


『私はルイーズ、よろしく』

『エマって言います。一緒に頑張りましょうね』

『ん……』


 他の三人はスムーズに自己紹介をした。

 打ち解けるまではいってないが、ひとまずは大丈夫だろう


「さてユーイ。もう一つの擬態を見せてくれるか?」

『……わかった。あれ、いいの?』

「あれ? ああ、仲よさそうだからいいんじゃないのか?」

『そう』


 ユーイは頷き、トコトコと歩き出した。

 クリスとそれに噛みついてるコレットの所に向かっていた。

 噛みつきながら、じゃれ合ってる二人の前にたった。


 次の瞬間――。


「むっ」


 俺は眉をひそめた。


 クリスに噛みついてるコレットの姿に眉をひそめた。


「ちょっとちょっと、何をしてるんだ二人は。なんでそんなに仲が悪い(、、、、)んだ?」

『ふぇ? はひをひっへふほ?』

『ほう……』


 噛みついたままもごもごするコレット、楽しげににやりと口角をゆがめるクリス。

 いやそんなことよりも――。


 言いかけた瞬間、また――。


「あれ?」


 俺はポカーンとなった。

 コレットはクリスに噛みついたままだ。

 噛みついたまま、きょとんとこっちを見ている。


 それは、見慣れた光景。


「なんで……仲が悪いって思ったんだ?」

『これが、もう一つの擬態』

「もう一つの?」


 ユーイの言葉に、俺は頭の中でとある想像をした。

 それを確認するために、ユーイに聞いた。


「詳しく説明してくれないか」

『見ての通り、見たもののイメージを変える』

「イメージを」

『見える、けど、受け取り方が変わる』

「受け取り方……」


 俺は今見えた光景、受け取った感じを思い返してみた。

 やっぱりそうか、という感想がでた。


「例えばだけど」

『……』

「道ばたに人間の死体が転がってたとして、それを『道ばたに死体くらい転がってるの普通だよねー』、とかにする事ができるってことか?」

『……そう』


 ユーイははっきりとうなずいた。


「なるほど、そういうことか。これならガリアンの畑を隠せる(、、、)な」

『くははははは、さすが心友、察しがいいぞ。まあそれだけではないがな』

「なにか知ってるのかクリス」

『うむ。ガルグイユ種であろう? 契約してみるといい。心友とガルグイユ種の契約なら面白いことになるぞ』

「契約か」


 俺はユーイをみた。

 はっきりとそう言いきったクリス、だから俺はちょっと期待した。

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