表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/106

28.発想の転換

 マンノウォーの街をしばらく歩き回って、ギグーという男を捜した。


 歩き出してわずか数分しただけで、はっきりと実感した。

 この街は、ボワルセルの街よりも遙かに賑わっている。


「賑やかな街だなあ……」

『この街を作った人って、昔は竜騎士ギルドのギルマスだったみたいですね』

「そうなのかエマ」


 俺は驚いた。

 エマを見ると、彼女は逆に俺の反応に驚いたみたいだ。


『は、はい。リントヴルムにいたとき、そこのギルマスが言ってました』

「あいつが……」


 俺は「へえ」ってなった。

 リントヴルムのギルマスの事は知ってる。

 あの、「ドラゴンに寄り添う」という俺の考え方を全否定して、俺をギルドから追放した男だ。


 今となっては恨みもないが、ちょっと面白いとは思った。


「どういう事を言ってたんだ?」

『えっと……俺もいつかは、金と力を身につけてあいつのように自分の街を作ってやる。って言ってました』

「ああ」


 なるほどなあ、と思った。

 言われてみれば、権力欲の強い男だったっけな。

 力をつけて自分の街を作りたい――なるほどあいつが考えそうなことだ。


 というか、ギルドマスターだった人間がどうやって街を作ったんだろう。

 その辺ちょっと興味があるな。

 俺も、人間達のじゃなくて、ドラゴンのための街なら作ってみたい。

 そのうち調べとくか。


『ねえ、あれ見てあれ』


 今度はコレットが話しかけてきた。


「あれ?」

『あそこの店、客が立って麺とかすすってるあそこ』

「あれか」


 コレットの説明と目線で、俺は少し先にある立ち食いの麺屋に目を向けた。

 店というよりは屋台の方が相応しく、客が軒先でスープ麺をすすっていた。

 完食した客は、なんと器をその場でたたき割ってしまったのだ。


 質素な陶器の器は、軽く地面に叩きつけただけでパリパリと割れてしまった。


『あれなんなの?』

「さあ……」


 俺も首をかしげた。

 客が器をたたき割った後、代金を支払って去っていった。

 店主がそれをとがめる事なく完全にスルーした――ばかりか、別の客もまた完食して、器をたたき割った。


「どうやらあれが普通の行動らしいな」

『なんで?』

「わからん……聞いてみるか」


 俺がそう思って、屋台に近づこうとしたその時。

 小柄な少年が、風呂敷を担いでやってきた。

 その屋台の所で担いでた風呂敷を下ろして、開ける。

 風呂敷の中は、さっきの客達がたたき割った器――丼が入っていた。

 質素――というかかなりやすっぽい作りの丼だった。


 少年はそれを屋台の主に引き渡した。

 屋台の主は何枚かの銅貨を少年に渡した。


「はい、2リールね」

「ありがとう」


 少年は銅貨を受け取って、畳んだ風呂敷を持って、走ってどこかに去っていった。


「なるほど……」


 俺は小さく頷き、周りをみた。

 今見えてるだけでも4~5軒くらいの飲食店があって、そのほとんどが同じように客が使った器をたたき割っていた。


 そしてちょこちょこと、質素な身なりの少年がやってきては、器を補充していく。


『どういうことなの?』

「使い捨てる習慣みたいだな、ここは」

『なんで?』

「それで仕事が増えるからだろうな」


 俺はちょっとだけ感心した。


 どんなものでもそうだが、使い捨てるということは、それを作る人間に安定して仕事がはいる。

 安定して仕事が回り続けるシステムっていうのはいいことだと思った。


『それもあるのだろうが』

「ん? なんか知ってるのかクリス」

『マンノウォーといったか。この土地は百年前まで、何かがあれば疫病が流行る土地だった』

「疫病が……そうか、食器とか使い捨てればそういうのが防げるのか」

『さすが我が心友、察しがいいぞ』


 なるほどなあ。

 俺はもう一度周りを見回した。

 マンノウォー。

 色々と、面白い街のようだ。


     ☆


 しばらく歩いて、街の人に聞いてみたりして。

 俺達は、ギグーの店にやってきた。


 街の賑わってる区画から外れている場所で、人の行き交いが少なく、さっきまでいたあたりに比べるとどこか寂しげな感じがする場所だった。


『ゴシュジンサマ、あれみて。あの看板の右下の所』

「ん?」


 ルイーズに言われて、俺は店の看板をみた。

 看板の右下に紋章があった。

 その紋章は――。


「割り符の紋章か」

『だよね』

「なるほど、じゃあここでまちがいないな」


 俺は頷き、四人を連れて中に入った。


 最初からドラゴンを連れてくるのが前提みたいで、入り口は大きく作られてて、入ってすぐの所も広かった。

 中型種のクリスもぎりぎり入れるくらい広かった。


 中に入ると、奥から一人の男が現れた。


「何者だ」


 柄の悪そうな男だった。

 よく見たらあごの下に大きな傷跡があって、それがまだ真新しくて、ピンク色をしていた。


 もっとも、竜騎士にはこういうタイプの男も結構いるから、驚きはしなかった。

 しなかったが、相応の応対をした。


「シリル・ラローズだ」

「ふん、お前がか。ブツは?」

「コレット、たのむ」


 俺は首だけ振り向き、肩越しにコレットにいった。

 コレットは頷き、腹の中から竜涙香の入った箱を次々と吐き出した。


 それを積み上げて、男に見せる。


「確認してくれ」

「ふむ」


 男は近づいてきて、箱を開けて中身をチェックした。

 ツメで竜涙香の表面をひっかいて、匂いを嗅いだ。


 匂いで分かるものなのか?


「ん……確かに受け取った」


 男は頷いた後、パンパン、と手を叩いた。

 すると奥から四~五人くらいの男がでてきて、竜涙香の入った箱を担いでいった。


 代わりに、別の箱を置いてった。


「それが約束の報酬だ、確認しろ」


 俺は箱を開けた。

 中に銀貨がびっしりつまっていた。

 目算だけど、まあ数万リールというのは間違いない。


「コレット」

『任せて』


 コレットはその箱を飲み込んだ。


「数えなくていいのか?」


 男が聞いてきた。


「いいさ。仮に足りてなくてもたいしたことじゃない」

「あん? なんでだ」

「次が無くなる、と言うだけのはなしだ」

「……ふん」


 男は面白くなさそうに鼻をならした。


     ☆


 俺達は店の外に出た。


『すごいねゴシュジンサマ、あっさり三万リールが手に入ったよ』

「そうだな」

『くはははは、それよりも、我は心友のあの余裕が見ていて面白かったぞ』

『余裕?』


 ルイーズが首をかしげた。


『うむ。人間どもの交渉はなあ、究極に言えば「やる」「やらない」の綱引きだ。力ある人間の「やらない」というのが一番つよい手札なのだ』

『そうなんだ』

『それを自然体で切れる心友はさすがだぞ。あの瞬間、あの男が心友の事をはっきりと再評価したぞ』

『そうなんだ、さすがゴシュジンサマ』


 確かにクリスの言う通りだけど、それを解説されるとちょっと恥ずかしい。

 まあ、それはいいとして。


「……」

『ふむ? 何を考えているのだ我が心友よ』

「え? ああ、竜涙香の事をな」

『ふむ?』

「あれを運んできただけで3万リールの報酬をくれた。ってことは、あれを扱ってるあいつらはもっとでっかい利益を出してるって事なんだろ?」

『そうだろうな』

「あれを、自分達でやれば丸儲けなんじゃないか? って思ってな」

『くくく、くわーはっはっはっは』


 クリスは一度「溜めた」あと、大笑いしだした。


『さすが目のつけどころがいいぞ心友よ』


 やっぱりそうか。

 クリスの言葉は、俺の考えを後押しするようなものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ