15.最高の相性
「アーティファクトって……なんだ?」
初めて聞く言葉だ。
『竜の秘宝って呼ばれているものです』
答えたのはエマだった。
「竜の秘宝?」
『はい。その大昔、竜王N.Mが主神ロマンシエの力を借りて作った、ドラゴン達のお宝です』
「そんなものがあったのか」
『私も見るのは初めてです』
『あたしも』
『うん……』
「そうか……あれ?」
納得しかかったところで、違和感を覚えた。
最初に答えたエマも、そしてルイーズにコレットも。
全員が、初めて見るのだという。
「みんなはじめて見るのに、なんでこれがアーティファクトだってわかるんだ?」
『分かるんです、その、本能で……』
エマが真顔と、真剣そのものの声のトーンで答えた。
ルイーズとコレットは小さく頷いた程度にとどまった。
「本能で、か」
俺は持っている指輪を見つめた。
俺には、そこまでのものは感じない。
手元にある指輪は、俺からすればただの指輪だ。
だけど、本当に三人が「本能で」わかるくらいのものだったら、これはものすごいお宝だ。
「じゃあ……はい」
俺はそう言って、指輪を三人に向かって差し出した。
ルイーズも、コレットも、エマも。
三人が一様に、びっくりした顔で俺をみた。
『はい、って。どういう事なのゴシュジンサマ』
「だって、これはドラゴン達のお宝だろ。そしたらお前達が持ってた方がいいだろ?」
『そ、それは……そう、かな?』
「うーん、コレットが持ってた方がいいかな。お腹に入れとけばいいし」
『えええええ!?』
水を向けられたコレットが素っ頓狂な声を上げた。
『だめだよ! アーティファクトを胃袋に入れるなんてバチがあたる』
「そうなの?」
『シリルさん、私達じゃ、恐れ多くて持ってられないです』
エマがそういい、ルイーズとコレットがコクコクと頷いた。
普段、どっちかと言えば自由な性格のルイーズやコレットが揃って恐縮してる。
よほどのことなんだろうな、と思った。
「わかった、じゃあこれは俺が大事に預かる」
そういうと、三人は見るからにホッとした。
「しかし、これはどういうお宝なんだろ。俺の目には普通の指輪にしか見えないんだけど」
……。
俺は少し考えて、つけてみた。
ちょっと怖くはあるが、それと同じくらい好奇心が首をもたげている。
アーティファクト――指輪をつけてみた。
サイズ的に、人差し指と合ったから、そこにつけてみた。
指輪をつけて右手の人差し指をじっと見つめた。
手首をクルッ、クルッ、と回して、何か変化がないかと確認もしてみた。
『ど、どうなの?』
『なにか変化はありましたか?』
ドラゴンたちが、俺以上に恐る恐る、って感じで聞いてきた。
「うん、特に何も変わらないな」
俺は指輪を見つめたまま答えた。
つけてみたけど、今の所何も変わらない。
手につけるものじゃないのかな――。
「え?」
顔を上げた俺は驚いた。
『どうしたんですか?』
「それ……」
『それ?』
俺が指さしていうと、エマは自分、そしてルイーズとコレットをくるっと見回した。
ルイーズとコレットもだ。
俺が彼女達を指さしたから、彼女達は不思議そうに互いをみた。
互いをみても、頭にうかんだ「?」は取れていない。
それはつまり――見えてないってことだ。
俺は指輪をはずした。
すると見えなくなった。
もう一度つけてみた。
つけると見えるようになる。
『なんなの? わかるように言いなさいよ』
コレットがちょっとイライラした感じで言った。
そんなコレットに向かって、俺は。
「コレット、お前、今日は体調悪いのか?」
『え? そ、そんなことないわよ』
軽く動揺したコレットだが、意地を張って否定した。
「そう? でもアーティファクトがそう言ってるけど」
『アーティファクトが?』
「ああ。三人の頭の上に――二本のバーが見えてる」
俺に言われて、三人は互いの頭上をみた。
『何もないけど』
『バカね、だからアーティファクトなんでしょ』
ルイーズがコレットに指摘した。
『うっ、わ、分かってるわよ』
コレットは言葉につまった。
普段ならここで一言二言言い返すのがコレットなのだが、事がアーティファクトとあっては言い返せないって感じだ。
俺はその二本のバーを更にみた。
アーティファクトをつけてて、みていると次第に「何となく」分かってきた。
二本のバーは、それぞれ彼女達の体と、心の健康度だ。
コレットのは、体のバーが半分くらいにまで減っている。
「つかれてるんだな、コレットは」
『そ、それは……』
「そうか、考えてみたら最近一人で働かせてるからな。そりゃ疲れもするか」
『べ、別にこれくらいの事どうって事ないわよ』
「無理はしなくていい、今日は休め」
『だから別に――』
「このアーティファクトは、無理させないために俺の手元に来たんだと思う」
アーティファクトをもう一度持ち出す、コレットはまたしても黙り込んだ。
「無理はするな、休め」
『ふ、ふん。分かったわよ。休めばいいんでしょ休めば』
コレットは渋々ながらも、俺が休めと言ったのを受け入れた。
俺は指輪を見て、三人のバーをみた。
これは、最高のアイテムだ。
これがあれば、ドラゴンたちに無理をさせずにすむ。
ドラゴン・ファーストとして、最高のアイテムを手に入れた、と俺は強く確信したのだった。