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11.ギルドレベル

「うん、これで受付けたよ」


 ローズさんが頷き、書類にハンコを捺した。

 その書類に最初からくっついてるカードを引っぺがして、俺に渡した。


 ギルド「ドラゴン・ファースト」って名前が入った、身分証明書のようなカードだ。


「それがギルドの認可証さ。失くすと再発行に金を取られるから注意するんだよ」

「ありがとうございます。結構あっさりとしたもんなんですね」

「そういうものよ。ギルドの立ち上げは誰でも出来る、問題はそれからなのよ」

「誰でも出来る、ですか?」


 俺は複雑な気分になった。

 一万リールは結構な大金で、結構運が良かったから揃えられただけに、それを誰でもできるって言われるとちょっとやるせがない。


「そういうものさね。金でカタがつくことはそりゃ誰でも出来る、簡単な方さ」

「むむむ……」


 そう言われるとそうかも知れない、という気分になってくる。


「さて、シリルのとこは今、小型種の竜が二頭だったね」

「ええ、そうですね」

「だったら二つだね――はい」


 ローズさんは小さな箱を取り出して、俺の前においた。

 紙製の箱で、同じものが二つずつだ。


「これは?」

「首輪タイプのと、足輪タイプのだよ」

「首輪に足輪……タイプ?」


 俺は首をかしげた。

 一体どういう事なんだろうか。


「前にリントヴルムにいたんなら見覚えはあるだろ、首輪か足輪がついてるの」

「ええ、まあ」


 確かに、リントヴルムの竜は全員がそういうものを着けていた。


「これは竜気を測る道具でね。竜に着けてると、その竜の竜気が集計されて、ギルドのレベルがそれに応じて上がっていくシステムさ」

「えっと……?」

「認可証を見てみな」


 そう言われて、俺はさっき受け取ったばかりの認可証を見た。


「ギルドのレベルが書かれてるだろ」

「はい、レベル1ってなってます」

「それが上がると色々出来るようになるのさ」

「はあ……」


 説明は受けたが、正直よく分からない。


「とりあえずは着けてみな。こういうのはやっていくうちに分かっていくもんさ。一人ギルドだし、他よりは緩やかだからいくらでも馴染む時間があるさ」

「はあ……うーん」

「どうしたんだい?」

「その……正直、あの子たちに首輪とかつけるのは抵抗があるんです」


 他の竜騎士が竜に首輪とかつけてたのは分かる。

 でも、俺はそれをあまりしたくない。


 言葉が分かる、毎日会話する子達に首輪をつけるのはものすごく抵抗を感じてしまう。


「だったら竜具屋に行くといい、首輪以外の物も置いてるよ」

「そうなんですね、分かりました。ありがとうございます」


 俺はそう言って、ローズさんに頭をさげた。


     ☆


 夕方、家に帰ってきた俺は、ルイーズとコレットの二人にギルドの話をした。


「と言うわけで、ギルド『ドラゴン・ファースト』は無事立ち上がった」

『ふーん。で、あたし達は何か変わるの?』


 コレットが聞いてきた。


「特に何も変わらない。今まで通りでいい」

『十二時間以上寝ててもいい?』

「ああ、それは今まで通りだ。ただ」

『ただ?』

「ギルドの経験値? を溜めるために、指定のアクセサリーを身に付けておかなきゃならないみたいなんだ」

『アクセサリー?』

「そう、色々あるんだけど……」


 俺はそう言って、メモを取り出した。

 役所をでて、一旦竜具屋に行って、「竜気計」になるアクセサリーの種類を聞いて来た。


「首輪、足輪、イヤリング、リボン――まあいろいろあるけど、大抵の『アクセサリー』になる物はある。その中から身につけたい物を選んで欲しい」

『寝袋はあるの?』

「竜がすっぽり入る寝袋は竜気関係なく存在しないな」


 俺は笑いながら答えた。


『じゃあアイマスクは?』

「それも無いけど――アイマスクくらいならオーダーメイドで作ってもらえそうだ」


 寝袋と違って、つまるところ目を覆うだけのものがアイマスクだから、無くても多少お金を多めに払えば作ってもらえそうではある。


「って、本気なのか?」

『うん』

「いつも付けておかないといけない物だぞ?」

『いいじゃん、アイマスクずっと付けてたって』

「うーん。いや、まあ……別にいいのか」


 俺は少し考えて、小さく頷いた。

 アイマスク、俺の感覚だと「ナシ」なんだけど、ルイーズだと「アリ」になってるのか。


「わかった、じゃあそれを注文して作ってもらう」

『ん、ありがと』

「コレットは? 何か無い? ここまで来たらコレットも何か特注でもいいぞ」

『あたしは……』

「ん」

『あたし、は』


 コレットは何故か言いよどんでしまった。


「うん? 言いにくいのなら言わなくてもいいぞ。竜具屋の店主にいっておくから、明日にでも自分で選んでくるといいよ」

『バカね、そんなの意味ないじゃないの』


 ルイーズが俺の提案を否定した。


「え? なんで?」

『結局つけるものなんでしょう。だったらそんな配慮されても、結局はつけてみんなに見られるじゃないの』

「そりゃそうだ」


 俺はペシ、と自分のおでこを叩いた。

 確かにまったく意味のない配慮だ。


 それを理解して、改めてコレットを向いた。


「そんなに言いにくいことなのか?」

『そ、そんなことないけど』

「じゃあ?」


 コレットを見る。

 コレットは少し迷った後、意を決して。


『リ、リボン』

「リボン?」

『リボンみたいなのが、欲しい』

「そうか。わかった。色とか指定は?」

『かわいいのが、いい』

「了解。竜具屋に相談してくる」


 にしても、ちょっと意外だな。

 可愛い感じのリボンが欲しいと竜に言われるとは思わなかった。


 いや、そうでもないのかな?

 コレットもちゃんと女の子なんだ、それはまだお迎えして何週間も経ってないけど、この短い期間でよく分かった。


 そんなコレットが、可愛い物が欲しいって言っても、そんなに不思議なことじゃないと思った。


『ねえゴシュジンサマ、それって、付けていて何かためるものなんだよね』

「ああ、竜気、ってのを貯めるらしい」

『じゃあアイマスクとかリボンとか買ってくれるまでは、その首輪とかつけてた方がいいの?』

「理屈はそうなんだけど……」


 俺は微苦笑した。

 あまり首輪をつけさせるのはなあ、とやっぱり思うからだ。


『じゃあ付けて』

「いいのか?」

『なにが?』

「いや、まあ」


 俺はばつが悪くなって、鼻を掻いた。

 俺が意識しすぎてる、って事なのかもしれない。


 その証拠に、ルイーズもコレットも、ひとまず着けておく、って感じの首輪に特になにも反応はなかった。


 もちろん喜んではいないけど、嫌がってもなかった。


 まあ、でも。


「アイマスクとリボン、あした早速竜具屋にいってくる」

『お願いね』

『う、うん……』


 アイマスクとリボンと聞いて、ルイーズとコレットは嬉しそうにした。

 嬉しがる物がわかっているなら、そっちを着けてもらいたいと、俺は思ったのだった。


     ☆


 次の日、コレットは山に鉱石採取に行き、俺はルイーズと一緒に竜具屋に向かった。


 その途中で、リントヴルムのルイと遭遇した。


「おやおや、これは『ドラゴン・ファースト』のギルドマスターじゃないですか」


 ルイは俺を見るなり、慇懃無礼そのものの態度で近づいてきた。


「追放されたばかりなのにギルマスとは、大出世じゃないか」

「何か用があるのか?」


 深く考えるまでもなく嫌み全開だったから、それにまともに付き合う気はなかった。

 話を聞いて、話がなければ立ち去ろう。

 今はまず、アイマスクとリボンだ。


「はっ、本物のバカはバカだって事にも気づかない」

「何が言いたい」

「一人ギルドで、ギルドレベルをどれくらいかけて上げるつもりなんだ? 一人でやってたら年単位だぞ」

「ふーん」


 まあそりゃそうだろう。

 普通に考えて、十数人から数十人、ものによれば数百人までいるのがギルドという集団だ。

 それらに比べて、一人ギルドの「貯まり」が遅いのは当然。


 いちいち言われるまでもないことだ。


「それだけか?」

「へ、抜かしやがって。そのうち後悔しろ」


 ルイはそう言って、蔑んだ目で俺を見て、それから立ち去った。


「暇な奴だな」


 わざわざ俺を見かけて嫌みを言いに来るなんてな。


     ☆


「では、この寸法でアイマスクをつくり、『ドラゴン・ファースト』の竜気計として登録します」

「よろしくお願いします」


 竜具屋の中、ルイーズの目の周りのサイズを採寸した。

 予想通り、オーダーメイドのアイマスクは作れた。


 値段は百リールくらいだったから、そんなに高くもなく予備も含めて二つ発注した。


「ではこれを処理して参りますので、少々お待ちください」

「よろしく」


 店主が店の奥に引っ込んでいくのを見送りつつ、ルイーズに話しかけた。


「よかったな」

『ありがとう、ゴシュジンサマ。すごく嬉しい』

「そうか?」

『うん、本当にアイマスクでいいなんて思わなかった』

「それが欲しかったんだろ?」

『うん』

「だったらダメな理由がない」

『……本当にありがとう、ゴシュジンサマ』


 ルイーズは嬉しそうに笑った。

 それだけ嬉しくなられるとこっちも嬉しくなる。


 その時だった。

 俺の懐が光り出した。


『ゴシュジンサマ?』

「これは……ギルドカード?」


 俺は懐に手を入れて、光っているそれをとりだした。

 光っていたのはギルドカードだった。


『それって光るものだったの?』

「いや、それは聞いてない……え?」

『どうしたの?』

「レベル……2になってる」


 ギルドカードの表示が、はっきりとレベル1からレベル2になっていた。


「……どういうことだ?」

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