7.始まりの夜(7)
「エルザと言うのは、初代国王の后のことでよいか?…そしてエリザベートが四精霊に選ばれたのもフィーリング…ということかな?」
国王がクレーネに目をやる。
「そうゆうこと。でも二人はどこか似ているところがあるわ。純粋で芯が強いところとかね。だからスカーレットの予言の通りに本当に救世主になったりしてね。私たちは未来が見えないから残念。」
いたずらっぽく笑う。
「でも未来以外なら何でも知ってるんだぜ?そこんとこ忘れないでくれよ?俺たち有能な精霊さんだからよ。」
エルダーがニヤニヤしながら言う。
「なるほどな。これは予想以上だ。整理するが大変だな。…エレノア嬢、大丈夫か?かなり混乱しているんじゃないか?」
「えぇ…夢ではないのかと何度も思いました。」
「そうだな。疲れているだろうから、そろそろ本題に移ろうか。最初に言ったように、予言の姫をルーカスの妻に迎えたい。しかし気持ちの整理も必要だろうから、落ち着いたら考えてほしい。まぁ、前向きに考えてもらえたら嬉しいのだが。」
「大変光栄でございます。しかし…スカーレットの予言とはいえ、私にはそんな大それたことができるとは思えないのです…」
「そんなに気負わなくてよい。そなたは内面、知性、容姿、家柄全て申し分ない。予言がなかったとしてと、自然と婚約者候補にあがっていたはずだ。」
「そんな…私にはもったいないお言葉です。」
「まぁ、よい。とりあえずルーカスの婚約者に内定させてもらうが、気が変わったら言ってくれ。そうなったとしても、そなたもアストレイ家も不利な立場に置かれることはないから安心してほしい。」
「お心遣いありがとうございます。」
「では、アネモス頼む。」
アネモスがうなずいた瞬間、もう最初の応接室にいた。
「ずいぶん長い夜になってしまったな。ロナルド、待たせて申し訳ないな。さて報告だが、エレノア嬢をルーカスの婚約者に内定する。まだ正式に婚約者という訳ではないが、今後エレノア嬢に対しては婚約者と同等の対応を頼む。…詳細はまた後日でよいか?疲れてしまってな…」
「かしこまりました。そのように応対致します。」
「エレノア嬢、ルーカス、まだお互いのことを何も知らないと思う。ゆっくりと時間をかけてとは言えないが、お互いを知る時間が必要かと思う。エレノア嬢、正式に決めるのはその後で構わない。…さて、ずいぶん長い夜になってしまったな。もう明け方だな。レオナルド、エレノア嬢、長時間拘束して悪かったな。ありがとう、ゆっくり休んでくれ。」
「ありがとうございます。それでは、失礼いたします。」
レオナルドがそう言ったとき、一緒にいたことを思い出した。今の今まで一言も発していなかったので、レオナルドのことをすっかり忘れていた。
「私たちももう行くわ。エレン、何かあったらいつでも呼んでね。」
そうクレーネが言うと、精霊たちは姿を消した。
「はぁ…」
部屋を出ると、思わずため息が出る。
「さぁ…家に帰ろうか。エレン、私に掴まりなさい。馬車も先に帰らせたから空間移動で戻る。」
空間移動は事前にマーキングした場所間を自由に行き来できるのだが、王城は結界により強固に守られているため空間移動はできない。しかし軍務大臣を務めるレオナルドは王城で空間移動が出来る特権を持っているのだ。
エレンがレオナルドの腕を掴むと、レオナルドが魔法陣を発動させる。空間がぐにゃりと歪み、次の瞬間には我が家に到着していた。
数時間離れていただけなのになんだかとても懐かしい感じがする。
「父上!エレン!」
エドが走ってくる。
「エド、まだ起きていたのか。」
「エレンがいないとデイヴ達が心配していて…父上と一緒にいたのですね。それならよかった。」
しまった!デイヴに伝え損ねていた…
「大丈夫だ。明日の朝、皆には連絡しておくからお前はもう寝ろ。」
「エド兄様、ありがとうございます。」
「心配掛けて悪かったな。エド、少しいいか?エレンはもう休みなさい。おやすみ」
「おやすみなさい。お父様、お兄様。」
自室のドアを開けようとするとパタパタと駆け寄る音がした。
「エレンお嬢様!お帰りなさいませ。」
「クレア!待っていてくれたの?寝ていていいって言ったのに。」
「お嬢様をお迎えするのが私の役目ですから。…お嬢様腕はどうされたのですか?」
「…明日ゆっくり説明するわ。とりあえずドレスを脱ぐのを手伝ってくれる?」
「かしこまりました。」
豪華なドレスは脱ぐのも一苦労なので、正直クレアが待っていてくれたのはとてもありがたい。
「はあぁ、苦しかったぁ…」
窮屈なコルセットを外すと身も心も解放された。
「お嬢様、浴槽にお湯を張りましょうか?」
「シャワーだけで簡単に済ますからもう大丈夫よ。待っていてくれてありがとう。きっと昼過ぎまで寝ているから、クレアも遅くまで寝ていてね。おやすみ。」
「ありがとうございます。お休みなさいませ。失礼いたします。」
…さて、魔法を試してみようか。
以前のエレンはお湯の温度が一定にならず、熱くなったり冷たくなったりするので、魔法に頼らず普通のシャワーを使っていたのだ。
軽く手をかざすと温かいお湯が降り注ぐ。お湯加減も丁度よい。本当はゆっくりお湯に浸かりたいところだが、家に帰ってきたら安心したのかどっと疲れが出てきたので一刻も早くベッドに入りたい。シャワーを終え、再び手をかざすと暖かな風がエレンを包み、あっという間にエレンの髪を乾かす。
「魔力の量も質も今までとは比べ物にならないわ。…ふあぁ、それにしても眠たい。お肌のケアをする余力もないわ。今日くらいはいいにしましょう。」
そう言ってベッドに倒れ込むようにしてそのまま眠ってしまった。




