51. もう一つの予言
「エレン?」
はっと顔をあげると、すでに会場から城へ移動していた。
「ここは・・・ルークの執務室、ですか?」
「あぁ、そうだよ。すぐにエレンの部屋を準備させるようする。・・・確実に守れるように本当は私の部屋に滞在してもらいたいのだけど、婚約者と言えども未婚の令嬢と同室はまずいからね。アストレイ大臣とはよい関係を築きたいし。」
いくら王子と言っても怒れる雄獅子を敵に回したくはないようだ。
「大丈夫かい?」
「えぇ・・・一体誰が私を狙っているのでしょう。油断していたとは言え、一切の気配を感じませんでした。相当な手練れであることは間違いありませんね。」
「あぁ。でもこの城にいる限りは大丈夫だから安心して。既に結界を強化した。当面の間、陛下と私、それとエレンの父上以外は城へ空間移動できないようにしたから。」
「お陰で来るのに手間取ったぜ。正規の手続で入城するなんて、俺も偉くなったもんだね。」
ノックもなしに乱暴にドアを開け入ってきたイヴァは首から下げたネックレスをチラつかせる。ルークが発行した特別入城証だ。背後にはイヴァの態度に顔を青ざめた秘書が震えていた。
「ちょっと、旦那。その物騒なの下ろしてくれる?久々の再会なんだからさ。」
「不躾に急に現れるからだろう。」
ルークはイヴァをにらみつけると剣を下す。秘書へ目線を送ると、秘書は災から逃げるように素早く退室した。
「イヴァ!お疲れ様。色々聞きたいこともあるんだけど、こちらも事件があってね。何から話したらよいかしら・・・」
「弓術大会の事件の件だろ?カヤから報告を受けている。まずはそっちの話からしよう。その前に確認だが、お嬢様は四精霊から加護を受けているんだよな?」
エレンとルークは目を見開き視線を合わす。
ルークはイヴァをまっすぐ見据え口を開く。
「・・・なぜそれを?あの場にいたのは限られた者だけ。しかも聖杯の誓いを交わしている。」
「言い伝えがあったんだ。タングソニアでまことしやかに囁かれていたイアンの予言だ。」
「…大魔法使いスカーレットの息子のことか?」
「あぁ、そうだ。黒魔術に魅入られスカーレットが処刑した末息子だ。」
エレンの誕生を予言した大魔法使いで予言者のスカーレットには5人の子供がいた。子供たちは優れた能力を持って生まれた。末息子を除いて。
長男エリックは水の精霊の加護を受け戦場の英雄と崇められ、長女リエナは大地の精霊加護を受け高い治癒能力をもち聖女と呼ばれ、次男アスランは風の精霊の加護を受けスカーレットの後継者と囁かれ、三男グレンは火の精霊加護を画期的な術式を次々に生み出す世紀の天才と称賛されていたが、四男イアンはほとんど魔力を持たずに生まれた凡人であった。兄姉達が優秀過ぎて、好奇の目で見られることも、心無い言葉をかけられることもあったが、兄姉達は末っ子に惜しみない愛情を与え大切にしていた。その甲斐もあってか、イアンは捻くれることもなく、素直で優しい青年に成長した。ところがある時から黒魔術に手を出し、世界を震撼させ、また自らも破滅の道へ進み、最期は母であるスカーレットによって手を下されたのである。
「イアンが黒魔術に触れてからリュミエラ•クォーツを去ってタングソニアを拠点としていたのは有名だろ?タングソニアの極一部、社交界の裏社会でイアンの予言が言い伝えになっていたんだ。」
「それは…スカーレットが予言を残す前に既にイアンが予言していたと言うことか?」
国王の話によるとスカーレットが予言を残した数週間後に息を引き取ったというが、スカーレットがイアンを処刑したのは、スカーレットが息を引き取る50年ほど前になる。
「そうだ。イアンがタングソニアに渡って間もない頃に予言をしたらしい。“世界が暗黒の夜に包まれる頃、星を導く聖女が降り立つであろう。”ってな。」
「星を導く聖女…スカーレットの予言された水晶に愛される光の姫と意味は一致するな。だが、四精霊から加護を受けているなんてスカーレットの予言にもイアンの予言にもなかったはずだ。」
「あぁ、それはカマ掛けてみた。」
ルークがギロリ睨むとイヴァは慌てた様子でとりなした。
「というのは半分冗談で。これもまたタングソニアで秘密裏に語られていたんだけど、お宅の国の建国の母は四精霊から加護を受け、すさまじい光の周辺諸国を圧倒した。とね。だから、光の力を持つ者は四精霊の加護を受けているんじゃないかって考えたわけ。」
「なるほど。お前と同じことをタングソニアも考えているということだな。」
「あぁ。でも、まだお姫様が”星を導く聖女“と確信している訳ではないと思うけどな。今回の襲撃は探りを入れる為だろうな。」
「確かにそうね。私がその…”星を導く聖女“だと確信していたら、あの程度ではすまなかったはずだわ。」
「エレンがとっさに光の力を使うところを確認しようとしたんだろう。ということはまたエレンを狙ってくるというわけか。」
ルークはうでぐみをしながら、眉間にシワを寄せる。
「婚約内定してすぐにタングソニアから建国記念祭の招待状が届いたんだ。今まで招待されることなんてなかったから、何か裏があるんじゃないかと思っていたがそういうことか。」
「私もお供するのでしょうか?」
「いや、まだ婚約の儀を迎えていないから、エレンが出席するの対外的な催しに皇太子就任式だけだ。当初、皇太子就任式にはタングソニアは招待予定はなかったが、建国記念祭に招かれた以上招待せざるをえなかった。皇太子就任式で奴らはエレンに接触を図ってくるだろう。」




