50. 弓術大会(3)
一回目の競技の後、1時間の休憩を挟み二回目の競技が行われる。
大会の開催に便乗して、公園内は屋台が軒を連ね、あちらこちらで大道芸人がパフォーマンスをしたりと活気に満ちている。
「わー!お祭りみたいだわ!あの屋台は何かしら?行ってみたいわ!」
エレンは控え室の窓に張り付くように辺りを見回す。
「お前が行ったら大騒ぎになるだろ。今日は諦めろ。」
「つまらないわ・・・でも仕方ないわね。」
エドに窘められエレンは意気消沈する。
「あのっ、エレン様。30分位なら・・・エレン様の容姿を変えられるかと思います・・・」
遠慮がちにカヤが言う。
「本当!?30分もあれば十分よ!お願い!ね、ルークよいでしょ?」
「わかったよ。私は自分でなんとかできるから、二人でお忍びで行こうか。」
「わー!うれしい!デートみたいだわ!」
カヤが印を組むと手から赤い光が溢れだす。両手をエレンに向けるとエレンが赤い光に包まれる。光が消えるとエレンは大急ぎで鏡の前に立つ。
「すごい・・・」
そう呟くエレンの目の前には見知らぬ少女の姿がある。
明るい茶髪のボブに緑色の瞳、頬にはそばかすが散っている。
「顔立ちは同じなのに、随分違って見えるものだね。」
ルークも感心する。
「っと、この格好じゃまずいわね。クレア、服を調達してきてもらえるかしら。」
「そんなこともあろうかと既に準備しております。私の服で申し訳ないのですが。」
「さすがクレア!」
クレアをぎゅーっと抱き締めると更衣室に向かう。
ルークも髪と瞳の色を黒に変え、準備は整った。
「まぁ、よく見ればルークだな。目立つ行動するなよ。それとエレンの子守りを頼んだぞ。」
控え室を出ると、陽気な音楽を奏でるアコーディオン弾きに一輪車に乗るピエロ、大きなシルクハットを被りパントマイムをする小肥りな男と、賑やかな世界が広がっていた。そんな光景にエレンは目を輝かせる。
「ルーク、あれを見て!あっちも!」
「ふふっ、エレンがこんなに喜んでくれるなんてうれしいな。」
「私、こういうお祭りが好きで、時々庶民の格好をしてたまに行くんです。でも、ルークと二人で行けるなんてうれしいですわ。カヤに感謝しなくては。」
「私もうれしいよ。」
「あ、ルーク!あのスイーツ食べません?今、城下町で人気なんですって。」
エレンはルークの手を引き、人混みの中お目当ての屋台へ向かう。その時、また背中にピリッとした視線を感じ振り向く。
「エレン?」
「いえ、何でも。・・・いえ、最近誰かの視線を感じることがたまにあるのですが・・・気のせいかしら。」
エレンの言葉を聞き、ルークの表情は厳しくなる。
ルークは隅々まで目を凝らす。
「異変は見られないけど・・・度々視線を感じるようなら心配だな。私がいれば大丈夫だと思うけど、絶対に一人にはならないで。また何か感じたら教えてほしい。」
ルークは険しい表情のままだ。
「えぇ、わかりました。大変!時間がないわ!あれだけは食べません?」
「そうしよう。」
険しい表情を緩め、エレンに微笑む。
「見てください!すごくキレイ!学園でも話題のスイーツで食べてみたかったんです。」
列に並びながらエレンは購入した客のスイーツを見て目を輝かせる。
最近できたばかりのジェラート店であるが、休日ともあれば行列ができる人気店である。味はもちろんであるが、ジェラートの上にはきらびやかなアメ細工がトッピングされ乙女たちのハートを掴んでいるのだ。
「うわー、どれも素敵。迷ってしまうわ・・・うーん・・・」
「エレン、もう注文しなくては。」
真剣に悩むエレンをクスクス笑いながらルークが声をかける。
「いつの間にこんなに列が進んでいたなんて!うーん・・・これにします!」
「皆さん悩まれますよ。また次の機会に違うのを頼んでみてくださいね。どれも美味しいですから。はい、どうぞ。"恋の訪れ"です。」
店員がにこやかにジェラートを手渡す。レモン味とイチゴ味のダブルのジェラートの上にハートのアメ細工が散りばめられている。
「素敵!見てください!こんなにきれいなジェラート初めて!ルークは何にしたのですか?」
「"夏の思いで"にしてみたよ。」
サイダー味のジェラートに貝殻とシーグラスを模したアメ細工とラムネがトッピングされている。
「それも迷ったんです!」
「食べてごらん。」
ルークはスプーンをエレンの口元に近づける。エレンは思わず口にしたが、顔を赤らめる。
「美味しい?もっと食べる?」
「い、いえ、大丈夫です。ありがとうございます。」
この初々しいカップルがまさか王子とその婚約者であるなんて誰も気づいていない。いや、一人を除いて。
「いたって普通。本当に鍵となる人物なのかしら。まぁ、この私の気配に気づくのは大したものだとは思うけれど、そこまで際立った力の持ち主だとは思えないわ。確かめる必要があるわね。」




