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5.始まりの夜(5)

ルーカスが口を開く。

「それは…クリスタル・エリザベートに聞くということでしょうか?」

「その通りだ。クリスタル・エリザベートを知っているか?」

エレンとソフィーに問う。


クリスタル・エリザベートって…あのクリスタル?それ以外に思い当たるものはない。

「…おとぎ話に出てくる魔法の水晶のことでしょうか?」

エレンは自信なさげに国王に聞く。


「そうだ。クリスタル・エルザ、クイーン・エルザ、クイーン・クリスタル等とも呼ばれる、我が国に伝わるおとぎ話に出てくる水晶だ。しかし、空想のものではなく実際に存在するのだ。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

エルザと魔法の水晶


昔々あるところに、平和で豊かな国がありました。

その国のお后エルザは魔法の水晶で皆を守る優しい魔法使いです。その国は平和で、そこに住む人々はとても幸せでした。皆エルザのことが大好きです。

しかし、エルザのことを妬み、水晶を奪おうと考える悪い魔法使いがいました。

悪い魔法使いは雨を奪って作物を枯らしたり、町に火の玉を放って大火事にしたり、国に住む人々を困らせました。

それに怒ったエルザは悪い魔法使いと戦ったのです。戦いは季節がいくつも巡るまで続きました。それはそれは激しい戦いでエルザも力尽きかけましたが、最後の力を振り絞って悪い魔法使いを倒したのです。

こうして平和な国に戻り、人々はまた幸せに暮らせるようになりました。

そしてエルザと水晶はずっと大切にされ、エルザ亡き後も水晶はクリスタル・エルザと呼ばれて人々を見守ったのです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


王妃と王子を除き、皆驚きを隠せない。

魔法の水晶が実在し、その水晶が予言の姫を見いだすなんて急展開過ぎて付いていけない。


「皆信じられないと言った顔をしているな。」

国王はにやっと笑う。

「皆、私の後に付いてきてほしい。ロナルドはここを任せるぞ。」


国王が手をかざすと、部屋の奥から下へ続く階段が現れた。

ロナルドを残し、皆国王に続いて階段を降りるが、どこまで続いているのだろうかと思うほど長い階段である。階段を降り始めて大分経った頃にかすかに水の音が聞こえた。更に歩みを進めるとどんどん水の音が近付いてくる。


「さぁ、ここだ。」

神殿のようなところに出た。神殿の中心には泉が湧き出ており、泉を囲むように皆集まる。


「美しい泉だろう?ここから聖水が涌き出ているのだ。」


王が泉におもむろに手をかざすと、泉の中から水晶が浮き上がった。一堂は息を飲んで見守る。水晶はゆっくり動き、泉のそばにあった台座に収まった。


魔法の水晶って言うからには巨大な水晶を想像していたのに意外と小さいのね。


水晶は大人の拳ほどの大きさであるが、一際強い輝きを放っている。


「さて話はもどるが、エルザと水晶はおとぎ話であるが、まったくの作り話ではない。王妃エリザベートとは、リュミエラクォーツ初代国王フィリップの妻である。わが国は水晶において世界一の採掘量を誇るが、それでもこのクイーン・エルザに勝る水晶はいまだかつて目にした事がない。美しさはもちろんだが、他の水晶とは比べ物にならないほどの強力な魔力を持っているのだ。遠い昔、クイーン・エルザを求める者達が世界を巻き込んだ大戦を起こした。本当にひどい血なまぐさい歴史が長く続いたそうだ。フィリップとエリザベートが戦いを収めた後、リュミエラクォーツを建国したが、争いの火種になりかねぬと考え、クイーン・エルザの存在を隠したのだ。この国にある文献に建国時についての記述がほとんどないのはそのためだ。表向きには大火災で歴史的文献が焼失したことになっているがね。」


つい2時間ほど前にはこのような事態になるなんて思いもしなかった。

予言の主要キャストになり、建国の秘密を知ることになるなんて。


「さて、水晶はどのように教えてくれるのだろうか…うーん、触れてもらうのが一番分かりやすいのだろうか。ソフィア嬢、エレノア嬢、水晶の前に来てもらえるか。」


ソフィーとエレンは一瞬お互いを見つめ、ゆっくりと水晶に近づく。

緊張はピークに達し、かつてないほど心臓が早く強く脈打つ。


「それでは二人とも水晶に触れてくれるか。」


ソフィーとエレンは頷き、手を伸ばすが、手が細かく震える。ソフィーを見ると泣きそうなのをぐっとこらえている。

不安なのは同じなようだ。


ゆっくり手を水晶に近付けていくと、指先にほのかな温かさを感じる。


なんだろう、この感じ…?


水晶に触れるか触れないかというところで水晶から凄まじい光が溢れ出る。


「うわっ…!」


眩しくて目を開けていられない。稲妻の中にいるようだが、不思議と心が落ち着くような優しい光だ。

やっと光が収まり目を開けることが出来た。ずいぶん長い時間水晶は光を放ってきたようだ。


「!!何…これ…?」

エレンの指先から肘にかけて、蔦のような模様が描かれている。パール色のタトゥーのようだ。


その場にいる全員がエレンを見る。


「これは一体…エレノア嬢が光の姫ということなのか…」

国王は驚きつつもそう呟いた。


「待っていたわよ。」


!!!聞き覚えのない声が響く。


声が聞こえた方向を見ると、泉の中心にこの世のものかと思えないほど美しい姿をした4人が浮かんでいる。


「久しぶりだな。アーサー。」

金髪で水色の瞳を持った男がそう言う。


「アネモス・・・本当に久しぶりだ。気配は時折感じていたが、姿を見るのは王位を継承した時ぶりだな。アネモスがいるということは、あとのお三方も精霊とお見受けするが。」

「気配に気がついていたとは流石だな。その通りだ。右から火の精霊エルダー、水の精霊クレーネ、大地の精霊シャロンだ。ここにいる四精霊はエレンの守護精霊だ。」

「四精霊が!?…挨拶が遅れて申し訳ない。リュミエラクォーツの国王アーサー・ルイス・マクスウェルだ。」

国王が精霊たちに一礼する。一同も慌てて後に続く。


「私たちこの日をずっと待っていたの。何千年も生きているからそれに比べたらあっという間なんだけど、それにしてもずいぶん待った気がするわ」

クレーネが艶っぽい声でそう言う。

最初に声をかけてきたのはクレーネのようだ。輝くシルバーの長い髪と吸い込まれそうな群青色の瞳は恐ろしさを感じる程の美貌である。


「だいたいアストレイ家なら俺が加護を与えるって言ったのに、お前らが何で加護を与えるんだよ。」

ぶっきらぼうにそう言うのは深紅の髪と漆黒の瞳を持つエルダーだ。


「なによ、ねちねち16年も。エルダーみたいな野蛮な奴に任せられるわけないでしょ?エレン、こんなに奴に加護を与えられてかわいそうに。私が守ってあげるからね?」


精霊の登場だけでも恐れ多いのに、何やら自分のことで言い争いが始まってしまった。もはやエレンの想像の域を越える出来事にただ呆然とするしかない。


「二人とも、エレンが怖がっているわよ。止めなさい。初めましてエレン。突然現れて喧嘩まで始めてごめんなさいね。驚いたでしょう。」

そう優しく微笑むのはシャロンだ。緩くウェーブのかかった焦げ茶色の髪に深緑の瞳を持つ彼女はまさしく森の女神のようだ。


「まったくエルダーがいると騒がしい。もう少し静かにしてくれないものか。」

ため息を付きながらつぶやくのは先ほど国王と話していたアネモスだ。国王の守護精霊でもある。


「どいつもこいつもうるせーな。アネモス、お前こそ引きこもってばっかでほとんど加護なんて与えない癖に、あの時ばかりは一番先に守護精霊に名乗りをあげたなんてどうしたんだよ?」


「私には私のやり方がある。お前は本当に昔から騒がしいな。少し黙ったらどうだ。」

「そうよ。エルダーは本当に品がないのよねぇ。」

アネモスの呟きに便乗してクレーネが口を出す。


「なっ、お前ら!」

「もぅ、皆やめなさいよ。いい加減に・・・」

「あ、あの!!」

その場を収めようとしたシャロンをエレンが遮る。


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