49. 弓術大会(2)
推薦選抜者は全員一回目の競技を終え退場する。出来はどうあれ、まだ2回目の競技が残っているが、緊張から解き放たれ安堵の表情を浮かべる。
後半は武術大会弓術部門上位30名とエレンの競技となる。
「選抜者もなかなかだったけど、やっぱり上位グループは違うわね。」
弓術競技は馬に乗って様々な障害物を突破しつつも、そのコース上にある的に当てる。15本の矢を与えられ、10個ある的を狙う。的中率とタイムで得点が決まるのだ。
上位グループは的中率、タイムともに選抜者とは段違いである。
順調に競技は進み、6位のウィルの出番だ。ウィルは母オリヴィアに似た顔立ちで、幼い頃にはよく女の子に間違えられる程可愛らしかった。成長するにつれ凛々しくはなったが、その面影は今も残る。また優しい性格も相まって、いつも穏やかな雰囲気をまとう癒し系だ。スタート地点へ移動するまではにこやかな表情を浮かべていたが、審判が開始の合図をするために旗を持つと、表情がキッと引き締まり、鬼神が宿ったようなウィルに会場はシンっと静まり返る。ウィルが準備が整ったことを手を上げて知らせるが、若い審判は雰囲気に飲まれそうになったのか、目をつぶり大きく深呼吸をする。息を吐き、目を開くと平静を取り戻したようで立ち位置に付き、赤い旗を勢いよく上げ、競技の開始を告げる。
ウィルが的を得る度、黄色い声援が飛ぶ。端正な顔立ち、聡明な頭脳、誰にでも平等に優しい性格、愛妻家であるところまで含めて、ウィルを慕う女性のファンは大変多い。ファン層も庶民から貴族まで、少女からマダムまでと幅広い。
全ての的に的中させ、タイムもこれまでの最速の記録でゴールし暫定1位である。この結果にはレオナルドも満足そうにしている。
5位、4位も大健闘したが、ウィルの点数には及ばず、首位をキープしている。次は3位のデイヴの番となる。平常心を保とうとしているようだが、極度の緊張状態なのか、顔色がよくない。
「まったく昔と変わらないわね。」
青白い顔でスタート地点へ向かうデイヴが横を通りすぎる際に、背中へ一発ばしっと平手打ちをお見舞いする。
「いっ!・・・エレンか、痛いよ・・・」
「しけた顔してないで、胸張っていきなさい。」
「わかったよ・・・全力を尽くす。」
まだ若干顔色は悪いが、キリッとした表情でスタート地点へ立つ。歓声は鳴りやまないが、デイヴには何も聞こえていないようで、ただまっすぐ前を見据え集中しているようだ。
雑音を消すんだ・・・集中するんだ。練習を思い出せ、普段通りにやればできる。
周りは靄がかかったようにぼうっと白く映り、競技コースがはっきりと見える。しかし、その靄のなかにエレンの姿だけが、ぼうっと光る。
エレン・・・僕はやれる・・・!
エレンの姿も靄にかき消されると、デイヴは手を上げ、赤い旗が振り上げられると同時にスタートを切る。華麗に障害物を突破し、調子よく的に的中させ暫定1位となった。
次は2位のエドの番だ。普段と変わらずひょうひょうとした様子だが、旗が振り上げられる瞬間、瞳に炎が灯されたようにカッと目を見開き、臨戦態勢に入った。見事なもので、今回の大会で初めての100%の的中率でタイムもぶっちぎりであった。観客の興奮が会場を震わせる。
「エドのやつさすがだな。こんな雰囲気で出走なんてあんまりじゃないか?」
ルークは苦笑しながらエレンを見る。
「健闘をお祈りいたします。」
「じゃあ、行ってくるよ。」
そう言ってエレンの左ほほに軽くキスをすると、観客は熱狂する。
「アイツ、エレンの前で自分より俺が目立つの気にくわないんだろ・・・余裕かませやがって!」
ぶつぶつ言いながらエドは会場を後にする。
ルークも100%の命中率であったが、タイムを僅差でエドを上回り、暫定1位となる。いよいよエレンの番がやって来た。
「いよいよ1回目の競技も次で最後となりました。最終出走者は皆様もお待ちかねの~・・・美しき戦士!エレノア・グレース・アストレイ!!」
進行役は目をキラキラと輝かせている。観客たちもそれに答えるように歓声をあげる。
「その口上はやめてよ・・・」
エレンはゲンナリしているが、目線はコースを見据え、自分の中の世界に入っている。スタート地点へつくと、指の先までピンと伸ばし手を上げる。その凛とした姿に皆息を飲む。
旗が上がりきった瞬間スタートを切る。軽やかに馬でかける様子は馬に羽が映えているのかと錯覚するほどである。観客は固唾を飲んで見守るが、ゴールすると大歓声をあげる。
「非常に素晴らしい出走でした!そしてなんとなんと・・・暫定1位!!」
観客の歓声が爆発する。国王も立ち上がりエレンに拍手を送る。エレンは国王に一礼した後、観衆に向け手を振る。
まだ2回目の競技が残っているものの、国王の期待に一応は答えられたことにほっとする。




