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47. アトリエ アンカー


翌日、学園が終わり足早に屋敷へ戻る。


「お帰りなさいませ。アンカー様がお待ちです。」


クレアを連れて応接間へ行くと、白髪の小柄な老人がちょこんとソファーに腰掛けていた。


「お待たせしてすみません。」


「お目にかかれて光栄でございます。エレノア様。トーマス・アンカーでございます。トムとお呼びください。このたびはご用命頂きありがとうございます。ルーカス殿下にぴったりのお品を製作させて頂きます。」


「トム、よろしくね。あなたの作るブローチは大変評判がよいと聞いているわ。」


トムは古くから続くアクセサリー工房の主である。彼と彼の息子で切り盛りしている小さな工房であるが、アンカー家に伝わる繊細な技法と一度見たら忘れられぬ美しいデザインは人々の心を離さない。新規の顧客は取っておらず、古くから付き合いのある貴族にしか販売していない為、アンカーのアクセサリーは皆の憧れでもある。とくにピンブローチは代々軍に仕える家門しか手に入れることはできないため大変貴重な品であるのだ。


「さて、エレノア様ご希望はございますかな?」


「この石を使ってほしいの。」


そう言ってルースケースを取り出す。


「これは・・・ブルーガネットですね。美しい。最上級のものですな。品質もさることながら、この大きさはなかなかお目にかかれるものではありません。デザインはどういたしましょうか。」


このブルーガーネットはエレンが生まれてからしばらくしてレオナルドが購入したものだ。エレンの瞳がブルーガーネットのようだと聞き付けたアストレイ家御用達の宝石商が持ってきたのだ。エレンが成長したら自身のアクセサリーに使うか、将来の伴侶の為のピンブローチにする為に(夫は軍人というレオナルドの希望)購入した経緯がある。


「あまり派手でないほうがよいわ。デザインはいくつか候補を挙げてもらえるかしら。」


エレンがお茶を一口飲むが、その様子をトムは目を見開いて見ている。


「どうかしたの?」


「その腕の模様はタトゥーでしょうか?」


エレンはハッとしてソーサーを持つ手を見ると、パール色の蔦模様は細身の2連のブレスレットで隠されているものの、わずかに覗き見えている。さすがはアトリエアンカーの主人だけあって目敏い。


「あぁー・・・婚約の関係で、ね。・・・このことは内密にしてもらえる?」


「もちろんでございます。失礼でなければ、近くで拝見させていただいても?」


「えぇ、かまないわ。」


「では失礼いたします。美しい。うんうん、素晴らしい・・・」


トムはエレンの腕をじっと見て顔をほころばせたかと思うと、急に紙に何かを描き始めた。時折独り言をつぶやき軽快に鉛筆を走らせるが、実に楽しそうである。10分ほど経ったころ、紙を見て満足そうにつぶやく。

「うむ、いいね。美しい。」

にこりとエレンに微笑みかけ、紙を手渡す。


「突然失礼いたしました。エレノア様の模様を見て急にインスピレーションが涌いたもので。」


紙にはピンブローチのラフデザインが描かれていた。5センチ程の大きさでエレンの蔦模様をモチーフに描かれている。


「素敵。これで進めて頂戴。」


「気に入っていただけてよかったです。腕がなりますなぁ。ルーカス殿下の誕生パーティには必ず間に合わせますので!今年の誕生パーティは皇太子就任式も同時に執り行われますから盛大なものになるでしょうね。エレノア様のお披露目も兼ねているそうですから、エレノア様もご準備がお忙しいですな。」


ルークは次期皇太子と周知されていたが、正式に皇太子の座に着くことが決まったのだ。お祝いムード一色であるが、なんとも忙しくなりそうである。

トムは早速製作に取り掛かるとのことで、慌しく帰っていった。当初は庭園の練習場に行こうと思っていたが、思いの外打合せが早く終わった為、果樹園裏の練習場へ行くことにした。


「わー!!ここで練習できるなんて最高!」


念入りにストレッチをしてから、馬で練習場を周回する。蹄が大地を鳴らす音が心地よく響く。


「さて、そろそろ弓を出しますか。」


弓を取ろうとしたとき、背後に違和感を感じとっさに振り向く。

「!?・・・何かしら・・・今何か感じたように思ったのだけど・・・」


周囲を見回すが、不自然な点はない。若干の気味悪さを感じたものの、大会まで時間がないこともあり引き続き練習をすることにした。


大会まではお妃教育は中断することになったが、学園の後は日が暮れるまで弓の練習に勤しみ毎日忙しく過ごしていた。契約の日以降、イヴァは調査に出たきりその後連絡もないようだ。日々の疲れもあり、星について考えることもなかった。

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