40. 調査(1)
「エレン、入るぞ。」
「エド兄様、入る前に声掛けなさいよ。」
「ほら、そろそろ出るぞ。」
「どう?なかなか似合うでしょう?」
そう言って、長い髪を高い位置で一つにまとめ、ネイビーの詰め襟に銀ボタン、白い細身なパンツ姿でくるっと回って見せた。
エレンに関しては服装は自由で構わないと言われていたのだが、どうしても制服が着たいと言ってエドに用意してもらったのである。
「お前のサイズ探すの大変だったんだからな。さ、行くぞ。」
二人は並んで馬を走らせる。
「馬に乗るの久しぶりだわ。やっぱり馬車より馬の方が私には合うのよねぇ。」
「やっぱりお妃になるやつとは思えないな。」
生き生きと馬に乗り、腰には剣、背中に弓矢を携える姿を見てエドは呟く。
首都アルティトゥルクは五角形の形をしており、その周囲は結界によって守られている。五角形の頂点にはノーラン、アーティー、レノン、フォーザ、プルティノの五ヶ所の関所が配置されており、関所を通過しないと出入りできない仕組みだ。光の森へは北にあるノーランを通っていくため、団員はノーランで落ち合うことになっている。
「関所が見えてきたぞ。」
水晶で作られた大きな門の付近には制服を身に付けた団員が集まっている。
エドの姿を確認した団員達は姿勢を正し敬礼をするが、エドの後ろにエレンがいることに気がつきどよめき立つ。
「エレノア様が来るとは聞いてたけど、一緒に行くのか?森の中は道なんて整備されてないのに大丈夫なのか?」
「あぁ、何に対するアピールかは知らないが、足手まといでしかないよな。格好だけは一人前だな。」
「口を慎め。同行を認めたのはルーカス殿下だぞ。」
こそこそと話す二人組をデイヴはキッと睨み付けると二人組は罰の悪そうな顔をして隅の方へ逃げていった。
「エレンを足手まといなんて、あいつらの活躍が楽しみだな。と言っても僕こそ皆の足を引っ張らないようにしないと。」
「アンディ・・・。」
幼馴染でヴィオラの婚約者でもあるアンディも今回の調査団員に選ばれたのである。アンディは魔法科学省に所属している文官で野外調査は初めてなのだ。
突然端の方から緊張した雰囲気が波のように伝わる。ルークが到着したのだ。ルークは一番最初にエレンのもとへ向かう。
「エレン。おはよう。光の森自体はそんなに危険な場所ではないと思うが、何が起こるかわからないから私の側から離れないようにね。・・・制服姿もよく似合っているよ。」
「殿下・・・本日はよろしくお願いいたします。足を引っ張らぬように努力いたします。」
甘く見つめ合う二人の様子に団員達は戸惑う。ルークは温和ではあるが、いつも周りを緊張させる雰囲気を持つ。そんなルークが目尻を下げ、なんだか照れた様子で優しくエレンを見つめている。団員の戸惑いを感じ取ったエドがルークを小突く。
「ルーク、挨拶。びしっとしろよ。ったく・・・」
我に返ったように軽く咳払いをする。
「皆既に知っていると思うが、最近星に関する不可解な出来事が近隣諸国で報告されている。今回、その調査の足掛かりに光の森へ向かう。小さな手がかりも見逃さぬよう徹底的に調べるように!森に着いたら各班に分かれて調査を行う。班長は事前の計画に沿って調査を進めるように。以上。では出発する!」
そう言ってルークは馬を走らせた。ルークの後をエドとエレンが続き、後は班ごとに隊列を組んで進む。ルークが馬を飛ばすので、エレンのことを心配する声が上がったが、エレンの姿を見ると皆納得し、人の心配をしている場合ではないと気が付いたようだ。
「エレン、大丈夫?ペースを落とそうか。」
「問題ございません。朝のひんやりした風を切って走るの、大好きなんです。」
ルークはにっこり笑って、またペースを上げると、後方から悲鳴があがる。
すごいペースだな・・・軍出身者はまだ余裕があるけど、他の人たちは着いて行くのでやっとだぞ。アンディは大丈夫かな。
斜め後ろにいるのアンディを見ると息も絶え絶えで必死に食らい付いている。列の先頭に視線を移すと嫌でもエレンの姿が目に入る。
エレンは・・・楽しそうにしてる。・・・昔から馬に乗るのが上手かったからな。馬も弓もエレンに教えてもらったんだ。エレンより上手くなるって決めたのに結局どっちも敵わなかったな。ルーカース殿下は比較するのもおこがましいほど多才な方だから。だから・・・エレンも好きになったんだ・・・
ルークとエレンの婚約は政略結婚だからと自らを慰めていたが、ノーランでのエレンとルークを見たらそんな微かな慰めでさえも否定をせざるを得なかった。ルークを見つめるエレンの瞳を見れば、彼に恋していることがわかった。そしてルークも同様にエレンを大切に想っているのだと・・・お互いが望んで婚約を受け入れたのだと嫌と言うほど思い知った。
当初デイヴはルークと同じ1班の予定だったが、急遽3班に変更になった。エドはアンディが初めての野外調査だから面倒見てやれなんて言っていたが、エドなりの配慮だったのだろう。
心の奥底へしまいこもうと思ってもエレンへの想いは止めどなく溢れてきて、息を吸うのも重く感じるのだ。この気持ちはいつになったら消えるのだろうか。




