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38. 王妃と農園(1)

それから数日が過ぎたがルークからの連絡は一向にないまま、お妃教育の初日を迎えた。


「エレン、いよいよね。なんだか私がドキドキしちゃうわ。」

リーナは目をキラキラさせてエレンを見る。


「本当に。今までお話しする機会もなかったのに、いきなり直々のご指導だなんて緊張しちゃう。」


「期待の表れなんじゃない?でも王妃陛下はとてもお優しい方だから心配することないと思うわ。お母様が生前王妃陛下によくして頂いていたのだけど、お母様が亡くなってからも気に掛けてくださる温かい方よ。」


ヴィオラの亡き母セシリアは生前、王妃と懇意にしており、幼いヴィオラと共に城に招かれることもあったと言う。国外から嫁いできたセシリアが自分と重なる部分があったようで、リュミエラクォーツに馴染めるようにと色々と世話を焼き、セシリアがリュミエラクォーツに基盤を作れるようになってからも非常に親しくしてた。


「エレンなら大丈夫よ。さっ、もう行きなさい。」


リーナにやや強引に送り出され馬車に乗り込むが、落ち着かず、そわそわ外を眺めるしかない。


王妃陛下はどんな方なのかしら。ヴィオラはとてもお優しい方だと言っていたし、あの優しいルークのお母様なのだからきっと素晴らしい方だと思うのだけど、よい関係を築けるかしら・・・


そんなことを考えていたらいつの間にか城に到着していた。


「エレノア様、お待ちしておりました。王妃陛下より農園へお連れするように申し付けられております。」


「農園?」


「えぇ。王妃陛下が管理されている農園でございます。」


お妃教育を農園で??何をするのかしら・・・


城の馬車に乗り換えしばらく進むと、風に乗って甘く爽やかな香りが吹き込む。驚いて窓から身を乗り出すと前方には広大な花畑が広がっている。


「まぁ!これは見事ね。何の花かしら。」


「カモミール畑でございます。王妃陛下がお世話をなさっているのです。」


わくわくした気持ちで馬車から降り、甘い香りを体中に取り込むように大きく息を吸い、あたりをみまわすと【Audrey's garden】と書かれた古ぼけたちいさな看板が目に止まる。


ガーデンっていう規模ではないと思うのだけど…


「エレノア嬢!」


振り返ると花畑からひょっこり顔を出した王妃が手を振っている。


「王妃陛下!本日はよろしくお願いいたします。」


「そんなに硬くならないで頂戴。」

慌てて最敬礼をするエレンを見て王妃はふふっと笑い、大きな帽子と手袋を侍女に手渡す。


「ちょっと花の手入れをしていたの。こんなところにわざわざ来てもらって悪いわね。あちらにテラスがあるから行きましょう。」

そう言って、煉瓦の道を少し歩くとこじんまりとしたテラスが見えた。シンプルだが上質な造りのテラスである。


「時々ここでお茶会をするの。親しい人だけを集めた小規模なね。エレノア嬢にも見てもらいたかったのよ。そしてここにせっかく来たのだからフレッシュなカモミールティを召し上がれ。」


「ありがとうございます。うわぁ、よい香り・・・。それにしても素敵な農園ですね。こんなに広大なカモミール畑を見るのは初めてです。この場にいるだけで体中が癒されるような気分ですわ。」


「そうでしょう?最初はこじんまりとしていたのだけど、どんどん広げてしまってね。さすがに一人では手に負えなくて最近人を雇ったのよ。」


「え?それまでは王妃陛下お一人で育てていらしたのですか?」

王妃が花の手入れをすること自体が驚きなのに、最近までこの広大な農園の手入れをしていたとは驚きを隠せない。


「そうなの。公務の合間の安らぎの時間なんだけど、ちょーっと大変になりすぎてね。」


「今度私もお手伝いさせていただけませんか?」


「うれしいわ!ねぇ、エレンと呼ばせてもらってもよいかしら?」


「もちろんです。陛下。」


「ありがとう。・・・エレンはとても美しいわね。ルークが心奪われるのも当然ね。王妃教育を買って出たけれど、エレンには特段必要ないと思っているの。」


「そんな・・・まだまだ未熟でございますのでご指導いただければと思います。」


「社交界での振る舞いを見ていればわかるわ。それに学園の校長からも非常に優秀だと聞いているわ。それによくエレンの噂を耳にしていたわ。美しく賢い令嬢に国内外から求婚が殺到しているって。お父上に聞いて御覧なさい。」


顔に血が上りほてりを感じる。そんなエレンを見て王妃は微笑む。

「あとはより深くこの国について学んでもらえればと思っているの。机の前で学ぶのではなく、五感で学んでほしいの。だから今日はこの場所を選んだのよ。気になることは何でも聞いて頂戴ね。」


「ありがとうございます。色々吸収させて頂きます。」

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