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34.強い思い

「はあぁー。せっかく殿下…ルークへの気持ちに気づいたのに肝心のルークにしばらく会えないなんて。」


ルークはアストレイ家に訪ねたあとすぐに公務でエルヴフルールに旅立ってしまい、2週間戻ってこないのだ。


「あっ!そうだわ!ヴィオラとリーナとお茶会でもしようかしら。婚約のこと報告しなくちゃ。」

そう言って便箋に手を伸ばそうとした時、シャボン玉が現れた。シャボンレターだ。エレンがシャボン玉に触れると弾けて手紙が飛び出した。


「気が合うわ。リーナからお茶のお誘い!クレア!出掛けるわ。仕度をお願い。」


若草色のドレスを身に纏い軽やかな足取りで馬車へ乗り込む。話したいことが山のようにある。


「リーナ、お招きありがとう。」

「いらっしゃい。…その顔を見ただけでわかるわ。よい結果になったんでしょ?早く座って!」


ルークとエレンどちらも勘違いしていたこと。本当は両思いで、ずっと前からルークがエレンを想っていてくれたこと。弾む心を押さえながら話すが、ついつい前のめり気味になってしまう。せっかくのお茶もすっかり冷めてしまったが、リーナとヴィオラの歓声が響き矢継ぎ早に次々質問が飛び、女子会は大盛り上がりだ。


「本当によかった。おめでとうエレン。」

「ありがとうヴィオラ。」

「でも誤解が解けなかったら大変なことだったわよ。私たちのお陰じゃない?」

リーナはいたずらっ子のように笑う。


「本当感謝しているわ。ありがとうリーナ、ヴィオラ。」

「よかった!本当に!…あら、新しいお茶を入れさせるわね。ちょっと、お茶を…」


リーナがメイドにお茶を頼もうとしたとき、何やら部屋の外から誰かの怒鳴り声が聞こえた。


「一体何かしら?お客様がいるっていうのに騒々しいわ。」

眉をしかめて侍女に様子を見に行かせようとしたとき、部屋のドアが乱暴に開いた。


「リーナ!久しぶりだな。しばらく留守にしていて悪かったな。でも戻ってきたから安心してくれ。」

「ヘンリー…」


硬い表情リーナの目線の先には元婚約者のヘンリーの姿があった。

そんなリーナのことなどお構いなしに執事の制止を振り切ってずんずん部屋に入ってくる。そんなヘンリーから守るようにエレンとヴィオラはリーナの前に出る。


「…どうかしましたか?そこをどいて頂けないでしょうか?久しぶりの婚約者との再会なのですよ。」


エレンとヴィオラが物申す前にリーナが声を荒げた。

「婚約者って…私の婚約者はフレディよ!」


「あぁ、父から聞いたさ。あんまりじゃないか、少しの気の迷いで婚約者を弟に取られるなんて。僕の婚約者はリーナだけだよ。リーナからも父に言ってくれよ。」


「…何を言っているの?貴方、自分のしたことをわかってないの!?私はフレディと結婚するの。それに貴方はもうバース家の人間ではないはずよ。貴方は家の問題に口を出す権利はないわ!」


「だから気の迷いだったと言っているだろう!いいからお前は父に提言すればいいんだ!僕を婚約者に戻すようにって。」

ヘンリーはそう言ってエレンとヴィオラを押し退け、リーナに近づこうとする。

エレンは咄嗟にヘンリーの腕を捻りあげる。


「!?何するんだ!このじゃじゃ馬!」


「あんなにリーナに冷たく当たって、挙げ句の果てに駆け落ちだなんて…婚約者に戻せ?どの口が言っているのよ。恥を知りなさい!」


「小娘のくせに…父親が大臣だからって調子にのりやがって!」

掴まれていない手のひらがぼうっと光る。


コイツ魔法発動させようとしてるの?貴族令嬢に向かって魔法使うなんて信じられない!…返り討ちにしてやる…


魔法を使うことも一瞬考えたが、ヒョロ男のヘンリーには体術で十分ということで、エレンは見事な大外刈を決めた。目を白黒させるヘンリーはもう反撃を起こす気もないようだ。


「この無礼者!!」

ドアの前には怒りで震えるフレディが立っていた。

助けを求めるような目を向けるヘンリーだが、フレディは無言で手から蔓を出し、ヘンリーを拘束する。


「なっ!お前…兄に向かって何を!」


フレディは冷ややかな目でヘンリーを見つめる。

「兄?私にはもう兄などいない。お前はもうバース家の者ではない。貴族籍からも除籍されている。」


「だからこうして戻ってきたのだろう!リーナと結婚してバース家に戻るために。」


「ふざけるな!リーナをなんだと思っているんだ!あんなに傷つけて…今度は婚約者に戻せだって?…本当に愚かだ。愚かすぎて同情する…リーナは私が幸せにすると誓ったのだ。」


ヘンリーは黙ってフレディを睨み付けるが、フレディはそれを無視して従者にヘンリーを屋敷に連れていくよう命じた。そしてエレンの正面でひざまづく。


「エレノア様、大変失礼致しました。元ではありますがバース家の者が無礼を働き申し訳ございません。」


部屋を出ようとしていたヘンリーが振り向いて嘲笑した。


「お前、小娘に媚びるのか?確かに父親は大臣だが、同じ侯爵家でも我が家の方が格上だろう。バース家を安売りするなんて。やっぱりお前は跡継ぎの器じゃない。」


フレディはもううんざりと言うように長いため息をつき呟く。

「…お前は新聞くらい読めよ…」


気を取り直すようにヘンリーの方を向く。

「この方はルーカス殿下のご婚約者だ。」


「は?」


「エレノア様は我が国の第一王子であられるルーカス殿下のご婚約者だと言ったのだ。なんで知らないんだよ、このバカ!」


ヘンリーはきょとんとしたまま従者に連れていかれた。


「はぁぁ…エレン、本当にごめん…」


「いいのよ、気にしないで。」


「あんなにバカだったなんて…」


「心中お察しするわ。」


「そうだ、エレン怪我はない?」


フレディの一言に皆一瞬静まった後爆笑する。(サマーヴィル家の使用人含む)


「ヘンリー相手にエレンが怪我なんてするわけないじゃない!」

笑いすぎて息も絶え絶えのリーナが叫ぶ。


「ごめんごめん。エレンは普通の令嬢じゃなかったよね。」

フレディはふふっと笑い、そして真面目な顔をしてリーナを見つめる。


「リーナ、嫌な思いをさせてごめん。もう絶対にこんな思いはさせない。」


「大丈夫よ。フレディが一緒にいてくれれば。」


「ヘンリーは付き合いのある家に預かってもらうことになっている。海でバシバシ鍛えられて心身ともにまともな男になってもらうよ。」


「海で?それってもしかしてレッド男爵?」


「あぁ、レッド男爵にヘンリーを任せた。」

フレディはニヤリと笑う。

レッド家は貿易を生業としている一族である。その家長であるレッド男爵は屈強な大男で、自ら船の舵を切って航路を進み、海賊にも恐れられている。


「それは…彼にとってきっと大変貴重な経験になるわ。」

リーナもふふっと笑い、リーナとフレディは顔を近づけ見つめ合う。


エレンとヴィオラは互いに目配せを交わす。

「じゃあ、私たちはお邪魔みたいだからそろそろ失礼しようかしら。今日は話を聞いてくれてありがとう。また明日学園でね。」



エレンは馬車に揺られながら、二人が互いに想い合う強い姿を思い出し、温かな気持ちになる。

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