33.運命の日(2)
部屋にピリッとした緊張感が広がる。
そしてその張り積めた空気も気に留めぬ様子で、国王自ら聖杯の準備を始める。
動揺しているオースティンとレオナルドがやや置き去り気味ではあるが3人で誓いを立てた。
「ルーカスに関することだ。まだ3歳で異例ではあるのだが、将来ソフィア嬢とエレノア嬢のどちらかをルーカスの妻に迎えたいのだ。」
レオナルドは咄嗟にオースティンを見ると驚いた表情のオースティンもまたレオナルドを見ていた。
生まれる前から婚約者が決まっているケースも珍しくはないが、王族ましては直系の第一王子の婚約となると話は別だ。国の盛衰にも関わるため本来であれば慎重に進めるもので、昨日生まれたばかりの娘にそのような申し出があると予想だにしなかった。
少し間をおいてオースティンが困惑した様子で遠慮がちに話し始める。
「大変光栄でございます。ただ、その…娘も生まれたばかりでお后候補の素養があるとは限らないかと思うのですが、よろしいのでしょうか…?」
「すまない。驚くのも無理もないな。私も早すぎるとは思うのだが、ある人の勧めがあってな。まぁ、その人と言うのがスカーレットなんだが。16年前に予言があったのだ。その予言によると16年後の大流星群の夜、つまり昨日のことだ。その日に精霊の加護を受ける姫が生まれ、その姫がこの国の危機を救うだろう。その姫を第一王子の妻に迎えるべきだと。」
レオナルドはごくりと唾を飲み込む。
あの大魔法使いの予言だと?この国の危機を救うのがエレンかも知れないということなのか…?
「しかし、大流星群の夜には加護を受けた2人の姫が生まれた。だから2人の姫のどちらかを后に迎えたいと言うことだ。2人とも家柄も十分、そしてオースティンとレオナルドならばルークのお后に相応しい姫に育て上げられると確信している。あとは健やかに成長するのを願うだけだが、スカーレットの予言を抜きにしてもお后候補になっただろう。時期が早いこと以外はな。」
出生届とともに加護を受けた者はフェアルの届けを出すのが義務となっている。フェアルの一覧は非公開であるものの、自然とフェアルであるということは漏れ伝わるもので、フェアルを婚約者に求める者は国内外問わず非常に多い。だから早々に呼び出しがあったのだろう。予言の姫の婚約者が決まる前に。
オースティンとレオナルドは静かに目線を合わせ、国王に最敬礼をし、まずはオースティンから話し始める。
「国王陛下、非常に光栄なお話を頂きありがとうございます。娘をお后に相応しい令嬢に育てることを誓います。」
そしてレオナルドも続く。
「同じく。国王陛下のご期待に応えられますよう努力いたします。」
「無茶な願いを聞き入れてくれたことに礼を言う。そしていつどちらを婚約者とするかなのだが、予言の姫だと確信できる出来事が起こった時点で婚約者としたい。」
「それは…我が国の危機を救った時ということでしょうか。」
オースティンが遠慮がちに国王に問う。
「そう言うことだ。危機に陥るなど考えたくもないがな。もしそのような事が起きなかった場合は、スカーレットが残したヒントをもとに私が判断しよう。そうだな…姫達の16歳の誕生日がよいな。」
話が終わり部屋を出ると、オースティンとレオナルドは深いため息をついた。
「レオナルド様、大変なことになりましたな…」
「えぇ…本当に有難い話ではあるのですが…とりあえず我々は娘を無事に育て上げられるという使命を果たさなくてはなりませんな。」
屋敷に戻るとまずエレンの眠る部屋を訪れた。
「かわいいエレン。なんだか大変なことになったぞ…元気に育ってくれさえすればよいと思ったが、そういうわけにはいかぬのか…お前をしっかり育てるのが父の使命になりそうだ。」
「あら、レオ。お戻りになっていたの?なんだか疲れているように見えるけど大丈夫?」
「リビィ…大丈夫だ。父としての重圧を感じていたところだ。」
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16年間必死に育ててきた。少し厳しすぎるかと思ったがお后教育は徹底的に行い、その甲斐もあってどこへ出しても恥ずかしくない令嬢に成長した。しかも年を重ねるごとにどんどん美しくなり母親のオリヴィア瓜二つで婚約の打診も増える一方であった。危ない目にあっても大丈夫なように武術も仕込んだ。(途中で間違いであったと気がついたが遅かった。)
気がかりだったのは、フェアルの特性が見られないことであった。特性がないのなら予言の姫ではないのかもしれないと期待していた部分もあったが、そんな期待を大きく裏切る四精霊の加護を受けていたという始末だ。
「ただ普通の幸せをと思っていたがな…大変な道を歩むことになるとは。しかし…ルーカス殿下を見つめるエレンの顔…本当に幸せそうであったな。好きな人と結婚させたいという私の願いは叶ったということかな。エレンの選ぶ道を信じて支えることが私の役目か。」
レオナルドは再び深いため息をつく。しかし、先程とは異なり穏やかで少し寂しさが混じったため息であった。




