31.花歌
ルークはエレンの手を取り国王のもとへ向かう。エレンに合わせてゆっくり歩みを進めるが、早る気持ちを抑えるように心なしかステップを踏むような足取りに家臣たちは目を丸くする。
「エレン、そろそろ王の間だ。大丈夫かい?」
「えぇ、少し緊張しますが大丈夫ですわ。」
角を曲がると長く真っ直ぐに伸びる廊下の先には豪華な装飾が施された重厚な扉が見え、扉が近づくにつれ胸が苦しくなる。
「ルーカス殿下…とエレノア様?お二人でいかがなされましたか?」
エレンの姿を見た衛兵が少し驚いた様子でルークに問いかける。
「あぁ、国王に少し話があってね。父上はいらっしゃるか?」
「はい。書類にお目を通されているところかと。」
そう言って衛兵は扉を叩く。
「父上、失礼します。」
「おぉ、ルークか。珍しいな。どうした?」
「えぇ、少し話があるのですがよろしいですか?」
「あぁ、構わない。」
ルークが部屋に入るとエレンも後に続き、国王に向かって最敬礼する。
「エレノア嬢?これもまた珍しいお客様だ。」
「御忙しいところ、突然申し訳ございません。」
「いや、こんな素敵なお客様なら大歓迎だ。」
そう言って笑みを向ける。
国王はソファーへ移動し、ルークとエレンにも座るよう促す。
「…さて、どうしたのかな。」
なんだか全てをわかっているような穏やかな笑みを浮かべる。
「私とエレノア嬢の婚約の件ですが、正式に進めて頂けますでしょうか。」
「そうか。エレノア嬢も一緒ということは、エレノア嬢も了承しているということだろうが…エレノア嬢、この婚約を受けてもらえるということでよいのかな?」
国王は優しくエレンを見つめる。
「はい。喜んでお受けさせて頂きます。」
エレンは真っ直ぐに国王を見つめ答える。
「そうか。」
幸せそうな様子のエレンを見て、国王は目を細める。
「レオナルドにはこれから報告に行くのか?」
「はい。この後エレンの父上に報告に行く予定です。」
「そうか。エレン、ルークのことよろしく頼むよ。」
「ルーカス殿下をお支え出来るよう精進いたします。」
「気負いすぎずにな。嬉しい報告をありがとう。さぁ、アストレイ家に行ってきなさい。レオナルドがそわそわして待っているんじゃないか?」
国王はにやっと笑ってエレンを見る。
確かにそうだ。ルークに会いに登城するとしか伝えていないのだ。そもそも婚約を断ろうと登城したのに、一転してめでたく正式な婚約なんてエレン自身も想像だにしていなかった。婚約の報告をしたらレオナルドはさぞ驚くことだろう。
「それでは父上、失礼します。」
二人は国王に一礼し後にした。
「エレン大丈夫?」
「緊張しました。でも国王陛下にお許しを頂けて安心いたしましたわ。」
馬車を待たせていたが、ルークがすぐにでも報告をしたいと言うので、空間移動することになった。
御者に一声かけようと近づくと、声をかける前にエレンに気がつき、そしてルークの姿を認識すると飛び上がった。
「ル、ルーカス殿下!」
「待たせていたところ申し訳ないのだけど、急ぎでアストレイ家に行かなくてはいけなくてね。我々は空間移動をするから、君も屋敷に戻ってもらえるか。」
「ごめんね、セド。先に行くわね。」
「エレン、さぁ行こう。」
そう言ってルークはエレンの肩を抱き、ポカンとするセドリックを残し二人は消えた。
「エレン…とルーク?」
二人が振り返るとそこにはエドがいた。
「あぁ、エド。アストレイ軍務大臣に用があってね。…ところでその格好はどうしたんだ?」
つなぎ姿で庭木の剪定中のエドを見てルークが尋ねる。
「…色々あるんだよ。」
ジョーンズ古書店での一件におかんむりの父レオナルドによってマシューの指導のもと庭仕事を命じられているのだ。
「エレンと一緒に父上に会いに行くってことは…そうか、やったな!」
エドがニヤリとルークを見て小突く。
「紆余曲折あったけどな。じゃあ行ってくるよ。」
屋敷に入ると使用人達は恐れおののき固まってしまった。騒ぎを聞きつけ大慌てで執事のダニエルがやってきた。
「こ、これはルーカス殿下…」
「急に申し訳ないな。アストレイ軍務大臣に会いたいのだが。」
「かしこまりました。それでは応接室にご案内致します。」
応接室でレオナルドを待っていると、クレアがお茶を運んできた。最初は不安そうな面持ちでそわそわしたいたようだが、エレンの様子を見て上手くいったと思ったようでちらちらとエレンを見て小さくガッツポーズをしている。ルークは部屋の調度品に興味があるようで気がついていないが。
ルークがティーカップに手をつけようとしたときバタバタとレオナルドが廊下を走る音がした
「ルーカス殿下!お待たせてして申し訳ありません。」
「そんなに慌てなくても大丈夫だ。素晴らしい調度品をゆっくり見れてよかったよ。こちらこそ突然押し掛けて申し訳ない。」
「恐縮です。…ところで…ルーカス殿下、あの…そのですね?」
レオナルドは落ち着かなそうにソワソワする。
「アストレイ軍務大臣、早速本題に入りますが、エレノア嬢との結婚を認めて頂けますか?」
チラリとレオナルドを見ると、なんともまの抜けた顔をしている。業火の雄獅子の異名を持つとは思えない。こんな顔を部下に見せてやりたいものだ。
「え?結婚?」
困惑した表情でエレンを見て、
“お前、婚約を辞退しに行ったんじゃないのか?”と目で訴えている。
「えぇ、お父様。詳細は割愛させていただきますが、もちろん私も殿下との結婚を望んでおります。」
目を白黒させているレオナルドをよそに、ルークとエレンは微笑み見つめ合っている。
「エレノア嬢を必ず幸せに致しますので、この結婚を許して頂きたい。」
「そ、それはもちろん…私としても大変嬉しくありがたい話でございます。不出来な娘でございますがよろしくお願いいたします。」
我に返りやっといつものレオナルドに戻ったようだ。深く深くルークに頭を下げる。
「ありがとう。エレンを大切にします。さて、突然押し掛けてきて申し訳ないのだが、公務の時間が迫っているのでそろそろ失礼するよ。」
「もったいないお言葉…ありがとうございます。お忙しい中、足をお運び頂きただき申し訳ありません。」
ルークはエレンを優しく見つめる。
「エレン、これで正式に婚約者だ。すごく嬉しいよ。本当はずっと一緒にいたいのだけど、二週間ほど公務で国を離れなければならない。帰ってきたらすぐに会いに行くから待っていてくれ。」
「はい、殿下。お待ちしております。お体にお気をつけて行ってらっしゃいませ。」
「ありがとう。」
ルークはにこりと笑うと空間移動で消えた。




