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30.杞憂と薔薇

「殿下。以前殿下が、私の幸せを願っているとおっしゃってくれましたね。私も殿下に対して同じ気持ちでございます。殿下の幸せを願っています。でも、このままだと私は後悔する。そう思うのです。」


真剣な眼差しで見つめるエレンにルーカスは戸惑いの表情を浮かべる。


「ルーカス殿下、貴方をお慕いしています。」

「え?」

「殿下のことをお慕いしています。だから大切な方…ソフィア様と共に歩んで頂きたいのです。国王陛下には私からお伝えします。私は自由過ぎる性格ゆえ、王室の一員として生きていくのは難しいとでも申し上げますので、殿下は私のことはお気になさらな…」

「ちょ、ちょっと待って…エレノア嬢が私を?そんなはずは…それにソフィーのことは大切に思っているけれど、なんと言うか…幼馴染み…いや、妹のように思う気持ちです。」

「え?」

「え?」


お互いなんとも間抜けな顔で見合わせている。


「エレノア嬢…貴女はデイヴィッドを想っているのではないのですか?」

「へ?デイヴを?いや、デイヴは弟子…いえ、弟のようなものです。」


ルーカスは立ち上がり両手で顔を覆い天を仰ぐ。慌ててエレンも立ち上がったものの視線のやり場に困りキョロキョロと辺りを見回す。


「つまり…お互い勘違いしていたということかな?はぁ…まったく情けないな…レディにこんなことを言わせるなんて。」

「勘違い…」

「本当に情けない。ずっとうじうじしていた自分を殴ってやりたい…」


ルーカスは大きなため息を付き、視線をエレンに戻す。

「エレノア嬢。私はずっと貴女を想っていました。だからこの縁談の話を受けたとき本当に嬉しく思うとともに、貴女の幸せを奪ってしまうのではないかと葛藤していたのです。まぁ、取り越し苦労だった訳ですが…」


殿下が私を…?信じられない。ソフィーではないの?


この急展開になんとか着いていっているが、気を抜くとパンクしそうだ。嬉しく思うよりも混乱しているのが正直なところだ。


ルーカスはエレンを見つめたままエレンの両手を包み込む。

「エレン、私と結婚して頂けますか?」


今…なんて?結婚?


頬が紅潮するのを感じる。ルーカスから視線を反らしたい衝動に駆られるが、ルーカスの視線から逃れられない。でもやっと向き合うことが出来たのだ。自分の気持ちに正直になれた。


ルーカスの瞳を強く見つめ返す。

「ルーカス殿下。恐れ多ございますが、喜んでお受けいたします。」


その瞬間ルーカスの頬が緩む。

「ありがとう。本当に嬉しい。」

「私もです。でも、二人とも勘違いしていたなんて…」

「本当にね。こんなことならエドに素直に頼ればよかったよ。」

「エド兄様に?」

「えぇ。2年前の輝星祭で初めてエレンを見たんだ。一目惚れだよ。それに気が付いたエドに何度も紹介してやるって言われていたんだよ。」

ルークは照れ臭そうにする割に、さらっと言う。


一目惚れ!?うそ!しかも2年も前からなんて…


「弓術場で見かけたんだ。矢を射る姿を見て狩りの女神アルテミスが現れたのかと思ったよ。その次の年も弓術場に行ったんだ。もしかしたらエレンがいるかもしれないって。私の予想通り君は現れた。デイヴィッドと一緒にね。輝星祭を2人で抜け出すなんて親しい関係なんだとは思っていたけど、2年連続なんてやっぱり恋人同士なんだって確信して絶望したんだよ。」


今度はエレンが顔を覆い天を仰ぐ。

「恋人同士だなんて…でも、そう見られてもおかしくないですよね…本当に軽率でしたわ。」

「でも誤解でよかった。エレンが私のことを考えていてくれたなんて本当に嬉しい。」

ルーカスはエレンから視線を反らしてはにかむ。


こんなことってあるのかしら…夢みたい。


はにかむルーカスが横にいるのが信じられない。


「エレン、この足で国王とエレンのお父上に報告に行ってもいいかな。慌ただしくて本当に申し訳ないのだけど、今日を逃すとなかなか二人で報告に行けないと思ってね。善は急げというし。」

「えぇ、私は大丈夫ですわ。」

「エレンと結婚するって早く伝えたいんだ。」


そう言ってルーカスはキラキラした笑みをエレンに向ける。


この笑顔は反則でしょ!眩しすぎる…


「エレン?どうかした?やっぱり急すぎて戸惑うよね。報告は後日にしようか?」

「い、いえ!でも…お恥ずかしながら、自分の気持ちに気が付いたのはつい最近で…それにルーカス殿下はソフィーのことを想っていると思っていたものですから、この展開に戸惑う気持ちもあります。あ!でも、それが嫌なわけではなく、すごくすごく嬉しくて!夢だったらどうしようって…」


ルーカスは驚いた顔をしたが、すぐにまた反則級の笑顔でエレンを見つめる。


「かわいいエレン。エレンの気持ちを聞けて嬉しい。エレン、愛していますよ。」


途端にエレンの顔は紅潮する。


「で、殿下…」

ルーカスは人差し指で優しくエレンの口を閉じさせる。


「ルークと呼んでくれますか?」


身体中の血液が顔に集まっているのではないかと言うほどエレンの顔は紅くなる。


「…ル、ルーク?」

「なんだい?」

「ルーク…あいしています。」

「エレン、なんて可愛いんだ…」


ルークはそう呟いてエレンの唇に軽くキスをする。


!!!今!何を!?


腰が抜けて座り込んでしまう。


「エレン、大丈夫?」

慌てたようにルークもしゃがみこむ。


「え、えぇ。少し驚いただけですわ…初めて…だったから…」

「エレン…」


ルークはまたエレンに優しくキスをする。何度も何度も。


「ル、ルーク…息が…できない…」

「ごめんね。エレンがあまりにもかわいいから。さぁ、国王に会いに行こうか。」


火照る頬に甘ったるい薔薇の香りがまとわりつく。

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