24.始まりの夜~ルーク編~(3)
若干歩きにくそうにはしているが、ルークの心配をよそに楽しそうに歩みを進める。
彼女は他の女性にはない魅力であふれている。
そんなことを考えていたら背後から彼女が呼ぶ声が聞こえた。慌てて振り返ると沼にはまった彼女の姿があった。
私がついていながらなんて事だ…
そして彼女を引っ張ると勢い余って小川に二人で落ちてしまうという踏んだり蹴ったりな状況だ。
最悪だ…彼女をこんな目に遭わせてしまうなんて。
申し訳なさすぎて彼女の顔を見れない…
しかし彼女は令嬢らしからぬ大笑いをする。最初はキョトンとしていたルークもお互いのひどい姿を見るとつられて笑ってしまった。
やっぱり彼女は他とは違う。
そんなことを思っていたら、突然彼女はハンカチでルークの頬についた泥を拭う。
顔は火照り心臓が激しく脈を打つ。
あれは反則だ…
彼女の言動に振り回されてばかりだ。簡単に私の心をかきみだしていく。春の嵐みたいだ。彼女がいると胸がきゅっと締め付けられたり、嬉しくなったり、落ち込んだり。彼女は様々な感情を私に与える。でもそれでもよいから側にいたいと思ってしまう自分はなんて愚かなのだろう。
また沼があるかもしれないからなんて理由をつけて彼女に手を差し出したが、ルークの心臓は悲鳴を上げる。
大したことは話していないが、この時間が今までで一番の幸福に感じ、このままずっとこうしていたいと願う。
しかし、試合会場が見えると急に夢から覚めたような気持ちになる。
彼女のことが好きだ。
彼女のことをほとんど知らないのに、この気持ちに間違いはないと確信する。
困るよ、こんなに私を振り回すなんて。
でも…エレン、君のことが好きだ。そして君の幸せを誰よりも願うよ。
「エレノア嬢、私は貴女に幸せになってもらいたいのです。」
「…幸せに?」
戸惑いながらルークを見つめ返す。
「えぇ、貴女の幸せを願っています。…じゃあ、行ってきます。」
こんな晴れやかな気持ちは久しぶりな気がする。
大切なものを手放したのに何故だろう。自分には出来なくても、彼女が幸せでいるのならよいのだ。その覚悟が出来たのかも知れない。
不思議だ…つい先ほどまで苦しくて仕方なかったのにすっきりした気分だ。今は彼女がデイヴィッドの横にいても落ち着いていられる。
もうルークには迷いはなかった。
エレンとデイヴの真横を颯爽と馬で走り去る。
心が軽くなったら体もよく動く。そのかいあって、過去最高のスコアを叩き出すことが出来た。試合後エレンが駆け寄ってルークを称賛する。こんなに無邪気に笑うエレンは本当に可愛い。少し前のルークならただ真っ赤になって何も言えなかったはずだが、そこにはいつも通り紳士的に振る舞うルークがいた。
エドは拍手をしながら近づいてくる。
「ルーク、さすがだな。それで…ちょっといいか?」
「あぁ。」
試合のことか。長くなりそうだな。
そう思いながらエドの後に続く。
人気のない場所へ着くと、エドは話し始める。
「ルーク…お前どうなの?」
「うん、よかったよ。エドもそう思うだろ?」
「まぁな。」
「タイミングもかなり良かったと思う。」
「確かにな。タイミングとしては絶妙だったかもな。でも決まるまでは少し心配だったけどな。」
「あぁ、そうだな。でも上手くいく予感はしていたんだ。」
「そういうものなのか。ふーん…でも本当に良かった。なんだかお前もエレンも勘違いしているみたいだったから気になっていたんだけど、取り越し苦労だったみたいだな?」
「ん?なんでエレノア嬢の話が出るんだ?さっきの試合の話じゃないのか?」
「は?婚約の話だよ。何だよ…じゃあ…単刀直入に聞くけど、エレンのことどう思ってるんだよ。」
「試合の話かと思ってたよ。エレノア嬢は…とても素敵な女性だと思う。…正直婚約が内定したときとてもうれしかった。」
「だよな。お前二年前からエレンのこと気になっていたんだもんな。でも、エレンは誤解してるぞ。お前には好きな人がいて、その人と結婚したいと思っているって言ってたぞ。」
「エレノア嬢がそんなことを?どうして…」
「知らねえよ。ちゃんと誤解は解いておいたほうがいいぞ。」
「でも、もう今更そんな誤解を解いたところで…。」
「それにお前も誤解している。エレンはデイ…」
「ルーカス殿下!!アストレイ大尉!まだこんなところにいらしたのですか!もう試合が始まります。至急会場へ移動してください!」
運営スタッフが慌てた様子で二人を呼ぶ。
「もうこんな時間か!ルーク話はまたあとで!空間移動を頼む。」
城の敷地内は王族及び特別な許可を与えられたものしか空間移動をすることはできないのだ。
ルークが魔方陣を呼び出すと、エドがルークの肩に手を置く。次の瞬間二人は試合会場へ姿を消す。
体術・剣術ともにエドは大健闘したが、ルークは全種目連覇の快挙を遂げ、エドは総合2位にといった結果であった。
会場の人々はルークとエドの健闘を称え、二人の周りには人だかりが出来ている。
ルークの視界の角に一瞬エレンの姿が見えたがすぐに人混みで見えなくなってしまった。
エドは何を言いかけたんだろう。それに彼女は私に好きな人がいるなんてなんでそう思ったのだろう…
聞きたいことは沢山あるが、今はルークもエドもそれどころではない。熱狂する人々からしばらく解放させてもらえなそうだ。
ルークが自由の身になったのは、もう星が姿を見せる頃だった。
「流石にエドは帰ったよな。まぁ…また会ったときにでも話をすればよいか。」
そう呟いたものの、エドに話の続きを聞けなかったことにがっかりする。
「この期に及んで、まだ何か期待していると言うのか。まったく情けないな。」
そう言ってルークは苦笑するが、気分はすっきりしている。どんな形であれ、彼女の幸せを願うことには代わりはないのだ。




