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22.始まりの夜~ルーク編~(1)

今日は輝星祭だ。国民全員が待ち望む祭典であり、それはルーカスも例外ではない。

とは言えども、最近公務の量が増えたため、以前より自由な時間は少なくなるだろう。


ダンスホールで踊るレディ達は華やかなドレスをふわりと揺らし、宴に花を添える。まるで蝶が羽ばたいているようだ。


あ、彼女だ…

ルークのその視線の先にはエレンがいる。


相変わらず美しいな…


年に数回しかエレンの姿を見ることはないが、その度にルークはエレンを目で追ってしまう。そんなことなどエレンは気がつくこともないだろうが。



あれは二年前の輝星祭のことであった。静かに流星を見たいと思い、城の外でよい場所はないかと探していると弓術場から何やら物音がする。


「おい、誰かい…」

ルーカスは思わず息を呑んだ。星が降る中で矢を射る美少女に目を奪われる。


人間…か?


少女は凛と真っ直ぐ前を見据え矢を放つ。その矢には一切の迷いなどなく、的に吸い込まれるように飛んで行く。

星が少女に集まっているように少女の周りがぼうっと明るく光っているように見える。


ルーカスはしばらく見いっていたが、他にも気配を感じ辺りを見回すと、少女から少し離れたところに少年の姿があった。その少年もルーカス同様に少女を一心に見つめていた。


あれは…養成学校に通う…確かデイヴィッドと言ったか。彼が一緒と言うことは、彼女も人間か?

…思わず見とれてしまった。狩りの女神アルテミスが現れたのかと思った。…いったいあれは誰なのだろう。


それからしばらく経っても、少女が弓を引く姿が目に焼き付いて離れなかった。

そして数週間経ち、ルークにとって運命の日を迎える。


「おい、ルーク調子はどうだ?」

「ん?まぁまぁだよ。」

「お前のまぁまぁは怖いよ。でも今日こそは俺が勝つ。」

武術大会で打倒ルーカスを宣言するのは親友のエドだ。軍の養成学校で親しくなったが、こんなに馬が合うやつは今までいなかった。


「あぁ、まぁまぁは撤回、絶好調。やれるもんならやってみな。」

エドに向かってにやりとする。


「まじかよ。因みにうちの父上もルークと対戦するの楽しみにしてるぞ。もういい年なんだからいい加減やめればいいのに。最年長選手だよ。あぁ、あんなところにいる。あの顔は気合い入ってるぞ。」


エドの指を指す方向を見るとアストレイ侯爵が剣の素振りをしている。口元に笑みを浮かべるその姿は狂喜さえも感じる。


あ、あの()


「エド!アストレイ侯爵の側いにる濃紺の髪の女性は…?」

「あぁ、俺の妹だよ。エレノアだ。」

「エドの妹君!?全然似てないな…」

「俺は父親似で、エレンは母親似だからな。ウィルとはそっくりだろ?」


確かにエドの兄によく似ている。何で気が付かなかったのだろう。


「エレンのこと知ってるのか?」

「あ…あぁ、この間輝星祭で見かけた…」

「何、気に入ったの?」

エドはニヤニヤしている。


「なっ!そう言う訳じゃないけど…」

ルークは顔を赤くする。


「わかってるよ。あ、補足だけど、あいつ婚約者いないから。」

やっぱりエドはニヤニヤしている。


本当にあいつはこういうところが鋭くて嫌になる。

でも…エレノアって言うのか…


ルーカスは自然と頬が緩んでしまう。

そんな様子を見てエドはニヤニヤが止まらない。

そして更に気合いが入ったルークは三種目優勝の快挙を遂げた。


それからもあの弓術場での出来事を思い出すと胸が高鳴るが、あのとき一緒にいたデイヴィッドのことが気にかかる。


エドはエレノア嬢に婚約者はいないと言っていたが、デイヴィッドとはどういう関係なんだろう。気になる…でもエドには聞きたくないし…


ここ最近はその事ばかり考えて悶々とした気持ちが抜けない。


エドに…いや、あいつには聞きたくない…でも…あぁっ!


「!?何よっ!?」

エドが突然振り向く。


睨んでいたのがばれたようだ。

「…なんでもない。」

「なんでもないってことないだろ。お前がそんな顔するなんて。」

「…どう言うことだ。」

「常に冷静沈着、誰にでも優しい王子様がイライラしちゃってさ。」

「イライラなんて…してない。もう、放っておいてくれよ。」

そう言ってルークは後にする。


「あいつも素直になればいいのに。」


わかっている、わかっているさ。イライラしてるんだ。


いずれこの国を治める立場であることを意識して生きていた。何事にも真摯に向き合い、次期国王に相応しい振る舞いを心掛けてきた。感情に流されたことなんてなかったのに、あの夜彼女を見た瞬間それは崩れ落ち、彼女を自分のものにしたい衝動に刈られた。

でもそれは叶わない夢だ。側室ならともかく、第一王子の正妻の決定権は国王である父にゆだねられているのだ。

ソフィーが最有力の后候補と噂されるが、自分もそのように思う。ソフィーは幼い頃から一緒に過ごしてきて、可愛い存在だと思う。それが心が揺さぶられるような恋や愛ではないとわかっているが、ソフィーとならうまくやっていけると思う。そう自分に言い聞かせるしかなかった。

王族には一夫多妻が認められているが、側室を迎えればきっとソフィーは傷付くだろうと思うと、側室など考えられない。

それに彼女には婚約者がいないと言っても輝星祭を一緒に抜け出すくらいだ。特別な存在には違いない。

諦めるしかないとわかっているのに、あの日の彼女の姿が鮮明に思い出されるのだ。


彼女の美しい髪に触れたい、透き通るような肌にも…せめて名前を呼んでみたい、エレンと…


そこまで考えたところで頭をかきむしる。


「不毛だ…」

そう言って目を閉じる。


輝星祭から月日が経つと思い出す頻度は少なくなるが、時折思い出すと胸が締め付けられ、息苦しくなる。

そんな日々を過ごし翌年の輝星祭を迎えた。

無意識に彼女を探してしまう。そしてダメだとわかっていても弓術場に足が向いてしまう。

姿を見ると幸福感に包まれるが、今年もデイヴィッドが一緒だと気が付くと、弓術場に来たことを激しく後悔する。

その後は昨年と同じ様な日々を過ごし、今日を迎えたのだ。


しかし、今年こそは断ち切ると決めていたのに早速彼女を無意識に見つけてしまった。


中毒なのかもしれない。苦しくなるとわかっているのに見てしまう。…でも、もう弓術場には行かない。少しずつ中毒から抜け出していかなくては。これ以上追いかけても無駄なのだから。


そう心に決めたが、挨拶に訪れる者達の対応に忙しく、彼女のことを考えることもなく丁度よかった。


「ルーク、よいか。」

人の列が途切れたタイミングで父に声をかけられる。


「えぇ、父上。どうかなさいましたか?」

「着いてきなさい。」


何となく、深く聞いてはいけないような気がして、黙って頷き父の後に続く。

父のことは尊敬している。父親としてもこの国の王としても。怖いわけではないが、その威厳ある姿に常に一定の距離感を取ってしまう。


部屋に入ると、ラッセル宰相とアストレイ軍務大臣がいる。


軍に関する緊急案件か?

きりっと身を引き締める。


「まだ関係者がいる。全員揃ってから話を始める。」

そう父が言うと、その後すぐに母オードリーが部屋に入ってきた。


なぜ母上が?軍関係の話ではないのか?


そう思っていると再びドアをノックする音が響く。

重厚な扉が開くとそこには彼女の姿があった。

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