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20.曇りのち晴れ

屋敷に着くと足は自然と庭へ向かう。

稽古をしていたエドが手を止め、こちらを振り返る。


「エレン、今戻ったところか。どうだった?」

「お兄様、ルーカス殿下って普段どんな感じなの?」

「ん?常に穏やかで滅多なことじゃ怒らないな。怒ると手がつけられないけど。どうした?」

「そうなんだ。私も穏やかと聞いていたのだけど、印象が違ったから。始終固い顔をされていて。私嫌われているのかしら?」

「緊張していただけだろ。あいつはシャイなところあるし。」

「ふーん。…ねぇエド兄様、私この婚約を辞退した方がよいのかしら?」

「へっ?」

予想外の展開にエドは目が点になっている。


「好きな人と結婚したいっておっしゃていた。」

「ルークがそんなことを?…父上は何か言っていたか?」

「聞かれなかったから何も言ってないわ。次の新月まで考えろと言われているからすぐに返事はしないけど、どうしたものかしら。」

「早とちりかも知れないし、そうすぐに結論出すなよ。」


部屋に戻ってからもルーカスの言葉を思い出してしまう。

「私は愛する人と結婚をしたい、か…ソフィーとルーカス殿下は想い合っている。そんな二人の仲を裂くことなんてできないわ…でも、お断りする理由を考えないと。ばか正直にソフィーの名前を出すわけにもいかないし。」


後日、リーナとヴィオラにも事のあらましを説明した。

「ちょっと!なんでソフィア様のことなんて話題に出すのよ。」

「リーナ、自分でも謎よ…沈黙に耐えられなくて思わず話題に出しちゃたのよ。本当に愚かだったわ。でも、遅かれ早かれそういう話にはなったはずよ。」

「でも、ルーカス殿下からソフィア様のことを愛していると告げられたわけではないんでしょ?愛する人がまだいないのかもしれないし、その愛する人がエレンかもしれないじゃない。」

ヴィオラがエレンに問う。


「まさか!お会いしたのは輝星祭が初めてだもの。それはありえないわ。まぁソフィーのことを愛していると直接言われたわけじゃないけど。でも…言ってなかったんだけど、この間マリアヴェールに行ったとき、ソフィーと妹のサラ様に偶然会ったの。そのときサラ様が、ソフィーはルーカス殿下のことを慕っていて、ルーカス殿下もソフィーのことを大切に思っているって。だから私がいなければ二人は結婚できたのにって言われたのよ。」

「えぇ!?早く言ってよ、それ!というかサラ様すごい度胸よね。ヴィオラもそう思わない!?」

「そうね…でもまだ幼いから、きっと思ったことを口にしてしまったのよ。」

「そうでしょ?駆け引きなんて出来ないから、サラ様が言ったことは信憑性があると思わない?」

そうエレンが言うと二人は何も言えなくなってしまった。


毎日、内定辞退の理由を考えるが、なかなか皆が納得しそうな理由を思い付けない。いくら国王陛下が、エレンが婚約を断っても不利益にならないようにすると言ってくださっていても、適当な理由ではアストレイ家もエレンも評判を地に落とすだろう。


結局もやもやした気分のまま、武術大会の当日を迎えた。

武術大会は剣術・弓術・体術の3種目で構成される。

剣術は一対一の一本勝負で行う。見た目・使用感は真剣そのものだが、魔法をかけてあるため相手をけがをさせることはない。弓術は馬術と組み合わせたような競技で、馬に乗って障害物を突破しゴールを目指し、コース上にある的を弓で射るとポイントが加算される。タイムとポイントで順位を決める。体術は武器の使用は禁じられているが、何でもありの一本勝負。剣術、弓術では魔法はNGであるが、体術では魔法も使うことができる。相手をKOさせるか、審判が危険と判断した場合のどちらかで勝敗が決まる。剣術と体術はトーナメント方式で行い、弓術は2回トライし良いほうの得点で順位を決める。


ちょっと早く来すぎたかしら。でも、いろんな方の試合を見れるのも楽しみだわ。


ルーカスは昨年3種目制覇をしているため、剣術・体術はスーパーシードで出番が遅いのだ。

物心つく前からエレンは毎年武術大会に来ているが、いつもは父レオナルドの専属の応援&試合後は永遠に感想を求められるため、他人の試合をほとんど見たことがない。もちろんルーカスの試合も見たことはないが、今年は国王からの誘いで来ているため、レオナルド専属のチアガールを解任され自由の身である。


今の太刀筋はなかなかよいわ。こちらの方は剣の握り方もままならない、これで軍に所属しているなんて信じられない…

他人の試合を心の中で批評・分析するのも楽しい

が、自分もやりたくなってうずうずしてしまう。


「おい、次ルークの番だぞ。」

後ろからエドがエレンの頭をポンとたたく。


「あら、もうそんな時間?エド兄様は調子はどう?」

「絶好調だ。この調子だと、決勝でルークと当たるな。」


すると黄色い歓声が上がる。皆の視線の先にはルーカスがいた。

「相変わらずすごい人気だな。」


正装のルーカスしか見たことがなかったが、上下黒のラフなシャツとパンツ姿も似合う。女性たちがキャーキャー言うのもうなずける。

試合開始のホイッスルが鳴ると同時に、閃光のような一撃で勝負がついた。思わずため息が漏れるが、ため息をついたのはごく一部の上級者で、会場のほとんどの者は何があったのかわかっていないようだった。


「ルーク!さすがだな。」

エドが声をかけるとルーカスがこちらに向かってくる。


「エド、見てたのか。エレノア嬢も来てくださったのですね。退屈ではありませんか?」

また少々固い表情でエレンを見る。


「いえ…退屈だなんて…すごい、すごすぎます!今の剣さばき!軽やかなのに重たい一撃…矛盾していますが、この表現がぴったりです!」

先ほどのルーカスの一撃に大興奮のエレンは目をキラキラさせる。


ルーカスは驚いて目を大きく見開いていたが、少し頬を赤くしてぎこちないながらも微笑む。

「ありがとう。今のが見えているなんて、さすがアストレイ家のご令嬢ですね。」


その言葉にハッとしてエレンも顔を赤くする。

「あ…その、あの…つい興奮してしまって…お恥ずかしいです…」

「お前、もう少し猫被っとけよ。な?アストレイ家をなめるなよ。決勝では負けないからな。」


「ルーカス殿下は次の出番はいつですか?」

「次は弓術です。そろそろ行かなくては。」

「それでは、ご一緒してもよろしいですか?」

「えぇ、もちろんです。しかし、弓術の試合会場までは足元が悪いけれど大丈夫ですか?」

ルーカスは少し困ったような顔をする。


「あぁ、確かにな。ぬかるみも多いし。お前やめておいたら?」

「大丈夫です、ご迷惑をお掛けしないようにします。」

いつものエレンであれば遠慮をしてしまうが、ルーカスの競技を見たくて仕方がないので強引にでも付いて行く。


「悪いなルーク、俺今から体術の試合なんだ。エレンを任せていいか?」

「あぁ、大丈夫だ。」

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