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17.始まりの夜~ソフィー編~(1)

「退屈だわ…」


輝星祭に来ているが、先ほどから壁の花に徹している。

こんなに美しい花がなぜポツンと取り残されているのかと疑問に思うが、第一王子であるルーカス殿下の婚約者候補と噂されているため、男性たちは迂闊に近づくことが出来ず、遠巻きに羨望のまなざしを向けることしかできないのだ。


「ソフィー、ちょっとよいか。」

父であるオースティンがソフィーに声をかける。


「えぇ、お父様。」

「こっちだ。」

そう言って会場から出て、長い廊下をひたすら進んでいく。


「お父様、どちらに向かっているんですの?」

「国王陛下にお呼びされているのだ。」

「国王陛下が?どういったご用件でしょうか。」

「…私の口からは言えない。国王陛下から直々にお話いただける。」


扉の前で兵士が直立しているのが見えた。

その部屋の前まで行くとぴたりととまる。


「この部屋で待っていなさい。後で迎えが来る。」


オースティンの父、すなわちソフィーの祖父は、先代国王の弟にあたる。

王族に近い家系のため、王城にもよく招かれたが、これほどに奥まで入ったのは初めてである。


国王陛下がお呼びなんて何かしら…

あらゆる可能性を考えると、ひとつだけ思い当たるものがある。


もしかして…婚約のお話かしら。


ソフィー宛に縁談の話はいくつもあったが、父が断っているのを知っていた。きっと父はルークとの婚約を期待しているのだと思う。しかし、いつになってもルークとの婚約の話はない。

少しやきもきしていたころに、国王陛下からお呼びがかかったのだ。


久しぶりにルークと会えるかしら…

ルークが3年前に軍に入隊してから、会う機会がめっきり減ってしまったもの。

そう思っていると扉がガチャリと開く。


扉をみるとエレンが驚いたような顔で立っていた。


エレノア様?なんでエレノア様が?

…じゃあ、婚約の話ではないのね…


がっかりするのと同時に、心当たりのない呼び出しに不安になってきた。

横目でエレンを見ると、エレンも緊張したような不安そうな顔をしている。


エレノア様も不安そう。そうよね、突然の呼び出しだもの。

それにしても本当におきれいだわ…学園でも皆あこがれの目で見ているものね。

一度お話してみたかったけれど、今まで話しかけることが出来なかった。今ならお話できるかしら。


そう思っているとエレンから話しかけてきた。

一度も話をしたことがないとは思えないほど、楽しい時間であったが、ハミルトン副宰相が迎えに来た。


部屋に入ると国王陛下の横にはルークが座っている。

久しぶりに会うルークは昔のあどけない少年ではなく、この国を背負う覚悟を持った青年の姿へと成長をとげている。


国王が話し始めると、部屋中にピリッと緊張した空気が張り詰め、皆国王の話に神経を集中させる。


私とエレンのどちらかがルークの婚約者に?

それを今から決めるってこと?

…そんなあんまりじゃない、当人達の目の前で婚約者がどちらになるか決めるなんて…


戸惑いと若干の苛立ちを押し込んで地下へ続く階段を下ると、なんとも神秘的な場所へたどり着く。


涌き出る水音が心地よいわ。少しだけ気持ちが落ち着く。

…どこに水晶があるのかしら。


すると国王が手をかざすと水晶が泉から姿を現す。


なんて美しい…

私の運命を知る水晶…

お願い…どうか、どうか私を選んで…


祈るような気持ちで、水晶に手をに近づける。

すると水晶は激しく輝きだす。


一体何が起きているの…?


光が収まりゆっくり目を開ける。

まず目に入ったのは、エレンの腕の模様だ。

それを見た瞬間、自分は選ばれなかったのだと悟った。


この惨めな気持ちを誰にも気付かれぬよう、必死に押さえ込む。

エレンが四精霊から加護を受けていることには驚いたが、もはやどうでもよい。

一刻も早くこの場から逃げてしまいたい。

もっともらしい理由をつけて退室しようとすると、大地の精霊シャロンがチャームにエメラルドを付け足す。

これがソフィーの助けになるはずだと。


エネモスが最初の部屋まで送ってくれたが、副宰相はあんぐり口を開けて驚いていた。まぁ突然現れ、しかも精霊も一緒とあれば驚くのも無理はない。戻ってきたのがソフィーとオースティンの二人だけであったが、すぐに状況を飲み込んだようで何も聞かれなかった。


自室に入ると安堵感に包まれるが、それと同時に言い知れぬ空虚感を抱く。


…私は選ばれなかった。お父様もがっかりされているに違いない。王家に嫁ぐことを期待されていたのに、私はその役目を果たせなかった。


一粒涙がこぼれると、堰を切ったように涙が溢れる。


ちがう…父の期待に応えられなかった事が悲しいのではない。もうルークの隣に立てないことが悲しいのだ。

家の為にルークと結婚することが自分の使命と正当化していたが、本当はただルークの側にいたかっただけなのだ。


ルークは年が近いため、昔はよく一緒に遊んだものである。

ルークはいつも優しく頼りになる存在で、幼い頃二人で花摘みをしている最中、ソフィーが転んで足を擦りむいてしまったときには、小さな体でソフィーをおぶってくれたことがあった。

そんなルークのことを好ましく思っていたが、成長し精悍な青年になっていくルークに対してだんだん恋心を抱くようになっていた。

周囲も二人は直に婚約すると思っていたし、自分自身もそれを信じて疑わなかった。


でもそれは叶わなかった。

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