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15.憂鬱

「お嬢さま、もうお目覚めでいらっしゃいますか?」

部屋の外からクレアが呼ぶ声で目が覚める。

「…今起きたわ。仕度を手伝って貰える?」


憂鬱な気分のまま着々と準備が進む。

「気分が少しでも明るくなりますように。」

そう言ってクレアが選んだのは桜色のドレスだ。

「…ありがとう、クレア。昨日の夜から少し憂鬱であまり食欲がないの。」

「そう思いましたので、お嬢さまの好物のフルーツを用意させました。お部屋に運ばせましょうか?」

「うん、お願い。」


自分では顔に出しているつもりはなかったが、クレアはエレンの些細な変化にも気がつく。


私がルーカス殿下と婚約するだなんて考えたことなかったわ。きっと皆もそう思っているはず。しばらく皆の関心を集めるのは仕方ないから、受け入れるしかないわね。

でも、なぜ精霊たちは私に力を与えたのだろう。そしてスカーレットの予言によると、この国を私が守るなんてシナリオになっているらしい。これはまったくもって信じられないし、到底受け入れられるものではないわ。

…あの晩、私の運命は大きく変わったのね。良い方に転ぶか悪いほうに転ぶかなんて分からないけど。


そんな風に思いにふけっていたら、もう家を出る時間になっており、あわてて馬車に乗り込む。

漆黒の馬車は一目でアストレイ家のものと分かるため、人々の視線が集まるのを感じ、カーテンを閉じる。


馬車が止まり御者がドアを開く。


うわっ…

覚悟はしていたが予想以上だ。


「エレノア嬢、ご婚約内定おめでとうございます。」

「マリア校長先生…ありがとうございます。直々にお祝いのお言葉を頂戴するなど恐れ多く存じます。」

「とんでもない。大変喜ばしいことですので、少しでも早くお祝いを伝えたくて。」

「先生方も…お忙しいところありがとうございます。」


校長の後ろには教師達が笑顔でズラリと勢揃いしている。

エレンの予想を超え、学園はエレンの婚約内定のニュースで大盛り上がりだ。


「先生方のご指導あってでございます。それでは、一限から授業がありますので失礼致しますね。」

にこりと微笑み後にしようとする。


「エレノア嬢、一限は私の裁縫の授業ですわね。教室まで一緒に行きましょう。」

イザベラはエレンの腕をがっちり掴んで嬉々として教室へ連れていく。



「やっとお昼…疲れたわ。」

「校長がお出迎えなんてサプライズがあったものね」

リーナはニヤニヤしている。


「本当にお疲れ様。エレンも午後は魔法学よね?」

「そうなの。ヴィオラも出るでしょ?…ソフィーと会うの緊張しちゃうなぁ。」

「別に普段通りにすればいいじゃない。エレンは別に悪いことしている訳じゃないんだし。まぁ、ソフィア様は思うところはあるかもしれないけど。」

リーナは他人事だと思ってしれっと言う。


「もう!リーナは一言多いのよ。でもエレン、ソフィア様も貴族の娘よ。理解なさっているから気にすることなんてないわ。」

「そうね、ヴィオラ…」

もちろんエレンも頭ではわかっているのだが、心にもやがかかる。


「ねぇ、二人ともこんな時間だけど大丈夫?」

リーナが時計を指差す。


「大変!急がなきゃ、ヴィオラ、行きましょう。リーナ、また明日ね!」

「うん、じゃあね。あ、明日の放課後、マリーヴェールに行きましょうよ!裁縫の課題の材料を買いに。」

「そうね、分かったわ。」


令嬢たるものどんなときもしとやかでいなければならない。咎められないぎりぎりのスピードで足早に教室へ向かう。

予鈴の鐘がなる前になんとか教室に着きそうだ。


「ふぅ、間に合ったわね。」

「よかったわ。シャーロット先生は時間に厳しいからね。あ、エレン…」


丁度教室の前で鉢合わせてしまった。


「ごきげんよう、エレン。」

「ごきげんよう、ソフィー。」

「この間はお祝いを伝える間もなく失礼してしまってごめんなさいね。改めてご婚約内定おめでとう。」

「ありがとう。あの日はばたばたしていたものね。」

そのとき授業開始5分前を告げる予鈴の鐘が鳴る。


「あら、もうそんな時間なのね。それじゃあ。」

そう言ってソフィーはいつもの窓際の後ろ席に向かう。


エレンとヴィオラは真ん中の一番前の席に座る。

どこの席に座わってもよいのだが、自由科目では大体真ん中の一番前を陣取っている。


「ね、言ったでしょ。ソフィア様はちゃんとご理解されているって。」

こそっとヴィオラがエレンに耳打ちする。

「そうね…」


ソフィーはいつも誰よりも早く来て窓際で本を読んでいるが、今日はギリギリの入室だ。きっと周囲の目を気にしているのだろう。幾分心は軽くなったが、それを思うと何だかまだ喉のつかえがとれない。


「皆様、ごきげんよう。」

魔法史の担当のシャーロットが部屋に入ると本鈴が鳴る。

「さて今日は精霊についてですね。えーと…教科書の103ページをお開きになって。」


すんなり授業がスタートしたことにエレンは胸を撫で下ろす。午前中はどの授業でも、先生方はエレンの婚約内定について延々として話し、授業の大半がつぶれてしまったのだ。


「さて、皆様よく誤解されているのですが、精霊の力と魔力は別物と言うのはご存じですか?」


生徒達は皆、教科書から顔をあげシャーロットを見る。


「皆様の反応を見るとご存じなかったようですね。」

シャーロットは得意気に微笑む。


「まぁ、このような専門授業でなければなかなか知る機会もありませんものね。この学校の先生方、特に必修科目をご担当されている先生方もご存じないかもしれませんわ。まったく花嫁教育だけしていればよいものではないのです。幅広い分野で知識を得なければなりませんよ。その知識は必ず貴女方の助けになることでしょう。」


この学園は花嫁教育に重点を置いているため、自由科目は軽視されがちで、確かに必修科目の教師は自由科目を下に見ているのである。そのため自由科目を受講する生徒も少ないが、その生徒の中でも積極的に学ぶエレンは自由科目の先生方のお気に入りの生徒なのである。


「さて、本題に戻りましょうか。魔力と精霊の力は似た特性を持つため同一視されがちですが、何が違うのかと申しますと、まず力の源が異なります。魔力は己が持つ力ですが、精霊の力とは自然界に存在するエネルギーのことを指します。目には見えませんが、自然界に存在する膨大なパワーが精霊の力、エナジーと呼ばれるものです。フェアルはそのエナジーを受容できるレセプターを持っているの訳です。魔力は自分が持つ分だけですが、エナジーは無限に自然界に存在しているので力が強大です。その為フェアルは魔力が多いように見えますが、実際にはエナジーを持っているから力が強いのです。」


エルダーが言っていた魔力の定義がどうとかと言うのはこのことらしい。


「この教室では、エレノア嬢とソフィア嬢がフェアルですね。私はソフィア嬢と同じく大地の精霊から加護を頂いておりますの。ソフィア嬢は力を使うときその違いはわかりますか?」

「いえ、今まで魔力とエナジーは同じものと思っていたので意識したことがありませんでした。ただ、緑が豊かな場所だといつもより力が強いとは思っておりました。」

「えぇ、その通りですわ。加護を受けた精霊に由来するエナジーを取り込むのです。緑が豊かな場所には大地のエナジーがより多くありますからね。エレノア嬢は…どの精霊から加護を受けたのか不明なのよね?」

「えぇ、お恥ずかしながら。」

「あまり焦らなくてもよいのですよ。何かの切っ掛けで力が芽生えることもありますのよ。」

「切っ掛け…ですか。」

「えぇ、例えば風の精霊の加護を受けているのに力がなかったけれど、ある嵐の日に力が目覚めたとか、そういったケースもあるのですのよ。あとは、加護を二人の精霊から受けてた場合とかね。」


エレンは背中にヒヤリと汗をかくのを感じた。


「二人の精霊から加護を受けたフェアルのことをデュオと言いますが、そのデュオはどちらか片方の力しか使えなかったり、そもそもエナジーを使えなかったりする場合がありますの。しかし、何かの切っ掛けで力が開花することがあるんです。エレノア嬢もデュオだったりするかもしれませんわよ?」

シャーロットはいたずらっぽい笑みを浮かべる。


「そ、そんなこともあるのですね…」


ぎこちない笑みを浮かべる。

エレンが四精霊から加護を受けていることをシャーロットが知るわけがないのに思わずドキドキしてしまった。


授業は滞りなく進んだが、授業後にシャーロットの研究室に連れ込まれ、婚約内定についてあれこれ聞かれ、いかに魔法学が重要なのかを熱弁するシャーロットに付き合うことになったのであった。


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