11.始まりの夜~デイブ編~(2)
エレンにもし何かあったら…どうしよう自分のせいだ…
頭がくらくらするが、今は一刻も早くエレンを探さなくては。
全速力で弓術場へ戻る。喉はからからで口の中には血の味が広がる。
弓術場内、その周辺をくまなく探すがどこにもエレンの姿がない。
エレン…どこに行ったんだ…
途方にくれていると、背後からエドの叫ぶ声が聞こえる。
「デイヴ!父上の姿も見当たらなかった。母上に聞いたら遅くなるから先に帰るよう言われたらしい。エレンと一緒かはわからないと言っていたが、エレンの馬車を父上が先に帰したようだ。だから恐らく父上と一緒だと思う。」
急いで来たのであろう、エドは息も絶え絶えである。
「本当?でもエレンと約束していたんだ。僕に黙っていなくなるとは思えないんだけど…」
「何か理由があったんだよ。とりあえず会場に戻ろう。みんなお前のことを心配しているから。」
「デイヴ!顔が真っ青よ、大丈夫?」
「うん、リーナ。大丈夫…ありがとう。」
「私たちも会場周辺を探してみたけどいないし、きっとレオナルドおじ様と一緒なのよ。」
「でも、エレンに何かあったんじゃないかって心配で…」
「レオナルドおじ様と一緒なら大丈夫よ。誰もが恐れる業火の雄獅子ですもの。ね、ヴィオラ?」
「そうよ。だからデイヴ、もう帰りましょう。本当にひどい顔色よ」
エドに半ば強引に馬車へ押し込まれた。
馬車に揺られながらもエレンのことをずっと考えていた。そしてその日は眠ることができずに朝を迎えた。
早朝、窓から外を眺めていると、突然シャボン玉が現れた。ポンっとはじけると薄紫色の封筒が落ちた。
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デイヴへ
おはよう。
エレンは昨夜、ずっとレオナルドおじさまと一緒にいたそうよ。
もう家に帰っているみたいだから安心してね。
ヴィオラ
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よかった。エレンが無事で…とりあえずヴィオラに返信をしよう。
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ヴィオラへ
おはよう。連絡ありがとう。
エレンが無事だとわかって安心したよ。
もう家に帰っているってことは、昨夜はどこかにいたってこと?
デイヴィット
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デイヴは白い便箋に返事を書き、封筒には入れずそのまま紙飛行機を折った。
「ヴィオラへ。」
そう言って紙飛行機を飛ばすと、スッと消えた。
デイヴは昔からこんな風に手紙を送るのだ。よくエレンともこうやって手紙交換をしたものだ。
しばらくヴィオラの返信を待ったが、一向に返事がない。
昨日も遅かったし、二度寝したのかな。でも朝一で連絡をもらえてよかった。
眠りにつこうかと思ったが、興奮しているのか寝付けない。
「弓の練習でもしようかな。」
弓矢を背負い、馬に跨がり弓術場へ向かう。
なんて清々しい朝なんだろう。太陽が優しく包み心地よい。昨夜は不安で押し潰されそうだったが、今は心が軽い。
「あれ?」
弓術場に着くと既に先客がいるようだ。
「おぉ、デイヴか。早いな。」
「おはよう。エドこそ早いね。それにしても弓術場に来るなんて珍しいね。」
「ん、まぁな。あぁ、エレンのことなんだが…」
「朝、ヴィオラから連絡があったよ。お父上と一緒だったんだろ?何もなくてよかったよ。」
デイヴは心底安心したように微笑む。
「うん、まぁそうなんだけどさ…」
昨晩はずっと椅子に座っていたため、体がかちかちに固くなっている。まずは入念にストレッチをしなくては。
デイヴは弓を置きストレッチを始める。
「デイヴ。」
「なに?」
「…エレンの婚約が内定した。」
「え?」
「ルーカス殿下との婚約が内定したんだ。そのために昨晩は国王陛下にお会いしていたらしい。」
どういうこと?エレンが婚約?
脳みそに直接冷水をかけられたようにぞくぞくし、思考が停止する。
「ずっと前から婚約者候補だったそうだ。エレンは知らされていなかったようだが。そして昨晩、婚約者候補の中からエレンが選ばれたんだ。」
「エレンが…婚約…?」
「…そうだ。まだエレンの返事を待っている状況らしいが。」
「返事待ちって…イエス以外の選択肢なんて…ないだろ。」
エドは困った顔をして黙ってしまった。
「そっか…」
デイヴはふらふらとした足取りで歩きだす。
「おい!デイヴ大丈夫か。」
「うん…少し一人になりたいから…」
そう言って弓術場を後にする。
先ほどまで晴れやかな気持ちはどこへ行ってしまったのだろう。今は太陽さえも恨めしい。
どかっと芝生へ寝転がる。“どうして” “なぜ”ばかりが頭の中を渦めいたまま眠りに落ちる。起きたらこの悪夢から覚めるのではないかと祈りながら。
「っい!おいっ!デイヴ!!」
エド?…うぅ、頭が痛い。もう少しこのまま寝ていたい…
すると、ズサーと滝のような激しい水がデイヴに落ちる。
「!?何!?」
「デイヴ!大丈夫か?」
「大丈夫かって…何この水?」
「悪い。水量の調整を誤った。ダメなんだ。火の精霊の加護を受けているから、水系の魔法は相性が悪くて。」
「頭痛い…」
「熱中症だよ。こんな日差しの強いところで寝ているからだ。とりあえず水を飲め。」
水を球体にしてデイヴに差し出す。今度は成功したようだ。
冷たくておいしい・・・心なしか頭痛も少し和らいだようだ。
「帰るぞ。歩けるか?」
「うん…」
帰り道二人に会話はない。
城外に出るとデイヴの馬が見える。
「馬で来たのか。後で俺が馬を連れて帰るから、とりあえず俺につかまれ。空間移動する。」
「大丈夫だよ。一人で帰れる。」
「そんなふらふらじゃ振り落とされるぞ。いいからつかまれ。」
エドに強引に腕をつかまれたのであきらめたように目をつぶる。目を開けた時には屋敷に着いていた。
「ありがとう。」
「馬は後で乗ってくるから。」
「ごめん…」
自室に着くと、ベッドに倒れこむ。
エレンが婚約…僕がもっと早く想いを伝えていたら何か変わったのだろうか。ルーカス殿下と婚約か。きっとこの国で一番幸せな娘だろうな。
殿下とは直接話したことはないが、稽古をご一緒させていただいたことがある。弓術・剣術・体術どれも究めていて誰も太刀打ちできなかったっけ。そして偉ぶることもなく謙虚な方だった。エレンは幸せになれるんだろうな。でもエレンの幸せを喜びたいけど、苦しくて苦しくてたまらない。
エレン、君を守れるように強くなろうとしたけれど、その役目は僕ではなかったようだ。




