ジェスカの来訪
「ディー!オクラが逆立ちしてできちゃった!!」
ワサワサと葉を茂らせた緑の茎。
その頂上にオクラが6つ程、しっぽを上げるようになっている。
「オクラは逆立ちしてなるんだ。ほら、固くなる前に収穫させて・・・」
「ディー!アボカドが実にならなかった!!」
「あー雌花と雄花がズレて咲くんだ。複数植えるか、雄花取っておいてくれ。受粉手伝うから・・・」
俺は20mくらいに育ったアボカドの木に脚立をかけて受粉させていく。
アボカドは油断するとすぐでかくなるから狭い所に植えると困るんだ。
最下層にあみぐるみを設置して1日経過。
あみぐるみたちは明日には魔石ができるだろう。
でも作ったのは3体だけだ。
たくさん収穫したいから最下層手前にもぬいぐるみの魔物を作ろうとしたが、「危ないから!」と作らせてくれない。
今日も朝から「ディー!生きてる?!」に始まり、何かする度に「これ合ってる?!」と確認しにくる。
昨日のことがあったからビビってしまうのもわかるけどね。
でも今までできていたことまで怯えてしまうのは良くないだろう。
まぁ、後々考えよう。
俺はミツバチのようにアボカドに受粉させながらこれからの事を考えていた。
しばらくの生活費はあるし、肉もある。
野菜もテオドールの力で育ててもらっている。
もし今避難しているテント地域から追い出されても、ここに住むだけの住居もできた。
魔物を狩ることができれば魔石やミスリルも手に入るだろう。
・・・全部テオドールのお陰だ。
後々考えるとかじゃなくて、もう少しこいつのことも考えるか。
なんせ俺はミツバチくらいの役にしか立ってない。
「ディー!脚立危なくない?!押さえる?!」
「パパさま!ヨルも押さえる?!」
・・・とりあえずこの確認コール程度はウザがらずに答えてやろう。
「坊ちゃん、領主さまが呼んでますよー」
久しぶりの領主さま呼びか。
何かあったのだろう。
「わかった。すぐ向かうよ」
「ディー!僕も行く!」
「パパさま、ヨルも!」
「はいはい、わかったよ」
本当は野菜を作ってて欲しいが、ヨルヨンもテオドールが不安定なせいか昨日からどこか不安そうだ。
安心できるよう一緒に行動しよう。
「ジェスカ・トリンガムがこちらに向かっていると先触れがきた」
質素なテントの中。
お父様が腕を組んで座っていた。
今日こそは貴族モードで対応するようだ。
「確か・・・西側の代表で、お父様たちを嵌めたかもしれない方ですよね・・・」
そんな人がなんでこんな所に。
「あぁ。私が話をするが、ディーとも話をしたいそうだ。同席してくれるか」
「勿論です」
俺も貴族モードで迎えなくては!
「久しぶりね。ミハイル」
豪華な身なりの貴族が来るかと思えば、動きやすそうなフォーマルレディースパンツのおばさんが1人で来た。
パンツというのはズボンのことだ。
女性がスーツとズボンを履いたスタイルをパンツスーツという。
お父様より年上に見えるが、引き締まった尻と太ももがスタイリッシュに収まっている。
体のラインが強調されるパンツスーツの良さを引き出すようにシンプルなコーディネートで、豪華なのは銀色に輝く首飾りと燃えるような赤い髪だけだ。
「・・・よく俺の前に顔が出せたな」
お父様、口調!口調!
貴族モード速攻オフってるよ!
「ご子息が戻ったと聞いてね。・・・貴方がディートハルトね」
「初めまして麗しいマダム。ディートハルト・アペリティフと申します」
「まぁ、きちんと教育が行き届いているのね」
まるで褒めなければ不合格だったような言い草だ。
上辺の言葉だけで評価してくる貴族は嫌いなんだけどな・・・。
「私はこの子と話をするわ。座りなさい、ディートハルト」
「勝手なことを・・・」
「この中じゃこの子が1番まともだもの。貴族の中にはおかしな人もいるわ。でもね、村全体がおかしいのはアペリティフだけよ」
・・・何いきなり俺の領土ディスってるの!
「お父様、ここは私が話します」
一言文句を言ってやる。
それにこのままお父様と喋らせてたらこの人、首飛びそうだし。
殺気だってきたお父様を横目に、俺はジェスカの前に座った。
「お話の前に、マダム。私はこの領土で生き、この人達と共に育ちました。そのように卑下する言動は慎んでいただきたい」
「まぁ、あの坊やが真っ直ぐな物言いができるようになったのね」
あらあらと目を丸くしている。
「あの、とは?」
「貴方が10歳のお披露目式の時、私の息子も出席したの。覚えてるかしら、男のくせに戦闘スキルじゃないのかって言ったあの子よ」
あー・・・あのトラウマボーイか。
「あの後屋敷に押しかけたミハイルがあの子の腕を切り落としてね・・・最近やっとカウンセリングが終わってメラニア大陸の学校に通ってるわ」
「・・・・・・それはご迷惑をお掛けしました」
カウンセリングしないといけないくらいダメージ与えたの?!
10歳の男の子に?!
何してるのお父様!!
「そんな顔しなくていいわよ。腕はもうくっついてるわ。あの子も関わってはいけない人種がいる事を身をもって経験しただけ。貴族なら乗り越えねばならない試練よ」
うちの家族がとんでも人間のように言われているが、実際そうだから反論できねぇ。
「早速ですが用件を伺いたい。マダム」
「ジェスカでいいのに。用件ね・・・昨日主都の貴族を殺したでしょ。あの後始末にミハイルの首を差し出せと言われたわ」
「それは・・・」
次から次に犠牲者が・・・。
「欲しかったら取りに行ったらいいじゃないって言ってあるから、余程のバカじゃなければこの話は終わりね」
・・・んん?
余程のバカじゃなければ襲ってこないの?
お父様ってそんなにやばいと思われてるの?!
「それより、貴方がやった領土侵犯についてユグドラシルに上がっていたわ。ご覧になって?」
あのパソで見た編み物とおやつタイムか。
「ええ。こちらとしては意図していない挑発行為と捉えられてしまいましたね」
「あの後すぐに新しい情報提供があったの」
スっとあの丸いパソを起動させた。
『おおお!気持ちぃぃ!!!』
ザバーーーン!!と川遊びをするエスロットを初めとするムキムキな自警団が全裸で映し出される。
「「ぶはっっ!!」」
テオドールとエスロットが同じタイミングで噴いた。
「あら、間違えたわ。もっと最近のを・・・」
ピコピコと画面を押す。
いや、なんで何事も無かったように振る舞えるの?!
「マダム・・・今のは・・・」
「あぁ、ベラルーラ国が残滓スキルを使ってアペリティフ周辺に立ち入った者を晒しているの。あら?こうだったかしら・・・パソは苦手だわ」
うーんと唸りながら画面をポチポチしている。
どうやらパソの操作に慣れていないようだ。
というか、晒し方酷すぎるだろ!
ユグドラシルにNG表現はないのか?!
やばい。
あの割れた腹筋でポージングした絵面がやばすぎる。
なんで高画質高音質であんなの流すんだよ・・・。
思い出すだけで肩がプルプルする。
「あ、あったわ」
ポチっと押すと、青白い画面に鮮やかな色が広がる。
『ベニチェア王国より放送。私はアナリーゼ・ヒューム』
げっ!アナリーゼ!
生きてたのか!
ベニチェア王国では散々俺を目の敵にした無能外交官が大画面で映し出された。
『突如現れた魔王ドゥールバルトによって我が国は危機に瀕しています。
男たちは冒険者になるなどと身勝手な主張をするようになり、国を飛び出す者が後を絶ちません!
それもこれも、魔王が男たちを洗脳したためです!!』
「へぁ?!」
俺が洗脳しただと?!
ベニチェア王国の男たちを?!
『そして我が国の宝、空間作成のアイテムを強奪し、オリビア姫の婚約者であるテオドール様を攫っていったのです!
女王を殺し、オリビア姫を殺し、王位継承権のあるテオドール様を洗脳した魔王!
それが魔王ドゥールバルトなのです!!』
「はぁぁ?!」
空間作成の腕輪は俺のだっての!!
それに誰が誰を攫っ・・・え?!
え?!ちょっと待って!
女王と姫さま・・・死んだの?
『そしてこれが魔王の真の姿です。ご覧下さい。
「・・・許さん・・・絶対に許さん!・・・ぇ・・・ガガガ!!・・・ぐぁあ!・・・」』
俺が叫んだ後、魔王が現れている。
まるで怒りによって俺が変身したかのような光景だ。
だがちょっと待って欲しい!
小さく「え?」って言ってるし!!
俺、その時吹っ飛んでた被害者だから!!
『魔王の魔力により映像が乱れていますが、これが魔王ドゥールバルトを名乗る忌むべき存在!
【ディートハルト・フェンターク】なのです!
この動画こそ、ディートハルトが魔王である揺るぎない証拠であります!
この騒動で隣国カタラーゼの影使いのエルメルド、武僧のハルザックが殺され、
さらに、国境沿いのカタラーゼ兵も殺されました!!』
誰だよ?!!
初めて聞く名前ばっかだぞ!
影使いって、あの紳士っぽいやつか?
ってことは、武僧はそばにいたムキムキか。
どっちも殺したのはボーンドラゴンだし!
それに国境沿いのカタラーゼ兵だと?!
そんなのいつ・・・あ!あの隕石か!!
『世界の脅威であります!
魔王退治のため、直ちに勇者を募ります!
魔王をこの世から葬り去ること。
それが次期国王であるラザニール様の婚約者である私の使命なのです!!』
「・・・・・・ふっ」
殺しとけばよかったぁぁぁ!
つーかラザニールって誰だぁぁあ!!
「これはあとで祭りだな」
「また酒取ってこないとっすね!」
俺が頭を抱えている横で、お父様たちは楽しそうに笑っている。
「お父様・・・もう少し現状を重く受け止めてください」
「何を言う!ディーの魔王デビューなんだぞ。あぁ、マーサ!息子はこんな立派に育ったぞ・・・」
やめて!涙ぐんで祈らないで!!
止めにくいから!!
「それに・・・あの男が死んだ記念だな」
「え?」
お父様の声は笑っているが、顔が見えない。
ずいっとラースが俺の前に来た。
「坊ちゃん。昨日してくれた坊ちゃんの話と合わせると、女尊男卑を敷かれていた男たちが冒険者として逃げたのも全部坊ちゃんのせい!ってことっすか」
「あ、ああ。そうなるな」
「坊ちゃんやりますねー!」
笑いごとじゃない!
あのエプロン装備の男たちが冒険者として逃げ出したってことだろ。
それちゃんと家事分担してないからじゃねぇか!
「とりあえず笑えないのは女王と姫さまのことだ・・・メルリオーネは何してたんだよ」
あとは任せろとか言ってなかったか?
・・・言ってなかったな。
心配だ。
「うーん。ドット兄様が一緒に行動してるはずだから連絡入れてみる」
「頼む」
テオドールが光を床に放る。
「そしてこれがベラルーラ国の返答動画よ・・・えーと、これかしら・・・」
ポチっと画面を押すと、渋いおっさんが出てきた。
『カタラーゼ国公安部より放送。首狩りのフェンタークにより、我が国の英雄がこの世を去った。首狩りのアイザックですら適わぬ相手だ。災害級対応として、決して手出ししないように。
その時の映像だ。
「おおぉぉおお!!」
「くっ・・・この!」・・・』
ガシャン!!
ミスリルの剣を光らせたお父様がパソを破壊し、ジェスカに刃を突き立てていた。
「・・・おいジェスカ・・・わざとか?」
「ほんとキレやすいんだから。私じゃなきゃ死んでるわ」
ジェスカの首飾りが形を変え、魔法陣を展開して刃を受け止めている。
え?!お父様どうしたの?!
なんでキレてるの?!
「20年以上も前の事だというのにまだ残っていたのか」
「仕方ないでしょ。ユグドラシルに1度上げた動画は削除できないの」
ジェスカが足を組んだままお父様を見据えている。
1度上げたら削除できないのか。
・・・ってことは、あの『ムキムキ動画』も削除されずに人目に晒され続けるのか。
いや、いま考えるのはよそう。
シリアスな状況で考えることじゃない。
「お父様、話を続けますので・・・」
「・・・チッ」
お父様が刃をしまう。
青白く光るネックレスから光が収まり、元の形状に戻っていった。
魔力を帯びると青白く発光する銀色の物質・・・。
もしかして。
「マダム、それはミスリルですか?」
「そうよ。我が家に代々伝わる【護りの首飾り】。ミハイルの持ってる剣と同じく希少なアイテムよ」
クイッと持ち上げれば、雫型の飾りがしゃらりと揺れる。
魔法付与ではこんな風に物質が変形したりしないはずだ。
ミスリルにこんな使い方があるのか。
魔物を倒して手に入れたら色々試してみよう。
「それより、パソが壊れてしまったわ」
ジェスカの持ってきたパソが真っ二つになって床に転がっている。
「代わりのパソで見れないかな。ラース、持ってないか?」
「あるっすよー。ちょっと待っててくだせぇ」
ラースが鞄からパソを取り出し、画面をいじる。
「壊してしまって申し訳ない。今は持ち合わせがないが、いずれ弁償させてもらうよ」
お金ないから誠意だけ受け取ってね!という貴族用語だ。
「・・・それならミスリルを売ってもらおうかしら」
「え?!」
ジェスカの瞳が俺を真っ直ぐに捉えている。
どこでバレたんだ。
ミスリルは・・・多分明日魔物を倒したら多少は手に入ると思うが、でもどのくらい手に入るかわからないし・・・。
「それは・・・」
「・・・まあ!まさかほんとにミスリルのツテがあるのね?!」
「・・・・・・」
カマかけられてたーーー!!
くっそう!だから貴族は嫌いだよ!!
「ねぇ!売ってくださるわね!今までの支援に援助!恩を盾にする気はないけど、私を優先してもいいわよね?」
めちゃ盾にしてますやん。
「・・・いずれまた・・・追々考えます」
「何なら今すぐ必要な融資もするわよ?」
「食料はこちらでどうにかなった。金もある」
ドヤっとお父様が会話に割って入る。
「ふーん、そう。なかなかのやり手なのね」
俺を上から下までジロジロと見る。
値踏みしてるところ悪いが、全て誤解だ。
俺はミツバチ程度の仕事しかしていない。
ニコニコと話をするが、そういえば何故ジェスカはお父様たちを騙してウォルトア大陸のダンジョンに潜らせたんだろう。
「1つ教えてください。なぜお父様たちを騙してダンジョン探索なんてさせたのです?」
「あら、あれはミハイルを逃がそうとしたのよ。お嬢ちゃんがウォルトア大陸にいるのは知ってるわ。だから片道代だけでそのまま出られなくしようとしたのに・・・まさか暴れて帰ってくるなんて」
また犠牲者か。
そういえば踏み倒してきたって言ってたっけ。
それより、
「シェリー・・・ウォルトア大陸にいたのか」
じゃあやっぱり中級ダンジョン壊滅させた女の子はシェリーだったのか?
あの時・・・近くにいたのかな。
「余計なことを言うな」
ずいっとお父様が前に出る。
「あら、とっくに主都にもバレてるわよ。だから昨日求婚の報せが届いたんでしょ?」
「ふん、求婚だと?戦闘スキル欲しさに決まっている。しかも貴族と言っても前線となった領地の貴族だぞ。・・・シェリーはもう戦争へは出さない」
お父様の手は握りこまれ震えていた。
10歳で戦場に残してきてしまった妹。
もう14になるのか。
「だからって求婚した貴族ごと殺すことないのに・・・」
はぁーと頬杖をつくジェスカ。
俺もお父様がなんで恐れられてるかちょっとわかった気がする。
犠牲者多すぎだろ・・・。




