ここは鍛冶屋
「おっちゃーーん!きゃくーー!」
エールが叫ぶ。この子はいつになったら礼儀を覚えるのやら・・・。
ここは鍛冶屋。中からはとてつもない熱気とガンガンと鉄を打つ音が響いている。
騒音の中から目当ての人が出てきた。
「おードル爺んとこのガキどもか。どうした、鍋でも壊したか?」
はははと大柄なおっさんが笑うと綺麗に割れた腹筋がシャツの下で動いているのがわかる。
「そんなんじゃねーよ。おっさんに客だって」
すっと身を引くと貴族様が一歩前に出た。
「初めまして。テオドールと申します。実は作っていただきたいものがあり・・・」
・・・いやいやいや待てよ。
ここで荷物を出すな!
ドア塞いでるからな!!
まだ若そうだし、箱入りのボンボンだったのかな。
「テオドール様、ここで商談をされては人目がありますゆえ、そちらの応接室をご使用ください。そして、案内をした我々はここでお役御免にございますので、施しをいただければ幸いにございます」
「あ、そうなんですね。ではこれで・・・」
財布から出したのは金貨1枚。
・・・は?こいつどんな金持ちなの?
普通銅貨2枚が相場だろ。
金貨1枚あれば俺の服何着買えるんだよ。
肉だって奴隷商の全員食える量が買えちゃうよ。
やや引き気味に金貨を受け取り、俺とエールは回れ右でドアに向かった。
「ちょっと待て」
小声で俺の肩を掴む鍛冶屋のおっさん。
「なんすか。俺らこの後買い出しにも行くんすけど」
「いやいやいや、無理。あんな金貨ポンと出すような大貴族と商談とか無理だから」
大柄の体を屈ませながら俺の肩をガタガタ揺らす。
「お前が連れてきたんだからな。ちょっとそばにいてくれるだけでいいから、お金出すから」
貢ぐ女みたいなセリフは美人なおねーさんから聞きたかった。
でも駄賃をもらえるのは好都合だ。
エールを奴隷商に帰らせ、俺とおっさん、貴族様は向かい合う形でソファーに座った。
「テオドール様はこちらの鍛冶屋に材料持ち込みで【作成】の依頼をしにいらしたのですね?」
俺がそう切り出す理由は、先ほど何かを取り出そうとする様子だったから。
ここには【作成】【錬成】関連のスキル持ちが多くいる。
俺のように【糸作成】なら服飾系の職に、鍛冶屋なら【鉄錬成】なんて炉を使わないスキル持ちもいる。
ここはできる仲介人の振りをしてこの場を乗り切ろう。
もし機嫌を損ねれば、最悪処刑なんてこともありうる。
「あ、はい。そうなんです。これをぬいぐるみにして欲しくて・・・」
鞄から取り出したのは銀色に光る鉱石だった。
ーーん?言い間違いか?
「はい。こちらを【錬成】スキルで、像を作れと・・・」
「いえ。ぬいぐるみです」
・・・んん?
この場にいる三人が可愛く首を傾ける。
「・・・申し訳ありません。もう一度依頼内容をお聞きしても?」
「はい。この鉱石を使って、ぬいぐるみを作って欲しいんです。ふわふわの。リスのぬいぐるみなんて良いですね」
貴族様は笑顔で言い切った。
「・・・そうですか、少々お待ちください」
俺はおっさんと共に席を立った。